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多幸之介が斬る食の問題|長村 洋一

文部科学省が感情論的食品添加物バッシングを展開?

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2009年4月7日

 3月31日付官報において、4月1日から施行される「学校給食衛生管理基準」が公表された。昨年から管理栄養士を養成する教育機関に身を置くものとして非常に重要な通達と受け止め熟読させていただいた。そして、内容の一部にメディアがここ数年喜んで取り上げ、いたずらに市民を不安に陥れた感情論的な食の安全・安心意識を押しつけるような箇所にぶつかって唖然とした。

 その記述は「第3 調理の過程等における衛生管理に係る衛生管理基準」の「(2)学校給食用食品の購入」の「(3)食品の選定」の第二項に、“有害若しくは不必要な着色料、保存料、漂白剤、発色剤その他の食品添加物が添加された食品、又は内容表示、消費期限及び消費期限並びに製造業者、販売業者等の名称及び所在地、使用原材料及び保存方法が明らかでない食品については使用しないこと。”と書かれていたことであった。同じ記述は、同日公布の「夜間学校給食衛生管理基準」及び「特別支援学校の幼稚園部及び高等部における学校給食衛生管理基準」にもある。

 実は、文部科学省から出された通達としてのこうした内容は今回初めて出てきたことではなく、2003年3月に出された「学校給食衛生管理の基準」の一部改定と称した通達にすでにほとんど同じ文言が掲載されている。最近接触の多い栄養教育関係の教員や現場の方、または都市の教育委員の給食問題担当者の中に、食品添加物は可能な限り排除することを良しとする発言をされる方が結構おられることに気付いていた。その原因を調べているうちに03年に出されたこの通達にぶつかり、この通達に起因している教育現場で栄養関連の仕事をされている方の誤解をどのようにして解くかと考えていた矢先でもあった。

 この文章は単に読み流した場合、今の時代に即していると感じられる人も多いかもしれない。有害な食品添加物の使用された食品や、消費期限、賞味期限、製造業者、販売業者の記載してないような食品は危険極まりないから排除するのは当然であり、むしろ重要な指摘とさえ受け取れる。しかし、良く考えてみよう。現在、日本の市場にはこうした食品が本当に多く流通しているのであろうか? 解答は否である。有害または不必要な食品添加物が添加されたり、消費期限、賞味期限、製造業者、販売業者が記載してなかったりする食品は基本的に食品衛生法、JAS法などの食品関連法規に抵触することになり、もし、そうした食品を製造もしくは販売したりすれば、その業者は摘発され処分を受け、ご存知のようにそのいくつかはメディアが大きく取り上げるところとなっている。

 事故米を給食で食べさせたり、メタミドフォス入りのギョーザを食べさせたり、国産と書いてあっても実は外国産を食べさせるようなことのないように、と言うことを目的としての一文であるとしたら、この通達はその目的をほとんど果たさない。実際に03年にこうした通達が出されていたにもかかわらず、昨年学校給食で事故米を給食に使用し、食べてしまったケースが発生してしまった。しかし、例え学校給食関係者がこの通達を守ってこれに準拠した方法で食品を購入していたとしても、昨年の事件を防ぐのは無理であった。なぜかと言えば、昨今の事故米にしろ、消費期限の問題や産地偽装にしろ、製造者や販売者のモラルが崩壊し、法を偽っていることによって発生していた事件であり、表示をチェックすれば防げる問題とは問題の性格が異なるからである。

 それにも拘わらず、私が消費生活センター等で接触している普通の市民の目線で考えるとき、この官報の文章は、恐らく一般の方には不思議とその通りだと感覚的に理解させるものがあることを感ずる。それほどまでに現在の、特に食品添加物に対する誤解(あるいは無理解)が浸透している。そして、この通達を読まれた一般の方は、結論として文科省も食品添加物は無添加を理想としているのだと理解するに違いない。

 それは、食品添加物に対して厚生労働省は大丈夫だと言っているが、とんでもないということを騒ぎたてている一部の人たちとメディアがあり、その人たちにとっては、食品添加物が使用されていること自体がすでに悪であるからである。その理由としては、安全性が確保されていないということと、伝統食文化の破壊という大きく分けて2つを挙げている。そうして、この考えが市中に大きく浸透しているために、昨年この欄においても指摘したような奇妙な食品添加物バッシングが発生し、保存料や化学調味料を不使用と表記した食品が安全な食品に分類され、無添加こそが最も安全な食品とされている風潮がまかり通っている。

 この通達の「有害な食品添加物」という文言であるが、食品添加物は有害な量を使用すれば当然食品衛生法違反になるので、そんなことを指しているのでない。となると有害な食品添加物というのは一体何であろうか。食品添加物は適正な量を用いれば健康障害がなく、食中毒を防いだり、味を良くしたり鮮度を保つことができる。しかし、着色料、漂白剤、保存料、発色剤などのどれをとっても一定量以上の摂取は化学物質である限り有害物質である。したがって、大量に使用したときに害がでる食品添加物を「有害な」と表記したとするならば、多くの安全論者が言っている量を無視した危険論であり誤りである。

 この通達の文章について、早速数人の教育現場の食関係の専門家と議論してみた。この通達の「有害な食品添加物」という表記は確かにおかしいかもしれないが、「不必要な食品添加物を使用した食品を使わない」という表記はその通りであり問題ないのではないか、と指摘される方が複数おられた。しかし、法律上は不必要な食品添加物を使用した食品そのものが既に食品衛生法違反となるから、現実に使用されている食品添加物は必要な物として添加されているはずである。

 ところが、現在使用されている食品添加物がどこまで必要があるかに関しては、専門家の間でも見解が大きく分かれる重要な問題である。そして、不必要な食品添加物が多く使用されていると考える人たちの意見が強くなっていることが、日本の無添加ブームを構成している1つの大きな要因でもある。さらに、不必要な食品添加物が添加されていると主張している人たちに共通している強い意見は、味を含めた食本来の有する文化性が否定されるという点である。

 もし、今回の通達が、食品衛生法やJAS法など食の安全を保つための法律が施行されているが、ほとんどの業者がこれを守っていないから注意をしろという意味で出されたとしたら、真面目にやっている多くの食品業者に対して非常に失礼な一文である。そうではなくて、一部のメディアや消費者団体が騒ぎたてているように、厚労省は安全だと言っているが、食品添加物は適正使用でも本当は危険だという観点から、安全性確保のため法律とは関係なく、限りなく無添加を基本に給食を行いなさいと言う意味で出されたとするならばこれも非科学的な感情論である。そして、不必要な食品添加物が多く使われて日本の食文化が破壊されているから、限りなく無添加を基本に給食を行い、昔の伝統食に戻しなさいという方針であるとするならば、ここにも大きな議論の余地がある。

 食品添加物の歴史を考えて見れば明らかであるが、例えばその昔には調理した食品が腐らないように保存するために笹の葉などにくるんだ。笹の葉には、安息香酸が入っているが、その安息香酸そのものを化学的に合成し、それを適量加えれば笹の葉以上の効果が得られる。また、昆布の旨みの本質を調べたら、グルタミン酸ナトリウムがその主成分であった。そこで、グルタミン酸ナトリウムを加えた食品を作ったら、出汁を使わなくても美味しい食品ができた。こうした化学物質の使用によって、早く腐敗して廃棄せざるを得なかった食品や、まずくて本来捨てざるを得なかった食品が食べられるようになることは、人類が発展してゆくために必要な食文化の重要な一面ではないだろうか。一方で、このようにして人類が獲得した物質もその量を誤った使用により、種々の弊害が発生することも明らかになってきた。しかし、こうした化学物質の害になるか、有益になるかは単に量の問題である。

 逆に言えば、文科省という国民の教育をあずかる中枢が、食文化の問題に触れようとするならば、食品添加物などの化学物質の無添加を理想とするのではなく、正しい使用のあり方を教育することも非常に重要なことであると私は理解している。

 21世紀の食の問題は、食糧不足、安全な食の供給、そして食を通しての健康作り、さらには食文化を通しての豊かな人間性の養成をどうして行くかが大きな課題である。このいずれを取ってみても、その解決の一助として食品添加物、農薬などの化学物質の使用なしには考えられないことである。新しい教育の方向として一部の消費者団体の人たちが騒ぎ立てているように、いたずらに食品添加物や農薬を無添加にして昔の伝統食が本来の食であると教えることのみに走るのではなく、こうした化学物質を適切に使用することによって人類がどのように新しい食文化を構成させることができるかを次世代の子供たちに考えさせることは、食育において重要な課題だと考えており、私は声を大にして昨今の無添加ブームに警鐘をならしているし、今後も叫び続けるつもりである。

 先述のように文科省が出された通達は、栄養教育関係者で食品添加物を可能な限り排除することを推奨しておられる方の拠り所となっている。それだけに、今回の通達が世の中の食育問題をリードする人たちの新たな誤解の根源にならないことを祈念している。(鈴鹿医療科学大学保健衛生学部医療栄養学科教授 長村洋一)

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