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消費者行政のこのスピード感についていけるか?

森田 満樹

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 今週に入って消費者庁・消費者委員会の人事に大きな動きがあった。16日、消費者委員会の10人目の委員に、消費者問題に長年携わってきた弁護士の山口広氏が選任された。翌17日は、消費者庁が「健康食品の表示に関する検討会」を開催することを発表し、そのメンバーが明らかになった。この先、食品表示行政はどうなるのか。食品事業者はどう対応していけばいいのか。実はこの疑問に答えるような講演が、17日、日本食品添加物協会主催の研修会の場において行われた。演者は、消費者庁食品表示課の平中総括課長補佐だ。

 9月に発足した消費者委員会は、定員10名のところを9名でスタートし、残り一人の椅子に誰が座るのか、その行方が注目されていた。これまで消費者2人、事業者2人、学者3人、弁護士1人、メディア1人という構成で、消費者団体からもう1人かと個人的には思っていたのだが、16日、消費者委員会の新たな委員として山口弁護士が任命された。山口氏は「早くから消費者問題に取り組み、宗教トラブルなどの被害者救済の第一人者として活躍している」そうである。

 消費者委員の中村雅人弁護士もそうだが、悪徳事業者と闘う弁護士は、消費者団体はもちろん、消費者相談員に絶大な人気がある。相談員は、犯罪がらみの悪徳商法事業者に騙されている消費者から、毎日のように相談を受けている。その数は後を絶たず、その手口はますます巧妙になっており、事業者は敵であるという思いは長年にわたって醸成されている。消費者団体や消費者相談員にとって、中村氏や山口氏はまさに正義の味方であり、消費者委員として相応しい人選なのだろう。今後の消費者委員会の議論がますます、消費者VS事業者の構図が浮き彫りになりそうで、また一歩、「消費者と事業者の健全な関係」が遠のいた感がある。

 一方、消費者庁は17日、「健康食品の表示に関する検討会」の開催を発表し、検討会のメンバーを発表した。構成員は13名で、こちらは神山美智子弁護士が入っている。弁護士、消費者団体、事業者、学者がバランスよく配され(なぜかメディアはいないが)、活発な議論になりそうである。この検討会は、エコナ問題をきっかけに「そもそも特定保健用食品(トクホ)は消費者の立場から見てどうか、健康食品全体について見直ししてはどうか」と消費者委員会で議論が行われ、福島瑞穂大臣がこれに答える形で10月21日、記者発表の場で「消費者の立場からこの問題の論点整理が必要」と検討会の立ち上げについてコメントし、今回の発足に至ったものである。第1回目は11月25日に開催され、今年度中に結論をまとめる予定だという。

 消費者庁発足以来、トクホの審議は止まったまま、検討会まで作られてしまって、ますます認可が先延ばしされるのでは、と心配される事業者も多いことだろう。一方で、民主党・社民党のマニフェストにある原料原産地表示の拡大はどうなるのだろうか、JAS法の品質表示基準の見直し作業もすぐに手をつけなくてはならないのではないか、遺伝子組み換え食品の表示制度は見直さないのか—-。消費者庁に移管された食品表示行政は、様々な課題を抱えている。今後どうなるのだろうか?

 そんな疑問に惜しみなく答えてもらったのが、17日に開催された日本食品添加物協会秋季特別研修会のプログラム中における「消費者庁設立後の食品表示業務と食品表示制度の今後の展開方向について」と題する、消費者庁食品表示課総括課長補佐 平中隆司氏の講演である。その内容を以下、抜粋して紹介する。

 9月1日に消費者庁が発足後、非常に注目を集める存在になってきている。特にエコナ問題では、消費者庁はSOSプロジェクトを立ち上げて、短期間でトクホの再審査という結論を出した。これまでのプロジェクトは役所主導だったが、今回のプロジェクトは政治主導で、名称も大臣の指名だった。政務官が毎日やってきて、遅くまで議論を行い、まさに日々の業務が政治主導で行われており、それが新鮮であった。このスピード感は大変なもので、これまでの役所には無かったことである。現在行われている仕分け作業も1時間で決まってしまうのかと、皆さんもびっくりしていると思うが、本当にあっという間に決まる。そのスピード感を今回S0Sプロジェクトで学んだ。

 この中で検討事項として挙げられた議論が続いており、このほど「健康食品の表示に関する検討会」の開催が決まった。これはエコナの問題をきっかけに、トクホってどうなの?という意見が出てきて、先日も新聞でトクホはいらないと主張する大学の先生のインタビュー記事が紹介されたりして、この制度が本当に消費者のためになっているのかどうか、健康食品の現状の把握と課題の整理なども含めて議論を始めようということになった。

 大臣から消費者庁に検討会を設置するという話があり、実は本日3時にプレスリリースを発表する。第一回目は来週開催され、年度内に論点整理をするということになる。スピードがとても早い。厚生労働省は5年前に発足し3年かかって議論した。それが今回、大臣から「急いでやってくれ、今年中に結論が出るか」と言われ、それを何とか今年度中までということで計画している。新しい政権は、急いで議論して急いで結論を出す、これが進め方になっている。

(続いて消費者庁と消費者委員会の構成と役割の説明、関連法律の移管、消費者安全法、食品表示における国際ルール遵守の重要性について解説が行われたが割愛)

 食品表示の分野について、今後どのような施策を行っていくのかを握っているのは、消費者委員会となる。消費者委員会は、食品だけでなくほかにもたくさんの役割を担っているので、その下に部会を設置することになっていて、現在人選が進められている。特別用途表示については、新開発食品調査部会において、専門的事項の調査審議を行う調査会を二つ設置することが決まっている。トクホについては一つも許可が出ないということでお叱りを受けているが、部会、調査会が出来次第、これまで止まっていた許可を再開する。

 もう一つ、食品表示の部分も下部組織をつくって議論したいが、先ずは組織を作らなくてはならない。ここでの組織が部会だけなのか、調査会なのか、8月の参与会で議論が行われたが、はっきりと結論が出ていない。いずれにしても消費者委員会の下部組織を早く作って欲しいと言っている。こちらを慌てている理由は、この11月にチルドハンバーグなどのJAS規格の改正が農林水産省で行われているが、その規格と表裏一体である品質表示基準の見直しに着手する必要があるからだ。また、今年5月に食品安全委員会で安全性が確認された遺伝子組み換えパパイヤについても、品質表示基準の手続きを行わないと、いつまでたっても輸入ができず貿易摩擦となる。まずは手続きや方針を議論してもらってから進めてもらいたいと思っている。

 食品表示の見直しについて、具体的に何からやるのか、これは消費者委員会が決めることだ。先日も毎日新聞にも掲載されていたように遺伝子組み換え食品の議論があり、クローン牛もある。トランスファットか、原料原産地か、栄養成分表示の義務化か、アレルギー表示品目を増やすのか、様々な意見がある。どれも皆重要だが、一斉にやるわけにはいかないので順番をつけなければならない。これは消費者委員会で議論してもらうことだが、もしかしたら大臣の一言で決まるかもしれない。われわれもどうなるのか、先が見えない。

 個人的な意見だが、もしあるとすれば、これまで45回開催されてきた食品表示共同部会の議論の中での原料原産地表示の議論だろう。大括り表示など検討が行われてきたが、その続きをやるのかなと考えられる。民主党・社民党のマニフェストにも明記されており、先日も農林水産副大臣が原料原産地表示をやると言っているようで、それがこちらに伝わってきたりしている。これがどうなるのかは、消費者委員会の意見、下部組織である調査会の人選、国会の議論、大臣の発言など、実に様々な要素で決まってくるだろうと思われる。今後、注目されるところだろう。

 事業者の皆様にいつもお話するのは、消費者委員会は消費者庁から飛び出して独自の権限を持っており、ここでの議論が我々の政策に直接跳ね返ってくるということだ。食品表示はこの方々が最後にどうするのかを決める、ということに変わりない。消費者の力が強くなって、事業者の言うことなんて聞いてくれないと言われるが、幅広に意見を聞く場は設けるつもりである。ただ、意見は聞くが最後に決めるのがこの方々であることは変わりない。事業者の皆様にとっては遠い存在であるかもしれないが、そんなことを言っていてもしょうがないし、対立を深めても解決しない。

 消費者委員会で決まったことについて、いくらけしからんと言われても、我々は消費者目線で行くことには変わりは無い。今回、新しく委員に選ばれた山口委員も弁護士で、消費者目線が色濃く出ている組織だと思う。事業者の皆様に提言できるとすれば、消費者団体とのコミュニケーションをとる努力をしてほしいということだ。事業者が億劫になってはいけない。一生懸命説明すれば通じるものがあると思う。

 もう一つは消費者団体、行政のスピードが変わってきていることを自覚して対応してほしい。エコナ問題に揺れた一週間は、多くの消費者団体は活発に動いてアプローチを行っていた。かたや事業者からは誰からも話は無かった。トクホはいらないのか、と思ったほどだ。消費者団体の方が一歩進んでいる。その後、事業者からは様子を見ていたというようなコメントが後からあったが、何も動かなければわからない。様子を見ている場合ではなく、もっと素早い対応が必要である。

 消費者委員会の中にも事業者はいるわけだから、欠席している場合ではない、事業者としてやることはまだあると思う。今回の健康食品の表示に関する検討会は、事業者と消費者、学識者のバランスが良くなるように選んだつもりである。ここで事業者の発言もきちんとして欲しいと思う。今は消費者団体のほうが、動きが速い。来週にも消費者団体はシンポジウムをやるが、事業者側からはそういう話は聞こえてこないのが実状だ。

 原料原産地表示も、農林水産省の副大臣がやるといっているので、本当にやることになるだろう。消費者庁としては、原料原産地をやらない理由は無い。もしかしたら、ものすごいスピードでやるかもしれない。必要に応じて、事業者の声をあげていくことも必要である。消費者庁はこれまでよりも敷居が高いというような声もあるが、時間の許す限り対応していきたいと思っている。

 以上が、講演の抜粋である。

 そうそう、質疑応答の中でも「事業者の方々のお話はお伺いしますので、話題の山王パークタワーにお越しください」というお話だった。確かに、これまでの役所とはずいぶん違うようである。講演内容もずいぶんと本音でお話頂いているように思う。それにしてもこのスピード、読者の皆さんはついて行けそうですか?(消費生活コンサルタント 森田満樹)