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多幸之介が斬る食の問題|長村 洋一

科学者の責任を問わずして「あるある事件」は終わらない

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2007年4月18日

 本年早々に始まった「あるある捏造問題」は先月末に外部調査委員の報告が出され、4月初旬に関西テレビが検証番組を放送し、一応の落ち着きをみせた。しかし、この一連の報告の中でレタスの番組が捏造でなかったことに対して、「どうしてですか」と多くの方から質問を頂いている。結論から申し上げると「マウスは実際にも、理論的にも眠らなかった」が真実である。慎重な調査の上、2月下旬に発行されたNature誌の記者は同じ結論に達し、Kim教授と私をメディアの被害者としてその記事を結んでくれている。私はそれでも「捏造」にならなかったことに敢えて抗議をしないのは、2つの大きな理由でやむを得ないと感じているからである。1つは、言論の自由を守るために、そしてもう1つは制作会社のテレワークがやった捏造というのには余りにも不十分な面があるからである。ところが、この後者について言及すべき奇妙なことが起こっている。

 レタスの番組は次のように放送されている。まず、眠ることができる食材としてレタスが浮かび上がる。そこで、ウサギ、イヌ、サル、ヒトにレタスを食べさせたり、ジュースを飲ませたりすると、皆眠ってしまった。そこでJ大学のT教授が「レタスにはラクッコピコリンという鎮静作用のある物質が存在しています」と説明される。その次にサラダレタスを前にT教授の実験風景が映し出される。さらにレタスのジュースを飲ませたネズミは30分以内に眠ってしまったとの解説とともに、マウスのおとなしくなった場面が映される。そこで、再びT教授が「これは即効性です」とはっきりと説明をしておられる。

 この番組での問題点は、私の実験室で行って眠らなかったネズミの場面に対しT教授が「即効性で眠ってしまった」と解説された点と、鎮静成分をラクッコピコリンという間違った化合物の名前で説明された点にあった。しかし、この放送が捏造として取り上げられたときT教授は「一般論として申し上げたものが利用されて自分も被害者である」と弁明された。私はこのコメントに疑問を持っていた。

 外部調査委員の方と私のメールのやりとりの中に、T教授のお話になった内容として次のような一文がある。「レタスがどのくらいで人間に効くかは分からない。当時そのことを正確には知らず、現在も私(T教授)には分からない。日本テレワークの人からこの話をもらうまで、鎮静成分の存在も知らなかった。外国の文献を調べて、レタスに同成分が入っているので、これならば話せると思って話しただけである」。
 また、前述のようにT教授が実験をしている場面が放映されていることに関しメールに残っている一文として、「あくまでデモンストレーションとして行ったのであり、鎮静成分の量を量る為に行ったのではない。日本テレワークの人にデモンストレーションでいいからやってくれと言われて、実施しただけである」がある。

 以上のような外部調査委員の方とメールのやりとりがあったとき、私は「これはテレワークが強引にやった捏造ではなく、むしろT教授の積極的な共同作業があってはじめて成立した捏造」であると判断した。そして、今回の納豆ダイエットでその理論的根拠を説明されたS大学の教授のことを思い出した。この教授も私から見ると無責任極まりない発言をしておられ、レタス以上に問題と感じているが、全く公の場では問題とされていない。S大の教授が問題にされない中で、T教授のみを問題にするのは気の毒過ぎると感じた。

 東京大学大学院薬学系研究科の松木則夫教授が、先生のホームページに「あるある」の問題における研究者について、次のように論じておられる。「『専門家』と称する人が出てきて、「○○を食べると、△△に効果があります」などと尤もらしい発言をしていますが、非常に困ったものです。こうした科学的な根拠に基づかない発言は娯楽番組とて許されるものではなく、科学者のモラルが捏造と同程度に追求されるべきものでしょう。今回の事件で、専門家の発言が社会的に大きな影響を与えることが改めて分かったのですから、場合によっては職の剥奪・懲戒処分の対象にすべきでしょう」。私も全く同感である。

 ところで、今回この記事を書いたのは、私が理事長をやらせていただいている健康食品管理士認定協会へ健康食品管理士の資格を取られた方の何人かから「T教授が食品の効能について最近テレビで解説しておられますが、大丈夫ですか」という問い合わせが来ていることを、良識あるこのFoodScienceサイトの読者に問うて見たかったからである。関西テレビの社長は直接捏造に関与した訳ではないが、最高責任者として辞職をされた。そしてテレビ局自体は民放連から追放された。それほど世の中の人々の信頼を裏切った大きな事件として社会的制裁を受けたのである。

 そんな中で、その捏造に直接荷担した研究者には何の反省も自粛もなくても良いのだろうか。また、T教授を担ぎ出しているテレビ局は「うちの局はあるあるのような馬鹿な事件はやらない」とあの事件を他人事と考えておられるのだろうか。私は今「あるある」に限らずいくつかの番組も含めて、科学者集団により科学者の責任を一度徹底して追求しないと、結局は同じようなことが再び起こるのではないかと危惧をしている。そして、昨年の白インゲン豆食中毒事件、あるある事件などメディアの発する誤った科学情報に対して社会的な監視の目の役割を果たし始めている「健康食品管理士」の方々に大きな期待を寄せている。(千葉科学大学危機管理学部教授 長村洋一)

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