科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

JAS規格にはほど遠い 農水省補助事業「健康食品情報開示自主ガイドライン案」

森田 満樹

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 農水省の講堂で「健康食品の情報開示自主ガイドライン(案)について」と題する説明会が、2月4日開催されました。健康食品のガイドライン案といえば、ちかく消費者庁で発表される機能性表示食品制度のガイドライン案を思い浮かべますが、この日の説明会の内容は全く関係ないものでした。

 こちらのガイドライン案は、平成26年度農水省補助事業の公募を受けて、食品トレーサビリティシステム標準化推進協議会が作成したものです。同協議会は「消費者が健康食品やサプリメントを安心して購入できるよう、事業者が情報開示をする場合に遵守すべき自主ルールを示すもの」だと説明しています。説明会は同協議会主催で行われ、内容を公表して業界関係者200名近くの意見を聞くために行われたものでした。

 ガイドライン案の内容ですが、対象は「いわゆる健康食品」で、情報開示項目は(1)有用成分等の名称及びその含有量又は原材料相当量、(2)品質・衛生管理の方法、(3)消費者対応部門の連絡先の3点、これらを容器包装に表示することとしたものです。

 (1)で「有用成分」ということばがでてきますが、「有用成分等の名称の表示は、当該製品に使用した原材料又は含有する有用成分等を記載する。有用成分が明確でないものについては、合理的な指標成分や品質管理方法に基づき、原材料相当量分を記載する」とあるだけで、ここでは有用成分の定義も、しばりもありません。

 これでは、ダメでしょう。いわゆる健康食品には、有効性の科学的根拠が明らかではない商品が多くみられます。ガイドライン案はこの根拠を示さないまま、事業者に有用成分の名称と含有量を情報開示せよと言っているわけです。これでは、事業者が好き勝手に有用成分として表示することにお墨付きを与えることになり、消費者の誤認を招きます。

 一方、消費者にとって大事な情報である安全性や品質情報は「記載が望ましい」とあり、情報開示として必須とはされていません。他にも食品表示法、景品表示法、健康増進法、薬事法等の現行法令を遵守すること等が書いてありますが、当たり前のことばかりです。あまりに内容が薄い。このガイドライン案は一体、何を目指しているのでしょうか。

 実はこの事業内容について、説明会に先行して業界紙「ヘルスライフビジネス」1月15日号の「新春特別座談会」の中で「健康食品JAS実現化へ道開く」と紹介されていました。座談会には、事業を担当する農林水産省食料産業局食品製造卸売課の勝野美江課長補佐とともに、ガイドライン案の有識者検討会の委員である「健康と食品懇話会」の太田明一相談役、日本予防医学会の中島 茂・副理事長、在日米国商工会議所サプリメント小委員会の天ケ瀬晴信委員長、日本チェーンドラッグストア協会の宗像 守事務総長などが出席しています。

 座談会では、ガイドライン案は事業者の自主的な取組みを進めるためにハードルはあまり高くせず取組みやすいものにすること、消費者にとって選びやすいものにすること、産業振興が基盤であること等が確認されています。また、ガイドラインをクリアしたものにマークをつけることはどうか、マークとしてJAS規格が馴染むのかについても話し合われています。

 この報道を見る限りは、ガイドラインをクリアすれば将来、JASマークがつけられるようになるのでは、と思うでしょう。業界にとっては、期待の広がる話です。消費者庁が検討している機能性表示食品は、ハードルが高そうだということがわかってきました。それに比べると、ハードルが低いこちらのガイドラインをクリアすれば、国のお墨付きであるJASマークが付けられるかもしれないのですから。

 しかし、4日の説明会では、農水省の勝野課長補佐は「JAS規格の段階にはまだ至っていない、記事が先走っている」と明確に否定しています。なぜ、農水省の食料産業局製造卸売課が説明するかといえば、同課は加工食品を担当する部署であり、その中に新食品、健康食品があることから、補助事業の実施を決めたからです。ここで言う健康食品は、機能性が表示できる保健機能食品は含まず、機能性を表示できない「いわゆる健康食品」です。

 翌日5日、勝野課長補佐にガイドライン案について電話で確認をしました。まず、一番気になる「有用成分」の考え方について、ガイドライン案では定義しないのかお聞きしたところ「有効性については例えば査読付きの論文など企業の下でどのように開示できるのか、消費者庁にも相談したが、どう評価するのかまでは検討会で議論していない」「企業のもとでどう開示するのか、合理的な根拠がない内容の表示を行っている場合は景品表示法上違反となり、そのことはガイドライン案の中でも抜粋して示した」ということです。

 そのうえで「ガイドライン案は大企業であれば既に情報開示をしている内容であり、ここでは最低限の入り口を示したもの。健康食品の業界は中小が多く、業界の健全化のために少なくてもここまで情報開示をしようとラインを示したもの」「来年度の予算はつけておらず、今後は事業者の皆さんがガイドラインに自主的に取り組んでいくと聞いており、この活用方法は今後の検討となっている」との説明でした。

 重ねて、今後JAS規格になるのか聞いたところ、「ガイドライン案は守ってもらいたい最初の入り口で、これをどう育てるのか、選択肢の一つではあるが、JAS規格にするには高いハードルがあり、有効性や安全性についても確認していかなくてはならない。まずはガイドラインを入口として緩やかに取り組んでもらうこと、そのうえで第三者認証でマークをつけるという選択肢もありますね、ということです」との回答です。

 勝野課長補佐のご説明のとおり、JAS規格はそんなに容易に制度化できるものではありません。JASマークは、一定の品質や特色を持っていることを農林水産大臣が基準で定め、それに合格していると第三者の登録認定機関(農水大臣の登録を受けた機関)が認定したものに付されるマークです。品目によっては上級など等級を表示できる品質基準や、特別な生産や製造方法、特色のある原材料等に着目した特定JAS規格などがあります。私はソーセージなどを選ぶ際には、マークを目印にしています。

 時代に応じてJAS規格は増やされ、現在は200ちかくがあります。最近は、新しいJAS規格はなかなか出てきませんが、まだ新設をしようと農林水産省では考えているところです。その中で、健康食品にJAS規格をと考え、業界が産業振興にと期待しても不思議ではありません。いわゆる健康食品の世界は、有効性、安全性、品質がきちんと確認されたものと、そうでないものの差が激しく、JAS規格など国の規格が選択の目安として機能することもあり得るでしょう。しかし、このガイドラインの薄っぺらさでは、お話になりません。勝野さんのご説明のとおり、JAS規格化にはほど遠い内容だと思います。

 同ガイドライン案の説明会は、2月13日(事業者向け)、25日(消費者向け)に開催されます。ここで寄せられた参加者の意見を踏まえつつ、今年度末までに最終的なガイドラインを作成するということです。説明会ではアンケートが配布され、設問の一つに「消費者が健康食品を選ぶうえで、健康の保持増進に資する原料・成分とその含有量の情報を簡単に入手できることは、製品を選択する目安になると思いますか?」とありました。迷わず「いいえ」と答えたいと思います。このガイドライン案のままでは選択する目安どころか、誤認を招く表示となりかねません。(森田満樹)

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。