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多幸之介が斬る食の問題|長村 洋一

バナナを店頭から消す理論的根拠を与えた科学者の正体が分かってびっくり

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2008年11月19日

 私は、血糖、コレステロール、尿酸が高いこともあって、昼食は自分特製ノーミソヨーグルトと果物を中心とした食事にしている。その昼食の果物としてバナナは比較的値段が安いこと、栄養学的に見てかなり良い食品でもあることから常食に近い状態で食べていた。ところが、9月中旬過ぎのある日から購入できなくなってしまった。そして、間もなくその原因がテレビ番組であることが判明した。同時に、私が主催する健康食品管理士認定協会の会員の方から「先生、昨年の“あるあるの納豆”と同じではないですか、協会として何かコメントを出しても良いのでは?」と言った提言もなされてきた。

 しかし、私はテレビ番組では食物繊維の効用を大げさに宣伝して話したと、勝手に番組内容を想像していた。そうであるとするならば、かなり事実に基づいているので、納豆ダイエットのときのような非科学的な騙しはないと推測していた。2週間を過ぎてもなお、バナナが食べられないことを少し残念に感じながらも、むしろバナナの食物繊維はそれなりに効果があるのかもしれない、などとまで思いを巡らせていた。ところが、先月末に開催されたJASTシンポジウムにおいてパネリストとして私と同席された松永和紀氏からとんでもない事実を教えられて、改めて自分の調査不足を悔やむとともに、昨年の「発掘!あるある大辞典II」の悪夢が戻ってきた。

 松永和紀氏はこの話は極めて重大な問題として松永氏自身の10月23日付けブログにも掲載しておられる。このシンポジウムの時には、「フードファディズムの著者、群馬大学の高橋久仁子教授に聞いて調査して分かったことですが」と前置きされて、バナナが消える原因となった番組のときに、食べた酵素がそのまま吸収されて体内でダイエット効果を発揮するような非科学的な解説をした学者がいたこと、そして、その学者はかつてTBSが起こした「白インゲンマメ食中毒事件」のときに、3分間フライパンで白インゲンマメを煎って粉末にしてご飯にかけて食べればダイエットができると解説した教授であることを付け加えられた。

 この白インゲンマメ食中毒事件はメディアが起こして、報道があまり大々的でなかったために一般市民の方にはほとんど記憶に残っていない事件であるが、2006年に発生した食中毒事件としてはかなり大規模な、そして被害に会い患者となられた方にはかなり苦しい思いをされた、極めて重大な事件であった。救急車で病院へ運ばれるような食中毒を発生させたレストランの社長だったら、恐らく患者1人ひとりのところへ見舞いに行って謝るのが常識であろう。

 しかし、この番組の事件が大きくなってきて最初に出したテレビ局のホームページには、「番組では、『豆は生で食べるとお腹をこわす恐れがあります、豆にアレルギーのある方やお腹をこわす状態がつづいた方は食べないで下さい、糖尿病の方は医師に相談してからにしてください』などの注意喚起を行いました」といい訳めいた記事のみで、激しい腹痛とともに、夜中に嘔吐と下痢を繰り返し救急車で病院に運び込まれた何百名という患者に対するお詫びの一言もなかった。

 そして、明確な加害者が存在する事故であったにもかかわらず、患者は文句も言わずに自己負担の医療費を支払い、残りは医療保険から支払われた。この事件の経過は松永和紀氏の『メディアバイアス』(光文社新書)に掲載されているが、報道特集を組んで原因追及があっても良いような事件を、どのメディアもこの問題を掘り下げてほとんど取り上げず、多くの人の記憶にも残らなかった。したがって、こんな大きな事件であったにもかかわらず、一般市民には食中毒者を1人も出さなかった赤福や、白い恋人よりもはるかに記憶に薄いという奇妙な現象が起こっている。

 ここには、メディアの驕りとでも言うべき問題が大きく横たわっているのは事実である。そして、メディアの報道を、お上の通達のように受け止めている一般市民の姿が浮き彫りにもなっている。ところが、こうしたメディアの無責任さもさることながら、実験の心得もない一般の人に、生のマメに含まれている毒性の強いレクチンを3分間フライパンで煎るといった方法で失活させ、ダイエット効果のあるファセオラミンを残すことができると考えられ、堂々とテレビでその効果を解説された大学教授が存在したことが、この番組を成立させたもう1つの絶対に見逃すことのできない大きな問題点でもある。

 私は「所さんの目がテン」(日本テレビ系)の番組で、「発掘!あるある大辞典」の誤った番組と同じ内容の企画があった時に、ディレクターの強い要望に対して事実をよく説明し、放送予定日まで決定していたものを中止させた経験を有する。テレビ局は自分たちが最初に企画したのとは異なったコメントを出されたとしても、取材される側がしっかりすれば、事件はかなり未然に防げると私は考えている。

 今回この解説をされた大学教授は、バナナの消化酵素がそのまま体内に入ってダイエット効果を発現するというような発言をしていると、前述の松永和紀氏は話しておられた。私も自分の身近なところにいる番組を見た健康食品管理士から同じようなことを聞いた。彼の弁によれば「消化酵素がそのまま体内に入って代謝を高めるようなことを話していた。この先生はたんぱくがそのまま血液中に入ると考えているのだろうか」と感じたそうである。もし、本当だとしたら専門分野の大学教授が一般市民に語るべき内容でないのは明白である。

 「発掘!あるある大辞典」の外部調査委員の報告書にも「他方で、みずからの知識を切り売りするように、取材者側の意図に従って、カメラの前でコメントする専門家も少なからずいる。 今回の調査で、私たちはたくさんの取材テープを見たが、そのなかにはディレクターが準備した台詞のとおりにしゃべっているだけの専門家の姿もあった。 アカデミズムのごく一部だろうが、その種の「迎合的専門家」もまた、不適切な番組制作の加担者である」(報告書p136)と結ばれている。

 先述のJASTシンポジウムの折に基調講演をされた金澤一郎学術会議会長も、松永和紀氏の発言を苦々しい表情で受け止めておられた。「発掘!あるある大辞典」の事件の時に全国の学者に向かって「まじめにやれ」と忠告を発せられた方であるだけに金澤先生の思いには心中察するものがあった。

 先日、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所の堀江秀樹氏から、「あるある事件のときレタスでとんでもないコメントをしたあの大教授が相変わらず誤った情報を発信しているので、私はその筋に抗議をしたのですが、まるで無視ですよ」という話を伺った。このコメントをした教授は昨年のNatureの取材に対して“We’re used like TV personalities, I say what the programme wants me to.” (NATURE 804-805 445 2007)と答えられているが、そのお答えのように相変わらず間違った情報の伝達役をメディアと共同してやっておられるようだ。

 今回の店頭からバナナが消える馬鹿な騒ぎにおいて、その理論的根拠を与えたとんでもない立派な大教授が、実は過去に問題を起こした教授であったということに呆れるとともに、科学者集団による何らかのメディア監視の必要性を痛感している。そして草の根の運動として始めた健康食品管理士のリスクコミュニケーターとしてのネットワーク活動をもっと密にして、しっかりしなければならないと改めて感じている今日この頃である。(鈴鹿医療科学大学保健衛生学部医療栄養学科教授 長村洋一)

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