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多幸之介が斬る食の問題|長村 洋一

食品添加物の量を無視した議論はナンセンス

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2006年9月20日

 一般消費者と食の安全の問題を論ずるとき、食品添加物、農薬の問題は避けて通れない問題である。そして、多くの人たちがもっともらしい誤った(?)科学的データに踊らされている。化学物質はどんなに怖いものであっても、ある量以上にならなければその作用は発現しない。

 保存料として悪の権化のように語られているソルビン酸であるが、そのLD50はラットの経口投与で10.5g/kgであり、酢酸(3.3g/kg)や食塩(3.9g/kg)に比較しても、毒性が低いことが明らかにされている。食品添加物を気にせずに食事をしている人たちの一日に摂取しているソルビン酸の量は数mgと計算されている。一方、食塩は健常者であれば多くの場合1日5g以上摂取している。こうした点から考えてソルビン酸の毒性は現実の問題としては全く問題にならないと考えてよい。

 このように、ある物質を極端に摂取したときの毒性を基に多くの物質の危険性が論じられているが、これが、一般市民を惑わす大きな原因となっている。食品添加物や農薬の攻撃の一般的なパターンとして、ある食品の中にある物質が入っているかいないかを論じ、入っているという事実が証明されると、その量を無視して大量に投与した場合の障害について恐怖を感ずるよう煽り立てるように訴えている。

 昨年からベストセラーで店頭に並んでいる、ある食品添加物に関する書籍の中に、毒性について次のような記載がある。

 添加物として使っていいかどうかや使用量の基準がそのネズミでの実験結果にもとづき決められているのです。「ネズミにAという添加物を100g使ったら死んでしまった。じゃー、人間に使う場合は100分の1として、1gまでにしておこう」大雑把に言えばそのように決めているのです。

 この記述は一日摂取許容量(ADI)のことを意味していると考えられるが、ADIの設定基準は致死量を基にしたものではなく、最大無作用量に対して100分の1であるから非常に大きな誤解を消費者に与えている。市民講演で筆者が受ける質問から、この書籍のこうした記述の弊害を非常に強く感じている。

 この記述は最後に「この事実からも国の基準だからといって完全に信頼できるものではないというのは、おわかりいただけるのではないでしょうか」と結んである。ADIの決定方法がこの著者の主張する通りであるとするならば全くその通りであるが、あまりにも無謀な間違いである。

 コップ一杯の水180mLは、水の分子量を18とすると、丁度10モルとなる。10モルの水分子の数は6x10の24剰個である。この水分子全部に特殊な印をつけることができると仮定する。そして、印のついたコップ一杯の水を太平洋の真ん中に持って行き、海にこぼし、世界中の海の水を十分に攪拌(かくはん)して再びコップに一杯の水を汲んだとき、そのコップの中に印のついた水分子は約80個存在する。

 これは、1モルという物質を構成する分子の数のすごさを物語る一つの例である。この計算から類推すると、汚い液体がコップ一杯どころか大型タンカーの規模で放棄されている海の水には、分子レベルで検索するならば怖くて触られないような分子が一杯存在しているに違いない。もし、分子が存在することだけで、その反応が起こるとするならば海の水は触れないことになる。

 化学反応は、その反応が現象として確認されるようにするために、一定の量が必要である。その量以下の分子は、存在していたとしてもほとんど存在しないのと同じである。しかし、化学反応は確率の問題であるから、どんなに少量であれ、ある物質が存在すれば、その反応が絶対起こらないとは言えないのも事実である。

 結論は「量を無視した議論はナンセンスである」。どんな物質であれ、存在することは大きな問題ではない、問題はその量である。量が多くなればなるほどその物質による障害が発生する確率は高くなる。どこにその量の線を引くかはその人の人生観の問題である。明日食べるものもない人たちを一人でも減らすために、極わずかな危険性のある野菜を分け合ってたべる人生観があっても良いように私は感じ、実行している。(千葉科学大学危機管理学部教授 長村洋一)

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