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多幸之介が斬る食の問題|長村 洋一

グルタミン酸はやっぱり頭を良くする?

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2008年5月21日

 今月の連休中に女子栄養大学で開催された第62回日本栄養・食糧学会大会における「うま味の基礎研究から高齢者のQOL改善への利用」は大変興味深いシンポジウムであった。内容は、食品添加物のうち、いわゆる「化学調味料」と言われて、食の安全を考える一部の人たちから極端に毛嫌いされている「うま味調味料」に関する様々な角度からの話題提供であった。全体としては「うま味調味料」の発見から、その生体にとっての意義に関するもので、うま味物質に対するレセプターの存在とその機能の説明など非常に印象深かった。最後の山本茂教授(お茶の水女子大)の「高齢者QOLの改善におけるうま味調味料の利用」は会場の多くの人にどよめきを起こさせる感すらあった。

 山本教授は、高齢者は食思、および摂食量の低下が原因となって栄養状態が悪化、結果としてたんぱく栄養改善療法の適用を受けるケースが多いが、治療対象者の病院における病院食のグルタミン酸濃度が、通常の半分程度であるとの調査結果を明らかにされた。その不足の原因の一つとして、病院の食事に化学調味料はいけない、というような考え方があるためかもしれないと述べられたのは印象深かった。

 その不足したグルタミン酸を、食事に添加する形で高齢者の入院患者に投与された。結果の判定は30日、60日に血液検査およびビデオ画像の行動観察による主観的評価方法で行われた。血液検査では血中リンパ球の増加、血清亜鉛値の上昇が有意位に認められ、画像による主観的評価では、認知スコア、食行動、意欲の表現、言葉による意思疎通の向上が確認された。

 ビデオ画像の場面が紹介されたが、生気のないお年寄りが、添加食を60日間食べた後に、生き生きとした表情に変化している場面に多くの聴衆が目を見張った。写真は表情であるから撮り方ということもあり得るが、そのほかのデータと併せて考えるとき、その場面は素直に納得できる場面であった。

 ここで、示されたのはグルタミン酸の有する効果の素晴らしさであった。そして、今回観察された結果には、科学的な裏付けとなるいくつかの根拠が存在する。私は1960年に一大ベストセラーとなった慶応義塾大学の林髞先生が書かれた「頭の良くなる本」を思い出した。林先生はイヌの条件反射で有名なPavlov博士の所へ留学され帰国後、脳内神経伝達物質としてのグルタミン酸の重要性を分かりやすく書かれた。

 その書物に一本筋を通して語られていたのは、グルタミン酸が脳神経の活動を豊かにしてくれるという事実であった。その結果、当時の貧しい食生活の中でまずいものをおいしく食べさせてくれる “化学の勝利としての”調味料は、さらに頭を良くするすぐれものになった。そして、日本中の多くの人がグルタミン酸ナトリウムを大量に摂取していた。

 そのブームの時には何も起こらなかったが、その数年後にSchaumburgらがグルタミン酸ナトリウムを空腹時に多量に摂取したとき、感受性の強い人に灼熱感、顔圧迫感、胸痛、頭痛などを主徴とした症状がおこることが報告し、中華料理店症候群(CRS)と命名した。この報告は後に追試験が行われ、学問的にしっかりしたレベルで否定されている。しかし、Schaumburgらの報告をきっかけとして、グルタミン酸は食卓から次第に消え、様々の食品公害事件などの報告と相まって、“怖い化学物質としての”調味料に位置づけられて今日に至っている。

 グルタミン酸は脳内でγ-アミノ酪酸(GABA)に変化し神経伝達物質として重要な働きをしている。そのため、GABAが脳機能回復の医薬品として多量に使用されたことがあった。しかし、この物質は血液脳関門を通過せず、脳内に入らないことから、医薬品としてのGABAの有効性は否定されている。ところが、グルタミン酸は間違いなくGABAに変化して神経伝達物質として働くのであるからGABAの無効性は逆にグルタミン酸の重要性を意味している。

 山本教授の臨床実験は、教授自身も言っておられるように、まだ多くの検証を重ねるべき事項が残されているが、うま味物質が有する新しい方向性を暗示させる素晴らしい報告であった。そして、私が市民講座などで出会った人たちには、化学調味料という言葉でうま味調味料を毒物のような扱いをしている方が数多くおられる。そんな人たちが、化学調味料不使用と書かれた食品をせっせと食べて、ストレスに強くなろうとGABA入りチョコレートを買って食べているようなことは、まさかないだろうと念じながら、この人たちに改めてこの事実を知っていただきたいと感じている。(鈴鹿医療科学大学保健衛生学部医療栄養学科教授 長村洋一)

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