科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

食品表示法では刺身盛り合わせに原産地表示が必要?間違った情報に要注意

森田 満樹

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 今週2月10~12日まで、東京ビッグサイトで開催されていたスーパーマーケットトレードショー。招待状をもらって見学をしてきました。そこでPOSシステムや計量機器で知られる(株)寺岡精工のブースに立ち寄ったのですが、その一角に「食品表示法施行後の表示」という展示コーナーがありました。

 同社は、スーパーで生鮮食品や総菜・弁当に添付するラベルプリンターを供給しています。食品表示というと予め印刷されているパッケージを思い浮かべますが、弁当、惣菜、生鮮食品など多くの商品には、その都度ラベルプリンターによる印字シールが貼られます。展示コーナーでは、新しい食品表示法に対応してシールの内容がどう変わるのか、紹介していたのです。

 大きなパネルには「食品表示法施行後の表示」と書かれ、「精肉」「鮮魚」「青果」「惣菜」別に現在のラベルと法改正後のラベルを比較しています。テーブルの上には、「Before」「After」のシールが貼られたパック詰めサンプル食品が、多種類並んでいます。全てのジャンルで法改正後に表示義務が増えて、ラベルの表示面積が大幅に増えることをアピールしています。

 たとえば、鮮魚。「刺身3点盛り合わせ」ですが、これまで「加工食品」だったのが、「生鮮食品」に変更されて「産地、養殖、解凍が追加」となるとパネルでは説明しています。「Before」のサンプルには原産地表示はなく、「After」のサンプルは「ぶり(富山沖)、マダイ(愛媛県産・養殖)、イカ(ペルー産・解凍)」と表示されています。

 これは、寺岡精工の勘違いです。生鮮食品と加工食品の線引きについては、消費者委員会食品表示部会の「生鮮食品・業務用食品の表示に関する調査会」で検討が行われています。第1回(2014年1月24日)では、消費者庁から現行のJAS法における「異種混合」について「生鮮食品である複数の種類の農産物、畜産物又は水産物を切断し、混ぜ合わせたものは加工食品」の考え方を見直したいとして、複数の種類の刺身盛り合わせを「生鮮食品」とする案がいったん示されました。

 しかし、第2回(2014年2月19日)では、刺身の盛り合わせを生鮮食品にして原産地表示を義務付けるとなると、5点盛りや10点盛りの場合に正確性を確保できないのではないか、と実行可能性を懸念する声が流通業界から出されました。このため、第1回の消費者庁の提案はさらなる検討が必要とされ、複数の刺身盛り合わせを生鮮食品とするという消費者庁案は見送られました。

 第5回(2014年6月13日)で取りまとめられた最終報告書にも「異種混合の食品の取扱いについては、食品を摂取する際の安全性の観点及び事業者の実行可能性を踏まえ、さらなる商品実態や消費者が選択する際の食品表示に関する意識も調査した上で、検討が必要とされた」とまとめられています。調査会の結論は、新法施行後も複数の種類の刺身盛り合わせは加工食品なのです。

 寺岡精工は、最初に消費者庁から提案のあった第1回資料のスライドを使って、複数の刺身盛り合わせを「生鮮食品」に変更されたとして「原産地、養殖、解凍が必要」としており、その事例を用いて印字したラベルを用いて説明をしていたのです。ぶり、マダイ、イカの産地表記もそのままです。このスライドは、7月の消費者庁説明会で経緯説明の資料として用いられているので誤解されやすいのですが、調査会、部会の内容を確認すれば変更なしとされたことはわかるはずです。念のため消費者庁にも本日13日確認しましたが、やはり「複数の刺身盛り合わせは加工食品」ということでした。このように解釈が分かりにくい部分もあるのですが、情報提供をするのであれば確認が必要だと思いました。

 パネルやサンプルを見て不思議そうな顔をしている私を見て、営業の方が寄ってきて「刺身盛り合わせは、6月から原産地表示が必要になるんですよ」「生鮮食品では猶予期間はありませんから、すぐにラベル対応をしなければなりません」と説明します。

 6月からと言いますが、施行日は現段階では決まっていないはずです。食品表示法が公布された2013年6月から2年以内に施行されることになっており、2015年4月に施行されるという見方もあります。また、生鮮食品の猶予期間は、2014年7月のパブコメ前の案段階では移行措置期間はなしとされていましたが、パブコメ終了後、9月には生鮮食品は1年半に変更されています。様々な説明に「間違えではないですか?」と聞いても「最新情報です」と答えます。あまりにきっぱりと答えるので、私の記憶違いかと、思えてくるほどでした。

 次に弁当の表示です。パネルには新法施行後は「栄養成分表示が追加」「アレルゲンが一括表示から個別表示に変更」とあります。しかし、店内加工の場合は表示義務はかかりませんし、「極短期間でレシピが変更される場合」の栄養表示は免除となります。この「極短期間」の定義がもうすぐQAで示されるはずで、弁当にどこまで栄養表示が必要かどうかはケースバイケースです。

 また、アレルギー表示は個別表示が原則ですが、弁当など表示スペースなどで書ききれない場合は一括表示でも可能なはずです。こちらも寺岡精工の営業の方は「アレルギー表示の猶予期間は2年しかありませんので、対応が迫られます」と言います。2014年夏のパブリックコメント変更後、加工食品の移行措置期間は5年に延期されたはずですが、どうも情報は更新されていないようです。一方で、原材料と食品添加物の間に区切り(スラッシュや改行)を付けなくてはならないという変更情報については、何も触れていません。

 いずれにしても、同社の「食品表示法施行後の表示」コーナーでは、「Before」「After」としてわかりやすく示されています。いずれも表示内容が増える情報ばかり、ラベルプリンターの印字スペースが増えて大変というアピールです。

 新しい食品表示法は6月までに施行される予定ですが、2月中旬の今でも食品表示基準は公示されていません。QAに至っては、いつ出るのやらわかりません。QAが出れば「複数の種類の刺身盛り合わせは加工食品の表示となります」などと示されるのでしょうが、細則は現段階では明らかになっていません。そんなに強気に「食品表示法はこう変わります」とは言い切れないはずです。

 「法律が変更されるときはビジネスチャンス」とは、よく聞くことです。新しい食品表示法は、印刷業者にとっては特需と思っていましたが、ラベルプリンターの世界もそうなのでしょうか。もっとも、スーパーマーケットトレードショーに出展していた他のラベルプリンターを取り扱う機器メーカーは、そのようなアピールはしていませんでした。

 寺岡精工は、この展示会では、1、2位をしめる大きな展示スペースを誇っていました。レジシステムでは信用も高いはずです。そこでの情報を最終確認しないままでいると、困るのはラベルプリンターを用いて実際に表示する事業者、すなわち表示責任者です。

 食品表示法施行後の移行措置期間は、生鮮食品では1年半、加工食品と栄養表示は5年間です。食品表示基準は400ページちかく、QAも膨大になることが予想されます。これを読み込むのは大変で、混乱も予想されます。表示の変更点がどこか、きちんと確認し、慌てて改版して間違えることがないよう、事業者の方には留意をしてもらいたいと思います。今後の消費者庁のウェブサイトによる公表、全国で行われる説明会を待ちましょう。(森田満樹)
(2015年2月12日発行のFOOCOMメールマガジン第188号の内容に一部追加して、掲載しています)

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。