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うねやま研究室|畝山 智香子

「環境ホルモン」問題はどうなった?ビスフェノールAの評価を巡る世界の動向「その2」

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2010年2月24日

 2008年5月、「『環境ホルモン』問題はどうなった? ビスフェノールAの評価を巡る世界の動向『その1』」を書いてから、2年弱がたちました。この間、この「環境ホルモン」という言葉もほとんど聞かれなくなりましたが、実際にビスフェノールAの問題がどうなったのか、まとめてみます。
 まず、これまでの法的措置を見てみましょう。08年の時点では、カナダが世界で初めてほ乳瓶へのポリカーボネートの使用を禁止する予定であるという状況でした。このビスフェノールAを含む乳幼児用のほ乳瓶の宣伝・販売・輸入を禁止するという具体的規制案は、ヘルスカナダが09年6月に発表し、同年9月10日までパブリックコメント募集が行われました。現在は募集期間が終了し、その意見をとりまとめていると思われます。最終報告はまだ発表されていません。

 一方、化学物質管理計画の一環として環境中への排出を削減するため、工場排水中のビスフェノールA濃度の規制案も作成しており、こちらも進行中です。規制については手続きは進行しているものの2年前からあまり変わっていないというのが現状です。
 リスク評価とリスクコミュニケーションに関しては、前回「その1」で、欧州食品安全機関(EFSA)と米・国家毒性プログラム(NTP)の評価についてはお伝えしました。その後、ビスフェノールAに心疾患などとの関連があるかもしれないといった論文が発表されたといったニュースがメディアを賑わせたことが何回かありましたが、その度にEFSAやほかの規制当局は「そのような解釈は成り立たない」という見解を発表しています。主なものは次の通りです。

○EFSA
ビスフェノールAと医学的疾患の関連についての研究に関するEFSAの声明:CEFと評価法専門委員会による合同声明(24.10.2008)(要約)
 JAMAの2008年9月16日号に発表されたLangらの成人の尿中BPAと疾患の関連についての研究は因果関係を示す十分な証拠にはなり得ず、TDIを改訂する必要はない。

○BfR
ビスフェノールAの新しい研究は過去のリスク評価に疑問を呈するものではない(19.09.2008)(要約)
 JAMA(300 (2008) 1303-1310)とPNAS(105 (2008) 14187-14191)に発表された2つの論文を評価した結果、BfRはこれらの知見はこれまでのリスク評価に疑問を投げかけるものではないと結論。

○AFSSA
Stahlhut (2009)らによるヒト尿中ビスフェノールAの論文についてのAFSSAの意見
 この研究(EHP Volume 117 Issue: 5 Pages: 784-9.)は、これまでのリスク評価に影響しない。

 ここで問題になっている論文は、何らかの病気と何らかの物質の存在や濃度に「関連があった」というもので、一般論として相関関係があるということは必ずしも因果関係があるということを意味しないという基本的なことが評価機関によって指摘されています。このような、危険がある可能性があるという論文が出るたびにメディアで大々的に報道され(リスクはないという論文ももちろん発表されているものの、ニュースになることはない)、当局が論文の欠点などを指摘しても一般の人々には危険らしいという印象だけしか残らないという状況はGM(遺伝子組み換え)作物の場合と同じです。

 さらにここにNGOや民間団体からの「告発」が加わります。ドイツでは民間団体がビスフェノールAを使っていないおしゃぶりからビスフェノールAが溶出すると発表したため、BfRが検査を行ってそのようなことはないと発表しています。

○民間団体の発表に対するBfRの見解
おしゃぶりのビスフェノールA −BfRの検査結果(04.11.2009)

 米国ではコンシューマーリポート(消費者団体)が缶詰食品のビスフェノールAについて特集を組み、「ビスフェノールAフリー」と表示してある缶詰からも検出されたと報告しています。検出されているのはppbというレベルです。

○米国コンシューマーリポート(消費者団体)
Concern over canned foods
Our tests find wide range of Bisphenol A in soups, juice, and more (December 2009)

 またカナダでも「ビスフェノールAフリー」として販売されているほ乳瓶からビスフェノールAが検出されたというニュースがあり、そのもとになったのはヘルスカナダの調査結果でした。発表された論文では一部の製品からpptレベルのBPAが検出されており、ヘルスカナダの研究者はこの結果は製造時の混入によるアーチファクトである可能性が示唆され、健康上に問題になる量ではないと言っているのですが、製造業者はこれまで検出されていないと、市民団体はたとえわずかでも検出されたら「BPAフリー」ではないと反論しているようです。食品という極めて雑多な化合物を大雑把に扱っているのが普通の状況下で、検出されたのがppt(1兆分の1、10のマイナス12乗)というレベルならゼロとみなしてもいいだろうと思うのですが、消費者は許せないと考えるらしいです。

○カナダの報道
When BPA-free isn’t(July 30th, 2009)
 そのような状況下でNTPとは別に評価を行っていた米国食品医薬品局(FDA)ですが、09年に政権交代に伴い長官が変わりました。このことがビスフェノールAの評価にどういう影響を与えるかが注目されていましたが、10年1月15日にNTPの結論に合意し、さらなる研究に資金を提供するとともに暴露量削減のための簡単な対策を助言するという発表がありました。

○米国FDA
Update on Bisphenol A for Use in Food Contact Applications: January 2010(01/15/2010)(要約)

 規制を行う根拠となるようなデータは現時点では存在しないため、法的対応はとりませんが、自主的に使用を削減するよう促しているため、前政権時代の長官の意見よりは有害性を主張する意見を重く見たと言えます。

 新たな研究課題としてげっ歯類の行動や神経解剖学といった分野が入っていて、これが簡単に結果が出るとは思えないため、さらに問題が長期化するかもしれないと思います。行動への影響というのは、もともと毒性学的評価方法もヒトでの意味も確立されていない分野ですし、しかもごく微量の影響を検出するという話ですから。ビスフェノールAの微量での影響についての研究は既に10年以上精力的に行われてきました。それでも決定的な根拠は出ていないので、さらに1-2年でめざましい成果があがると予想するのは困難です。

 さらに、フランス食品衛生安全庁(AFSSA)が報告しているように、もし微量での特定時期での暴露による影響がヒトにとって重要な意味を持つのであれば、見直しが必要になるのはビスフェノールAだけではなく、ほかの数多くの天然化合物も同じなのです。

○AFSSA
Bisphenol A: AFSSA recommends the development of new assessment methods(5 February 2010)(要約)

 食品がヒトに全く影響を及ぼさないということはありません。どこまでを有害影響と判断し、どこまでを許容範囲とみなすかという根本的な問題が問われているのかもしれません。しかし、これは答えを出すのがとても困難な課題です。

 ビスフェノールAについてはオーストラリア当局は一貫して冷静です。オーストラリア・ニュージーランド食品基準機関(FSANZ)はFDAの発表を受けて、ファクトシートを更新しています。

○FSANZ
ビスフェノールAと食品容器(要約)

 そしてニュージーランドのNZFSAは、2月のAndrew McKenzie長官のコラムでビスフェノールAの問題を取り上げ、科学的根拠ではなく一般の人々の感覚(これがメディアの不正確な報道に影響されていることは誰もが認識していることです)を基準に政治的判断がなされ、規制などの意志決定が行われてしまうことはデメリットが大きいと述べています。

○長官のコラム
一般の意見により行われたBPAのリスクについての決定(要約)

 今後の予定として、EFSAは今年4月に専門家会議を行い、5月にEFSAとしての意見を採択する予定です。また今年10月にオタワでヘルスカナダが主催するビスフェノールAに関するWHO科学専門家会合が開催されます。日本の食品安全委員会でも、器具・容器包装専門調査会に設置された「生殖発生毒性等に関するワーキンググループ」で審議していた結果がそろそろ出るのではないかと思われます。

 米国の研究成果がどのくらいの期間で出るのかどうかは不明ですが、なんらかの発表はあるでしょう。これらについてはさらに「その3」でお伝えすることになると思います。(国立医薬品食品衛生研究所主任研究官 畝山智香子)

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