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多幸之介が斬る食の問題|長村 洋一

ゼロリスクを求めて失うもの

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2006年10月18日

 先般、ある都市で開催された消費生活フェアの講演の後で、質問に来られた方が「どんな食品添加物がどれほど危ないかについて書かれた本を読んでから、私は多くの食品が食べられなくなってしまった」と具体的にはその人が幾つかの食品群が食べられないことのストレスを訴えられた。

 その方はそれまで好きだったハム、レトルト食品、ラーメン、ジュースなどを、その本を読んでから全部食べたり飲んだりしなくなってしまったという話を最初にされた。ここまでの話は、そうした類の本を読んだ方によく発生する現象と思って聞いていた。しかし、その方の次の質問を聞いて問題の深刻さに気付かされた。

 「先生、食品添加物って麻薬のようなものですね。あの本を読んでから子供にも食べさせないようにしようと思うのですが、子供はおいしいものが何でいけないのと聞き入れないんですよ。私は今までどんなに怖いものを食べていたかを一生懸命に説明して、体に悪いから駄目と言っても聞かないんです。それで、もしどうしてもという時に、何をどれ位食べさせてもよいか教えて欲しい」というのがその方の質問の主旨であった。

 その方の食べられなくなった食品にどのような添加物が入っていたのかは、個々に調べてみないと分からないが、話された食品のすべてが日本の普通の食品メーカーが作っているごく普通の食品であった。恐らくすべての添加物が全く問題のないものであったと推定される。

 このような講演会に出席され、まじめに勉強をされている人たちの一部の方には、消費者を惑わす書籍によって十分に教育、洗脳された方がおられる。そんな方に対して、私がそれらの添加物1つひとつを取り挙げ、問題がないと言い切ろうものなら、とんでもない猛反撃を受ける声が聞こえてきそうであった。幸いにもこの方は、素直に私の話を聞いてくださった。

 結論から言えば、こうした人たちは「ゼロリスク」があると確信しておられるか、または多大な犠牲を払ってでも「ゼロリスク」に近づけるべきと考えている人たちである。ところが、ある一点だけに絞ったゼロリスクの追求は、時としてもっと大きなものを失うということをこの方たちに知っていただきたい。

 近年、コレステロール低下薬によってどこまでコレステロールを低下させるべきかが議論されている。コレステロール低下によって動脈硬化に基づく疾患は減少しても、ほかの疾患による死亡の増加が示唆され、トータルの寿命が必ずしも延びないという問題が提起されてきたのである。同じような問題は一頃のがん治療において「がんは治ったが患者は死んだ」というブラックユーモアが語られ、今日の新しい終末医療のあり方が生まれてきたのと重なるものがある。

 ましてや、通常の使用によってはほとんど障害が発生しないということが科学的に証明されている添加物について、そのリスクと、その使用によって得られる食生活と食文化に与えている大きな利益の間のどこに線を引くのがよいかは、こうした人たちに考え直して欲しい問題である。

 一般の人たちにこうしたリスクに対する極端に走らない良識ある線引きの説明ができる一般向け専門家を、教育課程の中で多数養成する必要性を私は感じている。(千葉科学大学危機管理学部教授 長村洋一)

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