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多幸之介が斬る食の問題|長村 洋一

何でもない健康食品で突然の心停止が?

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2009年3月25日

 何でもない健康食品と思って摂っていたら、その健康食品が原因でもし突然心停止が起こるようなことがあったら大変である。私が主催している健康食品管理士認定協会の教育委員会には健康食品管理士からの健康食品に関する質問が毎日いくつか入ってくる。そんな質問を通して、最近教育委員会として会員に注意喚起をする必要のある問題が浮かび上がってきた。ことの発端はある病院の健康食品管理士の資格を有する臨床検査技師の方の質問から始まっている。

 その質問は「特別な医薬品も飲んでおらず、腎機能に異常もないのに6.3mmol/Lと高カリウム血症になっている患者さんが当病院にいる。その原因を探るため種々な検査と併行して患者さんに質問をしたところ、ある健康食品をお茶として毎日かなり摂取しているとのことが分かりましたが、この健康食品でそんなことがおこるのですか?」という内容であった。

 早速、その健康食品に関して当協会の教育委員会のネットワークの中で調べてみたところ、その食品には乾燥重量1Kg当たり約50gのカリウムが含まれており、大量摂取による高カリウム血症の発症の報告もすでにあることが判明したので、その旨を会員に直ちに連絡した。ところが、カリウム含量の高い健康食品は、調べてみるとこの食品に限らず、同じくらいのレベルの健康食品がいくつもあることが明らかになってきた。

 読者には高カリウム血症と言っても、それがどれ位危険であるかと言うことがピンと来ないかもしれないので少し説明をさせていただく。我々の血液中のカリウムの値はおおよそ3.5mmol/L〜5.0mmol/Lに正確に保たれている。ところが、この値が高くなるとその濃度に応じて心電図にさまざまな異常が発生し、7mmol/Lを超えるくらいで突然の心停止が発生する可能性が出てくる。実際、米国の死刑が行われている州における死刑の執行は、被執行人を睡眠薬で眠らせた状態にしておいて塩化カリウムを静脈注射することによって心停止へ導く方法で執行されている。血液中のカリウム濃度をあるレベル以上にすることは確実に心停止を引き起こす。

 カリウム濃度が高い健康食品の体験談には、血圧が上がりにくくなったというような報告が良くみられる。実際、野菜をたくさん食べると血圧に良いことは疫学的にもかなり明らかにされているが、その根拠は野菜に含まれる高濃度のカリウムがナトリウムの腎における再吸収と拮抗し、ナトリウムによる血圧の上昇を抑制するためであるとされている。従って、カリウム濃度の高い健康食品は血圧上昇抑制に効果がある可能性はかなり高い。

 通常の人はナトリウムやカリウムの血液濃度を一定に保つ能力が非常に高いので若干のナトリウムやカリウムの接取し過ぎは全く心配いらない。カリウムにあってはむしろ通常の生活においては多めに摂るように指導されているし、そうすることによって血圧のコントロールがうまくいっている人も多いと推測される。しかし、血圧の高い人の中には腎機能が悪くて血圧が高くなっている人もいる。腎機能の悪い人はそのことが原因ですでに高カリウム血症であるかまたはそうなりやすい状況にある。したがって、腎機能の悪い人には高カリウム食の積極的な摂取は禁忌である。

 一方で腎機能は全く正常で、塩っ辛いものを好んで食べることが大きな原因で血圧の高い人が、高カリウムの健康食品を摂り始めてから血圧のコントロールが良くなったとすると、この人はカリウムの作用により血圧が下がるので、この健康食品を血圧に良い健康食品と認識する。そしてその人が、腎機能が悪くて高血圧の人と出会った時、次のような会話が成立する可能性がある。

 「私は○○のお茶を毎日朝昼晩に飲みだしてから血圧の調子が良いですよ。あなたも、薬で血圧を下げるなどということを止めてこの○○を飲んだらどうですか」。「そうですね、私もできるだけ病院の薬には頼りたくないのでその○○にしようかしら」。

 患者さんの一般的心理として、健康食品で本当に効果があるのなら病院でもらう薬よりも、副作用のない食品の方が安心だと考えている人が結構ある、ということは多くの健康食品管理士からの報告で明らかになっている。このケースの場合も、もし腎機能が悪い人が病院の薬と併行してあるいは薬を止めてその高カリウムの健康食品をとり始めたら、やがてその患者さんは高カリウム血症となり突然の心停止がおこり得る。

 このように、カリウムというような単純な金属イオンであり、むしろ栄養学的には野菜等からたくさん摂取しましょうと進められているものであっても、場合によっては非常に危険な物質になりかねない要素を有している。世の中には腎機能が悪かったり、特定の薬剤を服用していたりして高カリウム血症になりやすい状況にある人がいる。そんな人には当然のことながら高カリウムの健康食品の多量摂取は極めて危険なことである。

 さて、ここまでくると、直ちに高カリウムの健康食品をやり玉に挙げて危険情報を大々的に流すことが良いように感じられるかもしれないが、そこには別な危険性を内包している。実は現段階ではどんな人がどれくらいの量を摂取したらどれくらいのカリウム値になるかに関して十分なデータが無いからである。そんな状況の中で、情報伝達の仕方が不十分であると、一般の人たちにカリウムを高濃度含む食品をすべて怖い食品と認識させてしまう可能性があるからである。

 ところが、この情報が必要な人は、前述のような腎機能が悪い人と特定の薬剤を服用している人に限定される。しかし、もしカリウムの摂り過ぎが怖いという話のみが強く先行してしまうと、通常の野菜の摂取すら控えた方が安全なように考え出すのが一般の方である。その結果は一般人には、むしろ積極的な摂取が進められているカリウムに対して逆効果的影響を与えかねない。いたずらな危険情報はかえって混乱を招くのは食品添加物の例を見れば明らかである。

 今、健康食品管理士認定協会の教育委員会はこうした情報を収集中で、必要な人に情報を適切に伝えることを大きなテーマとして、その方法の具体化を試行錯誤している。21世紀の予防医学を支えるのは、食と運動と心の問題であり、その食の問題としての健康食品をいかに扱うかは非常に重要な問題である。多くの一般的な健康食品はそんなに心配は要らないが、今回のこのケースのような特殊に近い場合において、健康食品管理士という食のアドバイザリースタッフがその大きな役目を果たすことができるよう健康食品管理士認定協会の教育委員会は頑張っている。関連のデータをお持ちの方の情報提供をお待ちする。(鈴鹿医療科学大学保健衛生学部医療栄養学科教授 長村洋一)

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