ホーム >  FoodScience過去記事 > 多幸之介が斬る食の問題 > 記事
こちらのページは以前、日経BP社 FoodScienceに掲載されていた記事になります。
当サイトから新規に投稿された記事については、こちらよりご覧ください。

多幸之介が斬る食の問題|長村 洋一

枚方市はA氏の質問にどう回答されたのか

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2010年3月3日

 先月のこの欄に「枚方市はA氏の質問を真摯に受け止めて下さい」と題して安部司氏の講演会の問題を指摘させていただいた。そして、記事に記載させていただいたように小生はあの記事を枚方市へ送らせていただいた。この記事は意外に反響があり、小生のところに安部氏に関するいくつかの問題点が寄せられた。さらに、ここ数日その後どうなりましたかの問い合わせをいただいている。従ってその回答をお知らせする責任があると思うのでこの件について書かせていただく。結論的として、A氏に対する枚方市の行政としての対応は非常に真摯であり、決して皮肉ではなく丁重であったとお知らせさせていただく。ただ、それだけ真面目に対応しておられての回答であったが故に、枚方市民に食の問題意識啓発のための講演会としてこのような企画をされたことを改めて残念に感じたのでその問題点を指摘させていただく。

 実は、枚方市における安部氏の講演を聞かれた方から、その印象と講演のときに配布されたレジメとをお送りいただいた。その印象は非常にお話が上手で感心させられたとのことであった。話の内容は化学的には指摘しなければならないほどは間違いは少なく、また添加物の不安を正面からは煽っていない。しかし、安部氏は聴衆のほとんどが化学物質に対する知識のない方であることを熟知しているので、その方たちの化学物質に対する忌避感を上手に刺激して結局は聞いている人達に添加物は怖いものだ、という意識を明確に植え付ける効果を生み出していた。「とにかく話がうまいことには恐れいりました」と伝えてこられた。講演会参加募集の広告には「とんこつスープの実演もある」とあったが残念ながらなかったそうである。これはひょっとすると小生の前回の記事が原因かもしれないと推測をしている。

 講演のときに配布されたレジメは、テストIとIIという2部構成になっており、テストIでは回答によっておよその年間食品添加物消費量が分かるようになっており、安部氏がお考えになった食生活のあり方指針が示されている。一方、テストIIは添加物の知識を試す内容となっている。食品添加物の内容について日常考えたこともない方がこの2つのテストに回答されると、「え〜、こんなに食品添加物を摂っているの!?」と驚かれるに違いない。こうした手法によって添加物のお世話にどれ位なっているかを気付かされる話の説き起こしは見事である。しかし、その量に驚かされた方々に、その物質の有する内容物の使用目的は説明しても、その物質の本質や危険性に関する量的な話は全くされない。したがって、多くの方は何か分けの分からない化学物質をそんなに多量に摂取していると誤解されることになる。

 ところが、このレジメで安部氏が取り上げている食品添加物、調味料(アミノ酸など)、酒精、炭酸カルシウム、乳酸、レシチン、酸化防止剤(ビタミンE)、酸味料、ビタミンB2、ビタミンB1、pH調整剤、グリシン、リン酸Na、ソルビトールなどはほとんどが我々の体内に存在するものである。しかも、ここに挙げられた我々の体内にはない添加物の増粘多糖、セルロース、カゼイン、グアーガム、クチナシ色素、コチニール色素、ラック色素、アナトー色素、ソルビン酸などは全部天然物である。そして加工食品などで食品添加物として量的に多く摂取している増粘多糖の大半、カゼイン、セルロースなどは、通常の食品からでもかなり摂取しているものばかりである。

 唯一毒性の点で問題となる発色剤(亜硝酸Na)も通常の野菜から毎日摂取する数百mgの硝酸から生体内で多量に生成している物質である。従って、ここに挙げられている食品添加物で有機合成的な物質としてはカラメル色素、エリソルビン酸、黄色4号、黄色5号くらいになってしまう。カラメル色素も糖類の加熱で生成する物であり、“無添加”を謳った「みたらし団子」などの色の構成因子である。エルソルビン酸はビタミンCの異性体で極めて毒性は低く、黄色4号、5号も安全性の実験が行われ30年以上使用され続けている色素でクチナシ色素のような天然色素よりはるかに安全性が保証されている。

 こうしてみると安部氏が一般人に「あなたは年間何Kgもの食品添加物を摂取していますよ」と認識させるときには、同時に「その本質は我々の生体内物質か、天然物ですよ」という説明を加える必要がある。ところが、安部氏は恐らく今までの彼の著書、テレビなどの番組における話のいずれを見ても、化学に縁遠い人達に化学物質まみれの添加物食品というイメージを売り込もうとしている。しかし、実際の食品に使われている食品添加物を取り上げてみると結局は前述のようにそのほとんどが問題のない生体内物質か、天然物である。すなわち、一般の方がある意味で心配されるかもしれない真の意味での化学合成による完全に人工の食品添加物は極めて僅かしか摂取していないのが現状である。そして、「例えそれら化学合成品を摂取したとしても、食品添加物の場合、合成品として嫌われているものの方が、安全性に関しての科学的保証は天然物である多くの既存添加物より高いのが現実である。さらに、食品安全委員会リスクコミュニケーション専門調査会の唐木英明氏も説明しているように、“天然物=安全”という思考そのこと自体に対して、多くの科学者は誤りを指摘している。

 以上のような安部氏の問題点を熟知しているA氏であるからこそ、正義感に駆られて枚方市まで有給休暇を取って3月15日に消費生活センターに赴かれ、センターのトップの方とお会いになり、かなり突っ込んだ議論をされた。そして、そのときの様子を詳細に伝えて頂いた。A氏からの「安部氏を適切と考えているのか」という問に対して市側は「あれだけ受け入れられていて正しくないと言い得るのか」という回答をしておられる。これは、科学の世界では良くある間違いで、感覚で分かることと科学的真実は良く異なっていることがある。

 安部氏の講演を聞いたり、実演を見たりして化学物質という観点でのみ食品添加物を見せられると、知識のない人には全部何か得体の知れない公害でも引き起こしそうな物質に見えてくる。しかし、事実は前述のように我々の体内にある物質か通常の食品中に含まれている物質が大半である。ところが、こうした問題点を指摘しておられるA氏の主張を、残念ながら市側の方はご理解できなかったようである。回答は終始一貫して「ほかでの講演で問題があったとは聞いていない」とか、「今までの安部氏の講演依頼の実績が証明している」といった内容であって、問題点そのものに対するものではなかった。しかし、A氏の科学的根拠に基づいたA氏の主張に最後には、市の方もご理解をいただけたとのことであった。

 ところで、小生のところへは前回の私の拙稿に対して何人かの方から、阿部氏が環境保全を訴え、自然食品を販売する会合での人気講師であるとの報告をうけた。その講演に誘われて5万円以上する自然食品の錠剤を買わされたお年寄りの話などを連絡してこられた方もおられた。A氏はそうした問題点も質問されたようであるが、市側としてはあまり問題意識をお持ちでないようであった。むしろ、もし、例えそうであっても安部氏はそんな団体だと思わずに講演しておられる可能性があると弁護しておられたようである。

 いずれにしてもA氏が今回このような行動を起こされ、その意見を枚方市の方が真摯に聞かれたことは、少なくとも食品添加物の情報のあり方に再考を必要とするかもしれないと感じさせられた効果はあったように思われる。どういう情報が市民にとって本当に大切かと言うことを真剣に考えて自治体が啓発活動をされることを切に望む次第である。そして、A氏のようなリスクコミュニケーション能力を有する人材が小生の主宰させていただいている健康食品管理士認定協会には多数存在することを、最後に宣伝させていただく。(鈴鹿医療科学大学保健衛生学部医療栄養学科教授 長村洋一)

⇒ 多幸之介が斬る食の問題記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。

お知らせ

FOOCOMが「第1回食生活ジャーナリスト大賞」を頂くことに決まりました(3/28)
FOOCOMはこのほど、食生活ジャーナリストの会(JFJ)の「第1回食生活ジャーナリスト大賞(ジャーナリズム部門)」…【全文を読む】
FOOCOM.NET 会員募集 科学的根拠に基づく食情報を消費者に提供するために、ご協力ください。