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福島大臣の「他省庁でやれないことをやる!」は、どこまで「やる」のか?

森田 満樹

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 消費者庁の「健康食品の表示に関する検討会」の第3回目が14日に開催され、消費者団体、業界団体の3団体からのヒアリングと、特定保健用食品(トクホ)のあり方についての議論が行われた。前回のヒアリングでは「いわゆる健康食品の問題点」が中心だったのに対し、今回はトクホが中心。これまでのヒアリングの中でトクホ廃止とした極論はなかったものの、見直す項目として、表示のあり方、再評価のルールづくり、用途拡大、有効性の情報公開、国際的動向との整合性、広告のあり方、条件付きトクホの廃止、新カテゴリーの提案—等の論点が挙げられた。特に有効性に関する表示について、薬事法抵触の観点から歪められていることから、その見直しも論点の一つとなった。

 昨年11月25日にスタートした「健康食品の表示に関する検討会」の第3回目。 ヒアリングの1人目はNPO法人日本消費者連盟の山浦康明氏。健康食品全体の問題点を指摘したうえで、特に「いわゆる健康食品」については健康被害、消費者被害を防止するため薬事法を厳正に適用すべきと述べ、健康食品の概念そのもの、販売を認めること自体が問題であるとした。また、栄養機能食品については過剰摂取の可能性があり、医薬品との相互作用の恐れがあるという問題点を指摘し、一般食品として販売することに反対との姿勢を示した。さらにトクホについては食品安全委員会の安全性評価は体内動態などの毒性学の視点や人間栄養学の視点からの検証が行われておらず、慎重な評価を行うことを求め、一定期間ごとに再評価する仕組み、緊急時の許可取り消しの仕組み作りが必要とした。条件付きトクホは不当表示を野放しにすることから、制度撤廃。今後は表示制度の一元化、規制の統一ルール表示違反に対する制裁強化を求めた(各意見書の詳細は消費者庁ホームページを参照)。

 2番目のヒアリングは社団法人消費生活アドバイザー・コンサルタント協会(NACS)の蒲生恵美氏。NACSは筆者も所属している団体である。今回提出した意見書は、トクホ制度の提案、「いわゆる健康食品」への提案、消費者教育の充実などで構成されているが、ヒアリングでは、トクホの表示について焦点を絞って説明が行われた。まず今回のエコナ問題について「トクホなのに安全性の問題を起こすのは何事か」という非難が中心で、トクホの有効性や安全性の程度が正しく認識されていなかったことが根底にあることを指摘。期待が大きい分、問題が大きくなった時の裏切られ感が出てしまうことを説明したうえで、現在のトクホ制度では機能性の程度が正しく伝わらないことが大きな問題点であると述べた。このことが広告表現のつけいる隙にもなっていることから、今後は、機能性の程度が伝わる表示として「どの程度(期間)利用すれば」「どういう人に」「どのような効果(保健機能)」が期待できるのかの3点をポイントに、トクホの機能性の程度が伝わる表示の検討を要望した。

 3番目のヒアリングは健康食品産業協議会の木村毅氏。健康食品に関する業界団体は現在8団体あり、合計で1400社(重複含む)が所属している。健康食品産業協議会はこの8団体の間の連携を深めて意見を統一する組織として設立された。最も大きい団体は財団法人日本健康・栄養食品協会で、いわゆる健康食品のジャンルについてJHFAマーク認定制度を運営している。同制度の表示許可商品は518品と市場の約7%で、会員企業以外に対しては強制力がなく、販売方法まで規制していないといった問題点がある。なお、安全性については「いわゆる健康食品の安全性評価ガイドライン」の業界統一案を作成して現在、認証機関を準備中の状態である。また販売後の状況把握の調査として、コエンザイムQ10の販売後の大規模アンケート調査を約2年間行っており、その結果を近日公表するという。

 健康食品産業協議会を構成する団体の要望をまとめると、健康食品の仕組みづくりに関する期待として、(1)健康食品全体を包括した法的な枠組み(2)劣悪品取り締まりの仕組み(3)科学的エビデンスに見合った表示ができる仕組みなどを要求。また、トクホ制度については、(1)消費者に分かりやすい保健用途の表示文言とする(2)許可となった根拠について科学的判断を公開する(3)有効性あるいは安全性に関する科学的情報の公開(4)国際的な流れに適応した用途の拡大などを提案した。最後に将来への期待と展望について、健全な市場の育成のために、健康食品に関する仕組みの改善に積極的に関与していきたいと展望を述べた。

 第2回目のヒアリング内容は問題点が中心だったが、今回は制度に関する様々な要望が盛り込まれているのが特徴的であった。ヒアリングの質疑応答、その後のディスカッションの論点は大まかに以下のとおり。

・トクホの制度は当面必要だが、一定の再評価のルールが必須。

・安全性評価について、企業のデータでよいのか、国がどこまで関与すべきか。緊急の問題が出たときにどう対応すべきか。

・エコナの問題に見られたジアシルグリセロール(DAG)のように食経験が無いものについて、トクホの安全性評価は同じでいいのか。

・栄養機能食品について過剰摂取の問題をどうするか。

・機能性をFOP(前面)表示することの提案(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会)について、栄養成分の表示と機能性表示のどちらを優先するか。

・限られたスペースで表示に自ずと限界がある場合、それを補完する意味での情報提供は何が考えられるか。

・JAHAマークの許可商品が非常に少ない。中小企業で足並みを揃えるのが難しい中で、公正競争規約による運用で強制力のあるものにし、業界をどうまとめるのかが課題。

・健康食品の包括的な枠組みとなる新カテゴリーの提案として、トクホを拡げるというオプションがある。それ以外の劣悪なものは、取り締まりを強化してほしい。

・JAHAマークの意味をきちんと理解してもらって、最終的には統合システムで包括的に考えられないか。その場合の機能性をどう融合させるのか、表示の問題もある。

・JAHAは広告に規制がないことが問題。ひどい広告のものは取り消すべき。

・科学的エビデンスを表示できるようにというが、科学的エビデンスというと聞こえはいいが、いわゆる健康食品でどの程度データベースがあるのか。

・エビデンスが無いものは無いと表示する仕組みを検討してはどうか。

・海外事例を参考にして、どこに評価基準を合わせるのか。

・トクホの審査については有効性の評価は緩いのではないか。血糖値、血圧に関する審査では、もしそのとおりの効果が期待できなければ次のイベントにつながりかねない。トータルで検証されなければならない。

・トクホ審査が甘いのは、制度が始まった当初は申請がほとんどなく、企業側に申請をお願いしたという噂がある。その後は試行錯誤で、食品安全委員会か出来てからは、それ以前のものと比較という問題も出てきた。そういうことで制度を緩くしたという歴史がある。

・有効性について、RCT一回くらいでは無理で、データを積み重ねをして系統的なレビューを行いメタアナリシスが必要。

・効果の判断について、条件付きトクホのようないい加減なエビデンスのものを認めるべきではない。

・トクホの成分で一緒に食べたものがそのまま便になるようなものが、食生活の改善に役立つといえるのか。

・トクホの手続きについて、先日の委員会で個別の効果の評価については非公開となっているが、透明性という観点からどうか。できる限りの公開は必要ではないか。

・効果の表示について、もっと分かりやすく消費者に伝えないといけないという議論が出ている。消費者が期待している機能性の表示は、薬事法に抵触しないかというかどうかということで歪められた表現になっている。この際、大事なことはきちんと議論して、機能性をきちんと見直したうえでどう表示できるのか、薬事法の関連だけで表示が決められることを見直すべき。

 以上が当日の検討会の概要だ。検討会は最終的に報告書を出すまで、まだ4回の議論がある。次回は個別テーマの分析として海外事情、消費者相談の現状、消費者への情報提供方法などが議論され、残りの3回で論点整理が行われる予定だ。検討会は全部で6回の開催予定だったが、論定整理に時間をかけることから、1回増えて7回となることが今回決まり、本年3月中旬まで行われることになった。

 この検討会終了後、消費者委員会がこの問題をさらに検討することになる。事務局側はこの検討会の位置付けを消費者委員会の議論の前の第一段階の議論として論点整理を行うものとしている。一方、消費者委員会は消費者庁に意見を述べる役割を果たすものだが、最終決定は消費者庁が行うことが原則となっており、検討会終了後の議論の行方も注目される。

 ところで、この検討会は福島瑞穂大臣が「トクホ制度は必要か、根本的に見直しが必要」ということで、確か議論が始まったと記憶しているのだが、蓋を開けてみると、当然のことながらトクホだけの問題ではなく、健康食品全体の大掛かりな検討になってきた。当初はトクホ廃止論という極端な話もあったようだが、この問題、よく考えればそんなに単純に片付く内容ではないことが、これまでの検討会の内容でも分かる。

 いずれにしても今回の議論だけをみると、トクホは継続するが、その内容はかなり変容することになりそうだ。今後厳しくなるのか、拡大するのか、どこで線引きをひくのか。消費者からみてトクホの表示はどう変わるのか、表示のため薬事法までいくのか。広告は見直されるのか。いわゆる劣悪な健康食品の被害が取り締まりによって、本当に減るのか。消費者庁ができた当初、福島大臣は「他省庁でやれなかったことを消費者庁はやる!」としてSOSプロジェクトを立ち上げ、司令塔の役割をアピールしてきた。この問題、どこまで本当に「やる!」のだろうか。その行方を注目している。(消費生活コンサルタント 森田満樹)