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執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

消費者庁が景品表示法・課徴金制度の導入の骨子案を公表 短すぎるパブリックコメント(10日間・9月4日まで)のなぜ?

森田 満樹

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 2013年秋に起きたホテル等のメニュー表示問題を受けて、景品表示法に課徴金制度を導入する法案準備が進められています。8月26日、消費者庁はこの秋の臨時国会の審議に向けて骨子案を公表、9月4日までパブリックコメントを求めています。

 案を公表してから9日後の締め切りとは、とても短い。パブリックコメントは30日以上ではなかっただろうか。そう思って消費者庁の課徴金制度検討室に問い合わせたところ「パブリックコメントには2種類あって、行政手続法によるものとよらないものがあります。今回の意見募集は後者で任意の意見募集となっていて、その場合は30日以上の規定はかかりません」ということでした。

 確かに政府のパブリックコメントの総合窓口の一覧をみると2種類あることがわかります。それでも、任意の意見募集でも概ね30日以上がふつうですから、やはり異例の短さでしょう。担当者によれば、そもそも今回の課徴金制度についてパブコメを求める予定はなかったということです。

 課徴金制度を検討することは既に改正景品表示法で決められており、消費者庁は速やかに法案を提出することが求められ法案の作成を進めていたという経緯があります。与党の法案審査を経て9月下旬には閣議決定、秋の臨時国会に上程されて審議され法案成立を目指す、という見通しで進行していて、そのスケジュールでいけば、パブコメが予定されていなかったというのも無理からぬことでしょう。

 パブコメや説明会こそ予定していなかったものの、消費者庁は概要について、既に約140団体と意見交換を行ったということです。ところが、ここにきていくつかの団体から「慎重に検討すべき」「パブコメを求めるべき」という意見が出されて、急きょ対応することになったのです。

●パブコメ案では、課徴金は売り上げの一律3%

 パブコメにかけられている消費者庁案はどのようなものでしょうか。
 消費者庁が示した課徴金制度の主目的は、不当な表示を行った事業者が「やり得」にならないよう、だまして得たお金の一部を課徴金という形で国に納付させるというものです。また、だまされた消費者の被害回復を促進することも考慮されていて、事業者が自主返金等を行った場合は課徴金を免除するという制度設計になっています。

 この制度設計は、消費者委員会の審議における答申がもとになっています。消費者委員会はメニュー表示問題を受けて2013年12月に「景品表示法における不当表示に係る課徴金制度等に関する専門調査会」を設置し、2014年2月から6月まで13回にわたって審議を行い、様々な立場の事業者団体からもヒアリングを行なっています。それを踏まえて消費者委員会が6月10日、答申をまとめています。

 この答申を受けた消費者庁の法律案は、概ね次のようなものです。
 

・対象行為を景品表示法の「優良誤認」「有利誤認」「不実証広告規制」としており、これら不当表示を行った事業者に課徴金を課す
・課徴金額は対象商品又は役務の売上高の一律3%とする
・違反行為において自主申告をした事業者は、課徴金額の2分の1を減額する
・対象期間は3年間を上限
・事業者が自ら注意義務を尽くしていたと証明があった場合は、対象から除外
・課徴金額150万円未満は賦課しない(売上高の3%から計算すると売上高5000万円未満は賦課しない)
・違反行為がなくなった日から5年を経過した時は、課徴金の納付を命じることができない
・被害回復の観点から、「自主返金」「寄附」「期日までに報告」要件を満たす場合は課徴金を免除する。

【自主返金】購入者のうち、取引額も個別に特定できるものを対象として、適正な返金手続きを適切に履行していること(返金を受けるのに必要な情報を予め周知し、申出者に金銭で返金を実施、その時の額は売上高の3%以上であることなど)
【寄附】上記の自主返金合計額が課徴金額未満であるときは、補充的に独立行政法人国民生活センターに対して寄付を行う(寄付は景品表示法に関する消費者被害の防止や活動のための助成に充てる)

 つまり、景品表示法で不当表示を行った事業者に対して、対象商品またはサービスの売上高の一律3%を国庫に納めてもらうのが原則で、自主申告をした場合は減額されたり、課徴金額が少ない場合やちゃんと注意していたのに間違えてしまったような場合は、免除される。また、事業者が購入者を特定して自主返金をしていた場合に課徴金に達していれば課徴金は免除され、その場合に課徴金に達しない場合は国民生活センターに寄付をしてその額に達すればよい、といった内容です。

 この概要案について、8月26日に開催された消費者委員会本会議で消費者庁が消費者委員に説明を行っています。消費者委員からは、答申案を受けて消費者庁がスピーディに骨子をまとめたことを評価する意見とともに、一律3%の規定や規模基準150万円未満(売上高5000万円未満)が妥当か等、質問が出されています。

 この日の消費者庁の説明によれば、「3%という数字は消費者庁が発足して過去5年間で100件ちかくの措置命令を出しているが、これらの営業利益を計算しその利益率について数字を比較検討したところ妥当な数字」としています。また、規模基準を150万円未満とすると、該当するのは措置命令案件全体の4割であるということです。実際に措置命令が出された案件で課徴金が課される事例はかなり限定されそうです。

 これに対して委員からは、「3%の課徴金は限定的だが、この数字は死守すべき」「課徴金の額が150万円未満の事業規模では裾切りされることになるが、それでは不十分で、もっと低くするべき」「自主返金の規定がわかりにくく、十分な説明をしないと混乱する」といった意見が出されています。消費者委員会は、課徴金制度の導入は不当表示を事前に抑止するために必要であり、そのうえで消費者保護と被害者救済の立場に立って意見をまとめた立場です。具体的な3%や150万円未満と言った数字は示しておらず、消費者庁案では不十分といった感じを受けました。

●自民党消費者問題調査会で反対意見続出

 消費者庁案は今後、与党で法案審査されて閣議決定されてから、秋の臨時国会に上程される予定です。ところが、8月27日の自民党消費者問題調査会では、景品表示法への課徴金制度に対する反対意見が噴出したといいます。この日の議題は、他にも食品表示法の基準案や新しい機能性表示制度案もあったのですが、自民党の出席議員の関心はもっぱら課徴金制度に集中しました。

 ここで、議員からは「慎重に検討すべきで拙速に進めるべきではない」「事業者の意見が取り入れられておらず、事業者の活動が委縮しかねない」「不実証広告の対象となる表示は、課徴金の対象とすべきではない」「課徴金が売上高の一律3%では中小事業者はつぶれかねない」「国民生活センターに寄付をすれば課徴金が免除されるのは法制度として違和感がある」など、制度の導入の時期や骨子案の要件や手続きについて、消費者庁案は大いに問題があるといった内容だったそうです。消費者庁案に賛成する意見はなかったということでした。

 確かに制度の導入をめぐっては、一社)日本経済団体連合会などの経済団体では当初から慎重な意見が相次いでいました。「厳しい行政制裁である課徴金制度の導入については、慎重に検討するべき。その制度目的は、独占禁止法と同様に違反行為の抑止とすべきであり、ここに消費者の被害回復という民事的な視点を持ち込むべきではない。また、課徴金をかけるのであれば故意や悪質性の高い事案に限るべきであり、具体的にどんなケースで悪質性が高いのかガイドラインのようなものをわかりやすく示すべき」といった意見です。

 このように課徴金制度に慎重な立場の意向を受けて、自民党の消費者問題調査会では消費者庁案に「待った」をかけたと思われます。この様子では、与党の法案審査で消費者庁の概要案はかなりの修正が求められ、秋の臨時国会の閣議決定も難しいのかもしれません。

 この問題について消費者団体側は、不当な表示で被害を受ける側ですから、当然のことながら課徴金制度の導入に賛成です。一社)全国消費者団体連絡会の意見はとにかくシンプル。「事業者はウソをついたり、大げさな表示をしないでほしい。『ありのままの姿』を表示していれば、事業者は痛くもかゆくもないはずであり、健全な市場を形成するためには課徴金制度の導入は歓迎すべきことだ」というものです。

 そのうえで「消費者庁案の課徴金算定額は限定的な範囲で、加算措置の導入も見送られ、自主返金に拠る課徴金免除が導入されるなど事業者側に配慮された中身になっているが、課徴金制度の導入をこれ以上待つことの方が我慢できない。何としても臨時国会で成立を!」という趣旨で意見を出していくとしています。

 自民党の消費者問題調査会の意見と、消費者委員会や消費者団体側の意見には大きな隔たりがあります。そこで急きょ行なわれることになったパブリックコメント。短い期間で、事業者団体や消費者団体の意見がどのくらい寄せられるのか。任意の意見募集のため、寄せられた意見がどの程度公表されて今後の法案審議に反映されるかわかりませんが、今後の課徴金制度の行方にとって大きな意味をもつことになりそうです。(森田満樹)

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。