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多幸之介が斬る食の問題|長村 洋一

エコナ騒動が健康食品の安全性確保にもたらした深刻な問題

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2009年10月7日

 先月16日、花王が同社のドル箱的商品であるエコナの一時販売自粛に踏み切った。この商品でその混在が問題となったグリシドール脂肪酸エステルは、もともと我々が食品として摂取する通常の食用油にも含まれている成分である。このことは、エコナのみではなく、保健機能食品を含めたいわゆる健康食品のうち、食品素材を抽出、濃縮という過程を経て製品化されるすべての商品に対して安全性の本質にかかわる深刻な問題の内在を示唆している。

 エコナに関してはその特定保健用食品(トクホ)として「体脂肪の気になる方へ」の表示が許可されており、摂取しても体脂肪となり難いことがその作用の本質とされている。トクホはしばしば、表示の許可を受けてもどれだけ効果があるだろうと言った疑問が、かなり強く投げかけられることがある。そんなとき、「エコナ」は大きな成功例として取り上げられ、業界ではトクホの認可の有用性を論ずる場合の代表的商品である。

 そして、何よりも近年多くの人が意識している「体脂肪」の問題をこの油を使用した調理をするだけで改善することが標榜され、多くのメディアを通しての印象的な広告がなされてきた。その結果、一般市民に最もなじみのあるトクホ製品の一つとして位置付けられている。それだけに今回のこの騒動は、一般市民に対し大きな不安材料を投げかけた。そして、消費者庁もこの問題に対して緊急の対策を講じ始めた。

 小生は、この油がトクホとして世の中に出回り始めたときにまず、大きな驚きがあったことを思い出す。多分、多くの生化学関連の研究者には、エコナの主成分ジアシルグリセロールは食品としてより、はるかに強い興味を引くのは、細胞内情報伝達物質としての細胞内動態である。我々の細胞膜に存在するリン脂質は受容体を通して種々の刺激で活性化されるホスホリパーゼによってジアシルグリセロールを生じ、そのジアシルグリセロールは細胞内情報伝達物質に変化し、蛋白キナーゼを活性化させその細胞に極めて大きな変化を生ずる。

 従ってエコナの主成分がジアシルグリセロールであると知ったとき、そんな物質を食品として大量に摂っても大丈夫? という強い疑問が発生した。この小生が抱いたような疑問に対してトクホとして認可されてからも、厚生労働省のみならず米国でも種々検討が要求されて、若干歯切れの悪い部分はあるものの、一応大丈夫であるとのお墨付きが厚生労働省からは出ている。そして、小生の個人的な感情としての安全性に関して納得している大きな一因は、ジアシルグリセロールが通常我々が食する油にももともとかなり含有されているという事実であった。

 ジアシルグリセロールそのものの安全性に関しては、若干の疑問を抱きながらも一応納得していた。そして、今回の回収騒ぎが発生した。この回収騒ぎの原因はジアシルグリセロールそのものではなく、その製造における脱臭の工程において副生する化合物が問題となった。副生物のグリシドール脂肪酸エステルが体内で分解され、グリシドールを生成する可能性があり、そのグリシドールに発がん性があるからと言うのがその原因となっている。

 花王の報告によれば、現実にこの現象が体内で発生するかどうかはまだ確認されていないが、可能性をもとに一時販売自粛に踏み切った、とのことである。グリシドールはエポキシドの化学構造を有するので、見るからにラジカル的な反応を起こしそうである。従ってグリシドール脂肪酸エステルとしての化学構造のみを見ると、こんな物質を摂っても大丈夫なのかという疑問が湧いてくる。しかし、ここにもジアシルグリセロールの疑問に対する回答と同じように、我々が通常食する油にも含まれており、エコナの場合は単にその濃度が自然の油より10倍以上高いということである。この10倍以上高濃度であることがもたらす結果については我々には未知の世界である。

 ところで話は変わるが、微生物を用いて発がん物質をスクリーニングするエームス試験法の開発者であるAmes博士は、我々が通常食する野菜の中の化学物質に関してエームス試験によるスクリーニングを行った。そして、ほとんどの植物に発がんの可能性のある物質が含まれており、そのうちのいくつかの化合物には確かに動物に対する発がん性を認めて報告している。(B.N. Ames, M. Profet, and L.S.Gold Dietary pesticides(99.99%) all natural Proc.Natle. Acad. Sci. USA 87 7777-7781 (1990))

 例えば、ニンジンにはカフェイン酸、キャベツにはアリルイソチオシアネートというれっきとした発がん物質が含まれていることがこの論文に掲載されている。しかし、彼は「ニンジンやキャベツそのものを食べるときには恐らくβ-カロテンなどの共存する物質が発がんを防ぐので、そんなに心配ない」と述べている。事実、NIHはニンジンやキャベツを、がんを防ぐために摂取すると良いと薦めている食品のピラミッドの頂点に位置させている。

 健康食品のすべてが、食品と言う名称を有する限りにおいて、医薬品とは異なり自然に存在している化合物を主原料としている。そして、食品、特に植物性の食品には種々の機能性の物質が含有されているが、すべてが人間にとって有用な成分とは限らない。それは、植物がもともと我々の食材となるために生育しているのではない、という当たり前の現象から容易に推測できる。

 植物は植物なりに昆虫や動物から食べられないように自らの体を守ろうとしている。従って彼らの体内には種々の化学物質が含まれており、Ames博士の報告のように我々が日常的に食べている野菜の中においてすら、発がん物質が含まれている。ましてや、野菜として通常摂取しないような植物にはどんな未知の化合物が含まれているか分からない。

 以上のような事実を考慮すると、食品中のある特定の化学物質の機能に注目してその食品から抽出、濃縮したような健康食品には、同時に我々の体に害のある物質を抽出、濃縮している可能性を否定できない。ここには健康食品が食品から精製されて製造される際に有する本質的な大きな問題を提起している。すなわち、健康食品のように食品中のある特定の成分の機能を強く求めて抽出、濃縮をしたようなときには、共存する発がん物質も同じように抽出されるかもしれないし、場合によっては自然の濃度よりはるかに高濃度になるかもしれない。

 ここで、本題のエコナに戻るが、エコナの主原料のジアシルグリセロールも若干問題を抱えているものの、我々の食材として用いている油にかなり含まれているという一言が、何とはない安心感につながる要素を与えている。そして、今回問題になったグリシドール脂肪酸エステルもまた、通常の食用油に含まれているので多分そんなに心配は要らないと推測されている。実際、今回のエコナは行政措置による回収ではなく、一時販売自粛である。明らかにリスク管理において処理された問題であるが、この花王の対処は、トクホで今後発生するかもしれない同じような問題に対する一つの指標的なものとなると考えられる。

 昨年の7月4日付けで厚生労働省から出された「健康食品の安全性確保に関する検討会報告書」に基づいて、安全性認証の問題が具体的に検討され実行に移されようとしている。この認証問題で具体的な対象となっているのは保健機能食品(トクホと栄養機能食品)を除くいわゆる健康食品である。エコナ問題から分かることは、トクホにおいてさえこのような問題が発生する中で、いわゆる健康食品の安全性認証にもこうした不安も払拭するのはなかなか困難である。

 しかし、どうしても乗り越えなければならない問題であるのも事実である。そして、この問題は先述のようにリスク管理の問題でもある。このリスク管理的側面に対して、我々が認定させていただいている健康食品管理士のようなアドバイザリースタッフが大きく活躍できるのではないかと考えている。(鈴鹿医療科学大学保健衛生学部医療栄養学科教授 長村洋一)

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