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多幸之介が斬る食の問題|長村 洋一

消費者におもねった非科学的無添加論は客離れを起こす

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2009年4月22日

 ある都市の教育関係のトップの方が公の席ではないが、個人的に話をしていたとき「私は回転寿司に行くときは、無添加に徹底している○○寿司に決めている。ほかの回転寿司は添加物だらけで何を入れて食わせているか分からない」とおっしゃったので、びっくりした。今月の初めのこの欄の記事で、教育関係者の中に食品添加物に関しては無添加を良しとする風潮が少なからずあることを指摘させていただいたが、この話はその一例である。この方には、直ちに「ほかの回転寿司と、この店とでは添加物の使用にそんなに差はないですよ。それにもともと添加物は悪いものでもないですよ」と申し上げた。しかし、まるで納得されず「私はそうは思いません、今のご時勢、業者は何をやっているかわかりませんよ。店にあれだけ無添加にこだわっていると書いてあるから、そんなに嘘はついてないと思いますよ」と反論されたのみであった。

 この寿司屋さんは小生も何度か行ったことがあるが、確かに店のあちこちに「無添加へのこだわり」が書いてあり、それはお客さんへの安全を考えてのように表現されている。そして、この寿司屋さんとは別の同じようなほかの回転寿司の店にも、「お客様の安全を考えて限りなく無添加にこだわっている」というような説明書きが広告文に書いてある。

 しかし、本当にどれだけ無添加により安全や安心が確保されているのだろうか。もともと、寿司は生鮮食品であるので、この店が長年の努力の末に追放したと豪語している人工保存料は、刺身には原則として使えない。もし、使えば食品衛生法違反で摘発されることになる。従って、ほかの回転寿司でも使用していない人工保存料を、ほかの店が使用していると誤解させるようなこの書き方は一般人に対してかなり大きな優良誤認を生じさせている。なぜなら、多くのコンビニのおにぎりや弁当などに「人工保存料は使用してありません」と記載されていることからも明らかなように、一般人は少なからず人工保存料という言葉を嫌っているからである。

 この寿司屋さんでは、この店が開発したペットボトル入りの究極のお茶が寿司と一緒に廻ってくる。このお茶を初めて見たとき、「ひょっとしてこのお茶は無添加?」とびっくりした。もし、そうであるとしたらどんな技術でやったのだろうかと非常に強い興味を持ったが、そのラベルを見てがっかりし、そのがっかりは飲んでみて確信に代わった。その究極のお茶には、何処にでもあるペットボトルのお茶と同じようにビタミンC(食品添加物)が添加してあり、味が際立って良いものでもなく、いわゆるペットボトルのお茶の味であったからだ。

 少し年配の方は覚えていると思うが、缶入りウーロン茶や缶入り紅茶などに数年遅れて日本茶の缶入りが世の中に出てきた。その遅れた理由は、紅茶やウーロン茶は比較的簡単に缶入りが作れたが、日本茶の缶入りは難しかったからである。紅茶やウーロン茶は入れてから時間がたっても腐らなければ味はそんなに大きく変化しない。例えば、今日入れたウーロン茶を明日温め直してみると、結構飲めるものである。しかし、日本茶は入れてから30分も経過すると味は大きく変化してしまい、温め直しても味は元には戻らない。

 従って、日本茶の場合は沸かして缶やペットボトルにそのまま入れて、ある程度日本茶の味を保ったまま保存しておくことは困難である。それはお茶の味を構成している幾つかの成分が酸化されるためである。そこで、そのお茶の成分の酸化を防ぐためにビタミンCの添加が行われた。ビタミンCを添加することで日本茶の味は入れたての状態のまま保つことは今もまだ不可能であるが、少なくとも日本茶として販売できるレベルの味の維持はできるようになった。だから、市販の日本茶のペットボトルや缶入りのラベルを見るとどこのメーカーのものでもビタミンCが添加してある。そしてこの回転寿司屋さんの究極のお茶にもビタミンCは立派に入っており、無添加とは全く無縁のお茶である。

 このように、この寿司屋さんで出てくる食材には食品添加物を使用したものがある。そこで、よく調べてみるとこの回転寿司の無添加は、化学調味料、人工甘味料、合成着色料、人工保存料を4大添加物と特別な“悪者扱い”をし、それを使用していないことを根拠として主張している。ところが、これら4種類の化合物には既存添加物は1つもなく、すべて指定添加物であるから、適正使用において何ら健康障害を心配する必要のない食品添加物ばかりである。

 これらの安全な食品添加物をことさら危険な物質のように見なして減少させることにエネルギーを費やして、優良誤認を狙うのは意味があるのだろうか。回転寿司という味を良くして低コストに抑え、さらに安全性を追求しなければならない外食産業は、いかに美味しくするかと言う味の問題や、生鮮食品で頻発する細菌性食中毒からいかにお客さんを守るかと言ったリスク管理に力を入れないと、やがて消費者から見放されてしまうのではないだろうか。それは、小生と学生の次の会話からの感想である。

 この原稿を書くために小生の教えている学生たちに、この寿司屋さんの無添加をどう思うかと質問をしてみたら、「先生、無添加だから行くなんて私は考えません。味で選びますから○○寿司は行きません」と言う回答が返ってきた。小生は「日頃無添加ナンセンスを唱えている先生の機嫌を取るためにそんなことを言っては駄目だよ」と言ったところ、学生から「機嫌を取っている訳ではありません。ネット上で調べても皆、味の問題を論じていて無添加などにこだわっていないですよ」という回答が再び返ってきた。

 そこで、学生の話をもとにネット検索を行ってみたら、確かにネット上でこの寿司屋さんと別な寿司屋さんでどちらが良いかの論争が展開されていた。その論争ではこの寿司屋さんより別の寿司屋さんの方が味において断然評判が良く、無添加を評価してこの寿司屋さんが良いと言う意見は小生が調べた限りでは見当たらなかった。ただ、幾つかのほかのブログでは無添加を評価している記事も出ていたが非常に少なかった。このネット上の評価はすべて主観に基づいたものであるから絶対的な意味はなく、若干意外な感じもしたが、消費者の評価の一断面ではある。

 こういうネット上の評価を見ると、この寿司屋さんは「味に勝る無添加の重要性」をアピールする必要性があるが、味を犠牲にしてでも安全であることの訴えを科学的な理解力を有する消費者に納得させるのにはかなりの無理がある。しかし、科学に縁の遠い人達に対してはいたずらな恐怖心を煽げば、味の評判はさておき安心な寿司だと言って食べてくれる最初に紹介した教育者のような人たちをある程度顧客として確保することは可能であろう。しかし、それが本当に日本の食の安全につながり、食文化に貢献することであるかどうかを、科学的に良く考えて欲しいものである。(鈴鹿医療科学大学保健衛生学部医療栄養学科教授 長村洋一)

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