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うねやま研究室|畝山 智香子

EFSAの食品の健康影響評価は厳しすぎるのか?

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2009年7月22日

 食品の栄養価や健康影響に関する情報は、世界中で消費者のニーズが高いものであると同時に、世界中で誤解を招くものや虚偽・誇大広告の類が問題になっているものでもあります。今回は、現在ヨーロッパで進行中の新しい表示規制の一部について、紹介してみようと思います。
 EUでは2006年に食品の栄養と健康強調表示に関する規制が欧州議会で採択され、食品の強調表示は、科学的根拠に基づく明確で正確なものでなければならいと定められました。消費者が情報を与えられた上での選択をできるようにするためには、表示が重要だからです。ここで言う栄養強調表示(ニュートリションクレーム)とは、「低脂肪」や「食物繊維を多く含みます」といったような栄養成分に関するメリットを強調する表示のことで、健康強調表示(ヘルスクレーム)とは、「コレステロール値を下げる」といったような健康への影響を強調する表示のことです。

 そしてその科学的根拠については、欧州食品安全機関(EFSA)が評価することになっており、現在評価が進行中です。各食品企業がEFSAに評価を申請した栄養・健康強調表示の件数は数千件を超え、EFSAはそれらを整理・事前評価した上で個別の申請への回答を順次発表しています。当初の計画では2010年までに食品に表示できる健康強調表示のリストを作ることになっています。議論の経緯の詳細や背景文書などは、EUのサイト、Health and Nutritional Claimsで提供されています。

 EFSAでは、栄養健康強調表示についてはNDAパネルという専門委員会が担当し、子ども以外の人体機能に影響する13条、そのうち新しい科学的根拠に基づく13/5条、疾患リスク削減や子どもの発育と健康に関する14条というふうに、3つに分類した上で順次評価を行っています。どのようなものが申請されているのかを含めたこれまでの状況は、EFSAのデータベースで検索できるようになっています(このサイトからFood Sector Areaの欄のHealth claims Art.13/2または13/5、14を選択)。

 EFSAの健康強調表示に関する評価はまだ始まったばかりですが、これまで評価が終わった一部のものについて見てみると、「カルシウムが骨の発育に必要です」といったような、ある意味常識的な表示についての評価を除くと、これまでのところ食品業者側の申請が科学的根拠としては不十分だと却下されている割合が圧倒的に高いです。申請書類に不備があったり、個別商品についてのデータを求められているのに別の類似製品についての学術論文を提出していたりといったような評価以前の問題点も多々あるのですが、いわゆる学術論文があっても科学的根拠として不十分であると判断されていることも多いのが目に付きます。

 評価の内容を少し詳細に検討してみますと、例えばヨーロッパでは伝統的に人気の高いプロバイオティクス(消化管内の細菌叢を改善することにより宿主の健康に好影響を与える有用微生物)製品がいくつか申請されています。

 Lactobacillus rhamnosus GG (LGGR, ATCC 53103;乳酸菌の一種)、 L. rhamnosus Lc705 (DSM 7061) 、 Propionibacterium freudenreichii subsp. shermanii JS (DSM 7067;プロピオン酸菌の一種) に、Bifidobacterium animalis subsp. lactis Bb12 (DSM 15954;ビフィズス菌)を含む4種の混合物からなるLGGR MAXという製品が、過敏性腸症候群などの不快なお腹の症状を緩和する働きがあるという内容の健康強調表示が申請されました。提出されたデータでは無作為化プラセボ対照二重盲検の5カ月間の過敏性腸症候群の患者を対照にした臨床試験でのQOL(生活の質)改善を提示しています。この試験は参加者が86人で、ピアレビューのある雑誌に論文として発表済みのものです。もちろん論文の結論は症状緩和に有効であったというものです。しかしながら、EFSAの専門委員会は腹痛や炎症マーカーなどに有意差がなく、統計学的解析や対照化の手法などに弱点があり、明確な根拠とはできないと判断し、健康強調表示は認められなかったのです(2008年11月14日発表〔1〕)

 Lactobacillus plantarum (strain PL02;いわゆる植物性乳酸菌)、 Lactobacillus rhamnosus KL53A (乳酸菌の一種)及び Bifidobacterium longum PL03 (ビフィズス菌)の混合物からなる凍結乾燥粉末サプリメントであるLACTORALという製品について、お腹の調子を整えるという旨の健康強調表示が申請されました。この製品は過敏性腸症候群のような病気の状態にある人に向けたものではなく、特に病気とまでは診断されていない一般の人向けの製品でした。その申請についてEFSAの科学委員会が指摘したことは、腸内細菌叢の異常というのがどういう状態か定義しておらず、お腹の調子が悪いという状況がどのようなものでどうなれば正常だと判断できてそれがどう健康に影響するのか十分定義されていない、ということでした。この製品についてはほかにも菌の同定などに問題点が指摘されていますが、この有効性の定義についての指摘はEFSAが食品の健康影響に関する科学的根拠というものをどう考えているかを明確に表現したものだと思います。(2008年12月10日発表〔2〕〔3〕〔4〕〔5〕〔6〕)

 Bimunoというβガラクトオリゴ糖サプリメントについて、プレバイオティクスとして作用して腸内のビフィズス菌を増やすので、免疫機能をサポートしたり旅行者下痢症の原因となる悪い細菌の腸内での増殖を阻害したり、健康な消化管機能を維持したりするのに役立つという健康強調表示の申請を、因果関係が確立されていないとして認めませんでした。この大学との共同研究で製品を開発している会社の提出したデータでは、ヒトでの二重盲検臨床試験などで腸内のビフィズス菌の数が増加していることは示されていたのですが、それがなぜ健康によいのかということが立証されていないというのが主な理由です(注:プレバイオティクスとは細菌そのものではないが細菌の栄養素などとして細菌を増やす働きのあるもののこと)(2009年7月7日発表〔7〕〔8〕〔9〕)

 一般的に、腸内の悪玉菌が増えるとバランスが悪くて身体に良くなくてビフィズス菌のような善玉菌が増えると身体に良いといったようなことが言われますが、悪玉菌や善玉菌とは実際に何と何でそれがどのような状態であればバランスが悪いと言えるのか、その結果として具体的にどのような症状が出たり病気になったりするリスクがどのくらい変わるのかといったようなことは、実はあまり明確にはされていません。プロバイオティクスは概念としては確立しているのですが、まだ効果を目的にして実際に使えるだけの根拠はないと言えるでしょう。EFSAはその点を問題にしたのです。

 08年にオランダで行われたプロバイオティクス製品を用いた急性膵炎患者を対象にした臨床研究が、プロバイオティクス投与群の方が死亡率が高かったという結果になり、プロバイオティクス製品が必ずしも無条件に安全ではないということが明らかになったこともあります。もちろんこの事例は、健康な人がヨーグルトなどの発酵製品を食べることで悪影響がある可能性があるという話ではありません。しかし、どのような条件があると有害になりうるのかを明確にする必要はあります。「免疫機能の亢進」という定義が明確にされないまま、なんとなく良いことのように受け取られている用語が、実際にヒトで認められる症状になるとアレルギーと自己免疫疾患の増悪だったりする可能性もあるのです。

 EFSAによるこうした評価結果を受けて、フランスの大手乳業メーカー、ダノンが、ヨーグルト「Activia」(日本の製品名は「Bio」)のお腹の調子を整えるという健康強調表示申請などを取り下げています。EFSAの評価基準がどのような水準になるのか当初はよく分からなかったため、とにかく申請だけはしておこうということで多数出された認可申請ですが、かなり厳密な科学的根拠を要求されていることが明らかになってきたため、なんとなく健康によいという一般的思い込みのおかげで製品イメージが良いのに、EFSAによって科学的根拠がないと明確に判断されてしまうことによってイメージダウンするリスクのほうが大きいと考えたとされています。

 EUの規制はまだ発効していませんので、現時点ではEFSAにヘルスクレームとしては却下された製品でも、その却下された効果を謳って販売継続中です。EFSAの意見がそのまま採択されて規制が発効した場合には、現在のままの形での宣伝や表示は違法とされます。数年後にそうなるかどうかは政治的な問題もあるので断言できませんが、科学的根拠がないと判断されたという事実だけは変わりません。

 EFSAの評価基準は、医薬品の有効性評価などを見慣れている人から見ると妥当であろうと思われるのですが、食品業界の常識からは厳しいと思われているようです。日本の特定保健用食品(トクホ)のうち、微生物やオリゴ糖などによりお腹の調子を整えるといった類の製品は、EFSAに申請するとしたら認められないでしょう。日本とヨーロッパで科学的事実が違うわけではなく、「科学的根拠」という言葉の意味する内容が違うという状況になっています。食品の健康影響については医薬品ほど厳密でなくてもいいという主張があるのも事実です。

 しかし医薬品は専門家である医師が詳細情報を得た上で患者への効果を確認しながら使うのに対し、食品は専門家ではない一般の人が簡単な表示だけで判断して使ってしまうものです。食品だから根拠は薄弱でよいという認識でいいのでしょうか。科学的根拠という言葉の意味が日本と欧州では、あるいは日本国内でも食品と医薬品では、全く違うという状況が、消費者にとって「科学」を理解する妨げになってはいないでしょうか。日本のトクホという制度は、世界でも極めて早い時期に導入され、既に15年以上を経ています。この制度があることによって国民の健康増進にどれだけ寄与したのか、本当に消費者の健康に役立つ情報とは何なのか、もう一度基本に返って考えてみてもいいと思います。(国立医薬品食品衛生研究所主任研究官 畝山智香子)

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