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多幸之介が斬る食の問題|長村 洋一

今こそしっかりしたリスクコミュニケーターを!

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2008年9月17日

 本年の7月4日付けで厚生労働省から「健康食品」の安全性確保に関する検討会報告書が提示された。その報告書は大きく分けて次の3つのカテゴリーから成っている。(1)製造段階における「健康食品」の安全性確保を図るための具体的な方策(2)健康被害情報の収集および処理体制の強化(3)消費者に対する普及啓発、の3項目であるが、それぞれかなり抽象的な説明である。そのために、健康食品業界ではその解釈の仕方がいくつかできることの戸惑いが見られる。

 私が主催している健康食品管理士認定協会もこの報告書の実現に向けて対処すべき方向を求めて、新たな問題が浮かび上がってきている。特に、3つ目の消費者に対する普及啓発に関しては、リスクコミュニケーターの存在を意義あるものにしなければならない大きな義務を感じさせられている。たまたまこの報告書は健康食品を中心とした安全性確保のためのものであるが、この報告書をうまく運用すれば、健康食品のみならず一般食品にまで広げた食の安全・安心に関するしっかりしたリスクコミュニケーターの存在する社会が作れるのではなかろうかと考えている。

 2007年度において2兆円強の売り上げを示した健康食品の中で、特定保健用食品(トクホ)の売り上げは約6900億円であった。その残りは、肉や野菜と同じ一般食品として販売された“いわゆる健康食品”である。その中には薬事法違反またはそれとほとんど同じような商品、まるで健康に効果のない食品、CoQ10などのように両目が大幅に不足している健康食品など、商品として考えたとき、問題となる健康食品が実際に多量に販売されている。

 その一方で、非常にまじめに取り組んで、臨床データ、安全性に関してトクホに決して引けをとらないくらいの検討をなされた健康食品もある。そんな日本の健康食品の現状を何とかしなくてはと、昨年この検討会が立ち上げられた。

 この報告書の最初に記載されている、製造段階における「健康食品」の安全性確保を図るための具体的な方策においては、原材料の安全性、GMPなどによる製造工程管理の安全性そして実効性の確保を提言し、そのために第三者機関による認証することを薦めている。このシステムが実際に動き出せば、現在のいくつかのいい加減な健康食品業者はやりにくい状態に追い込まれるのは確かである。

 しかし、業界がしっかりしなければという意識を持つような認証機関は、どのような認証機関であるべきかと言う点が、具体的に明確になっていない。特に、その認証機関は厚労省の中に置くのではなく、学識経験者、消費者、製造事業者などからなる認証協議会を組織するとなっており、その機関が厚生労働省と連携を図るとなっている。その予算はどうするのかと言ったかなり重要な部分については何も言及されていないので実際にどのように立ち上がってくるのだろうというのが多くの関係者の話題に上っている問題点である。

 そして、最後に記載されている消費者に対する普及啓発にはアドバイザリースタッフの活用が明確にうたわれているが、具体的にどんな制度上で動かされるかはまったく記載されていない。そんな状況の中で、アドバイザリースタッフの存在意義を考えている矢先に昨今の事故米の事件が発覚した。

 今回の三笠フーズをはじめとする事故米に関する許しがたい悪行の被害は、その全貌が明らかになるにつれて底知れぬ広がりがあり、多くの消費者が、またまた悪徳業者の裏切り行為に大きな絶望感を与えられている。先週の本欄の記事にも、松永和紀氏は「アフラトキシン汚染米を原料にした食品を食べる。これは暴論だ」とリスク分析の観点から、江井誠氏は「いくら偽装には甘い小生でも許すことはできません」とその倫理意識の欠如に対して、両氏共に激しい怒りを相次いでぶつけられている。

 そして、本当の被害者は何も知らずにそんなコメをつかまされた加工業者と消費者である。事故米を使用したすべての業者のリストが近く公表されるとのことであるが、その発表があるまでは米関連商品の風評被害に近い売り上げの低下は避けられないと推測される。

 焼酎のように蒸留された均一な溶液においては一定の基準以下であったというカビ毒などの報告はそのまま、「大丈夫」という太鼓判になる。しかし、煎餅や赤飯にいたってはある量をホモゲナイズして大丈夫だったらそれで良いだろうか? という心配はある意味で非常に現実的な一面を有する。それはカビの存在は局在しており、決して均一ではない点である、これに関しては松永和紀氏も記事の中で指摘しておられる。そして、畝山智香子氏が小生の山崎パンの記事に対するコメントとしてカビ毒の強烈さを指摘しておられるが、本当に人間が食べたときどれほど発がんに結びついているかはかなり未知数であり、具体的にはそんなに神経質にならなくても良いと結論付けておられる。いずれにしろ、消費者は農薬やカビ毒で汚染された米の加工品を食わされたり、飲まされたりした。

 そして、食べてしまったり、飲んでしまったりした人たちはまさかと思いながらも何がしかの不安を抱えている。その不安は結局、不必要なまでのゼロリスクを要求する温床となっていき、コンビニのおにぎりから保存料を追放して多量のpH調整剤を使用させるような事態を引き起こしている。ここには明らかなリスクコミュニケーションの不備が見られる。

 たまたま、今回の報告書は、健康食品を中心に検討が加えられた内容であるが、最後の消費者に対する普及啓発の項目は健康食品に限らず食全般に渡って行われるべき重要な事項と考えている。そして、約6000人近くに膨れ上がってきた健康食品管理士の人たちに健康食品に限らない食全般のリスクコミュニケーターとしての活躍ができるような基盤整備を考えている。(鈴鹿医療科学大学保健衛生学部医療栄養学科教授 長村洋一)

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