科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

食品表示はこれからどうなる?食品表示基準案のパブコメを出そう(下)―「栄養成分表示」「表示のレイアウト」など

森田 満樹

キーワード:

 現在、パブコメ中食品表示基準(案)について、パブコメの目玉である製造所固有記号を(上)に、複雑な変更を伴うアレルギー表示、原材料名の変更を(中)にまとめました。(下)は食品表示法施行で新たに導入される「栄養表示の義務化」を中心に考えます。

5)栄養成分表示の義務化と栄養強調表示のルールの改善

 表示基準案には、新法施行後の栄養表示の対象成分、対象食品、対象事業者、栄養強調表示、表示の方法(食品単位、表示レイアウト等)について、項目ごとに散らばって記載されています。栄養表示は新法施行ではじめて義務化されるもので、環境整備に時間がかかることが予想されます。このため経過措置期間は施行後5年間とされ、2020年に完全義務化となります。

【基準案の概要】
1)【義務表示は5成分】
 基準案における栄養成分の表示は、以下の3分類。
 ・ 義務表示…エネルギー、たんぱく質、脂質、炭水化物、ナトリウム
 ・ 推奨表示…飽和脂肪酸、食物繊維
 ・ 任意表示…糖類、トランス脂肪酸、コレステロール、ビタミン、ミネラル類
2)【ナトリウムは食塩相当量に】
 日本では食塩相当量を用いた栄養指導が一般的に行われており、ナトリウムの表示は消費者になじみ深い「食塩相当量」に代える。
3)【対象食品は加工食品、免除規定いろいろ】
 対象食品は、原則として予め包装された全ての加工食品と添加物。しかし、免除規定が食品、事業者、販売形態によって次のとおり多岐にわたる。
  〇 省略できるもの(表示基準案本体21p第3条第3項)

・ 容器包装の面積が30平方cm以下であるもの
・ 酒類
・ 栄養の供給源としての寄与が小さいもの(例、水、コーヒー抽出物)
・ 極めて短い期間で原材料(その配合割合を含む。)が変更されるもの
・ 消費税法第9条第1項において消費税を納める義務が免除される事業者が販売するもの(売上高が1,000万円以下の事業者)

  〇 表示を要しないもの(表示基準本体22p・第5条)

・食品を製造し、又は加工した場所で販売する場合(外食、持ち帰り弁当、インストア等でつくった弁当や総菜)
・不特定または多数に譲渡する場合(サンプル配布)

  〇 業務用加工食品は義務表示ではなく任意表示に(表示基準本体31p、第12条)
4)【分析方法や表示単位】
 分析方法、表示単位については、現行制度を維持しつつ、新たに分析方法を記載する栄養成分について、食事摂取基準の基準値を参考に表示単位を設定している。さらに、「食塩相当量」の表示単位は、栄養指導や栄養施策で用いられる「g(グラム)」となる。なお、最小表示の位については、現行の栄養表示基準では示していないため、商品によっては何桁も無意味に表示しているものも見かけるが、新基準案ではこの点が見直され、栄養素等表示基準値の表示の位に準じる等、最小単位を成分によって規定している。
5)【相対表示の見直し】
 相対表示で、栄養成分の低減や強化といった栄養強調表示をする際には、コーデックスの考え方を導入して、低減された旨の表示をする場合(熱量、脂質、飽和脂肪酸、コレステロール、糖類及びナトリウム)及び強化された旨の表示をする場合(たんぱく質及び食物繊維)には、絶対差に加え、新たに25%以上の相対差を必要とする。これによって、「当社比塩分20%カット」という表示はなくなる。
6)【無添加強調表示を制限】
 コーデックスの考え方を導入して、食品への糖類無添加に関する強調表示及び食品へのナトリウム塩無添加に関する強調表示(食塩無添加表示を含む)は、それぞれ、一定の条件が満たされた場合のみ、可能となる。
7)【様式は2つ】
 義務表示の5成分は、熱量、たんぱく質、脂質、炭水化物、食塩相当量の順番に表示。食品単位は100g、100ml、1食分、1包装、その他1単位のいずれかを表示、1食分の場合は量が併記される。義務表示だけの場合は様式1で、推奨表示となる飽和脂肪酸や食物繊維を表示する場合は、国際的な動向を参考にして様式2の内訳表示になる。たとえば飽和脂肪酸は脂質に包含され、炭水化物には糖質と食物繊維が包含されることが一目でわかり、内訳表示によって、栄養成分表示の知識も消費者にも伝わることになる。

様式1義務表示事項のみを表示する場合
様式1

様式2 義務表示事項+任意表示をする場合
様式2

【基準案の課題】
 栄養表示の義務化によって、消費者が商品を選択する際の重要な情報が整備されることになり、健康的な食生活の実現の一助となります。多くの食品に表示されることで、一日の摂取量が大まかにわかるようになり、食生活の改善にもつながることが期待されます。また、相対表示や無添加強調表示を制限する考え方が新たに導入され、消費者の誤認を防ぐ方向性が出されたことも望ましいことです。せっかくの栄養表示の情報ですから、その意味を理解し、活用していきたいものです。

 一方、説明会では、これまで栄養表示基準をしてこなかった中小の事業者にとって、義務化はコストもかかり大きなハードルとなるという意見が聞かれました。たとえば、インストアではなく別の場所でつくる弁当やデザート等はラベルプリンターで表示されていますが、多品種少量生産で、商品の寿命も短いものが多く、栄養表示をその都度作成するのは大きな負担を伴うという声もあります。表示基準案では、極めて短い時間で原材料が変更されるものは表示が免除されるとありますが、今のところ定義が明確でなく、混乱を来さないよう今後Q&Aで明確にすることが求められます。あわせて小規模事業者でも対応できるような環境整備も求められます。

 また、保健所の担当者から「栄養表示規定の除外について、消費税法上の免除だがこれは事前に登録申請が必要なのか。市場にある商品が除外規定の事業者かどうかは、収去する際には分からず違反かどうかはわからない」という質問も出ています。消費者庁は、「事前の申請ではなく、都度、事業者本人に確認してほしい。事業者の自主申告での確認となる」と述べており、執行体制にも課題を残しました。

【パブコメの際の留意点】
 現行の栄養表示基準は一本の基準でみやすかったのですが、新たな基準案における栄養表示に関する規定は、あちこちに散らばっています。意見を出す際に記入様式を使う場合は、条番号が複雑です。

〇義務表示5項目(エネルギー、タンパク質、脂質、炭水化物、食塩相当量)については、表示基準案本体6~7p、第3条第1項
〇分析方法や表示単位は、本体6~7p、第3条第1項
〇免除対象食品(小面積、酒類等)は、本体21p・第3条第3項
〇免除対象形態(外食、インストア等でつくった弁当や総菜)は、本体22p・第5条
〇推奨表示(食物繊維、飽和脂肪酸)については、本体23p・第6条
〇任意表示(「含む」など補給ができる旨の表示や相対表示25%等)については、本体24~26p・第7条
〇糖類・ナトリウム塩無添加強調表示については、本体26p・第7条
〇業務用加工食品の免除については、本体31p、第12条
〇添加物の義務表示は、本体44p、第32条
〇2つの様式は、表示基準案の最後の頁から2頁め、別記様式2-1、3-1

6)表示のレイアウト改善でわかりやすくなる?

【基準案の概要】
1) 表示可能面積が30平方cm以下の場合は、安全性に関する表示事項(「名称」、「保存方法」、「消費期限又は賞味期限」、「表示責任者」及び「アレルゲン」)については、省略不可になる
2) 「添加物以外の原材料と添加物」の区分を明確に表示する

【基準案の課題】
 食品表示法は「わかりやすい表示にする」ことが宿題でもあり、消費者委員会食品表示部会における検討の際にも、消費者庁からはポイント数を大きくする、レイアウトを変更する等の案が出されていました。しかし、消費者庁案は食品表示部会で同意を得ることができず、結局、ポイント数は現行制度のままで、表示可能面積が30平方cm以下の場合は安全性に関する表示事項が義務化されました。

 食品表示の一元化にあたっては、安全性に関する情報を伝えることを最優先にしており、その観点からいえば小さい面積でもそれだけは義務付けるという考え方は、一定の方向性に沿っていると思います。ただし、食品の形態によっては技術的に難しいことも予想され、今後は駄菓子屋さんで販売しているようなお菓子の種類が減るのかもしれません。

 一方、表示レイアウトを「わかりやすくする」という観点から決まったのが、食品添加物以外の原材料と食品添加物について明確にするために区分(例「/」、「:」、改行等)の導入です。説明会では「明確に分けるために、どのような記号だったらいいのか」といった質問が出され、消費者庁はQ&Aで示すと答えています。

 食品と添加物の区分については、事業者からは戸惑いの声が聞かれます。事業者の相談窓口には、この添加物はどういう用途で用いられるのかといった個別の質問は寄せられるものの、どこからどこまでが食品添加物かといった質問はあまり寄せられないそうです。また、区分をするためには、改版が必須であり手間とコストがかかります。ラベルプリンターの場合も、「:」など一文字入れる変更作業のコストは大きいといいます。それでも、食品表示部会ではほとんど議論にならず決まりました。

 確かに区分をすると一見わかりやすくなるようにみえるのですが、それ故に消費者をミスリードする可能性もあるでしょう。商品選択の際に、区切りの後半部分の添加物の少ない物を選ぶ消費者が増え、食品添加物に対する忌避感が高まることになるのではないか。しかし、甘味料でエリスリトールなど食品添加物と思いきや、原材料に区分されるものもあります。添加物の代替品として原材料の種類や量が増えることも予想され、新しいルールによって、食品添加物の安全性に関する誤解が広がることが懸念されます。

【パブリックコメントの際の留意点】
 意見を出す際に記入様式を使う場合は、表示可能面積が30平方cm以下の場合の規定は、本体21~22p、第3条第3項となります。また、食品と添加物の区分は、表示基準案の最後の頁から5頁め、別記様式1-1、備考欄の2にあたります。

7)まだまだある 食品表示基準案の課題
 長々と表示基準案の主な変更点を中心にまとめてみましたが、表示基準案と概要版をあわせて読み込むと課題はまだあります。たとえば経過措置期間。概要版には出ていないので見逃してしまいますが、本体52p、附則第3条には「施行日から2年を経過した日(検討中)までに製造され、加工され、又は輸入される加工食品(業務用加工食品を除く。)及び同日までに販売される業務用加工食品の表示については、第二章の規定にかかわらず、なお従前の例によることができる。」とされています。

 これは、一般用加工食品は施行日から2年間は現行の表示で製造してもOKだが、業務用食品は同日までに販売とあるので、賞味期限がこの日までの製品しか現行制度の表示は許されません。業務用加工食品は一般用加工食品のように表示義務項目が多くないからということでしょうが、数年単位の賞味期限のある缶詰のような食品は、今から表示を変更しておかねば間に合わないことになります。

 意見を出すにあたってはつい細かい点ばかり目が行きがちですが、大きな観点も必要でしょう。食品表示法は、これまで目的もバラバラだった3つの法律を一つにしたもので、「わかりやすい表示にする」ことも宿題でした。この宿題に、基準案は答えることができたでしょうか。

 食品表示は、様々な問題が起こったり、新しいタイプの食品が増えるたびに見直され、食品ごとにたくさんのルールが定められて今の形になっています。そう簡単にはわかりやすくならないのかもしれませんが、来年春の食品表示法施行をスタート点として、今後はわかりやすさに向けてさらに検討をしてもらいたいと思います。
 これからの食品表示法をさらによいものにしていくためにも、多様な意見が必要です。パブリックコメントに、どんどん意見を出していきましょう。(森田満樹)

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。