科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

機能性表示食品 第一弾の届出内容で制度の問題点が明らかに

森田 満樹

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 消費者庁は4月17日、機能性表示食品の8商品についてウェブサイトで届出内容を公表しました。新制度の受付を開始してから、第一弾の受理となります。その内容をみると商品によって安全性、機能性のレベルはバラバラ、表示もずいぶん異なり、問題のあるものも見られます。今回の情報開示で顕在化した、機能性表示食品の問題点をまとめます。

●安全性評価における「食経験」をどう評価するか、事業者次第

 届出内容を見て一番驚いたのは、安全性の評価が各社バラバラだったということです。FOOCOM代表・松永が「安全性が確認できないトクホ “却下”の製品が、機能性表示食品に」で指摘しているとおり、問題のあるものも受理されています。(この指摘に関連して、朝日新聞・4月25日付朝刊でも、FOOCOMの活動と松永の意見が掲載されました)
 他の商品でも、安全性評価が緩いのではないかと思われる点がありました。

 そもそもガイドラインは、第一段階で食経験があるかないかを調べ、情報が不十分な場合は第二段階で既存情報の評価を行い、それでも不十分な場合は第三段階の安全性試験の実施へと進みます。一般の食品であれば、何十年にもわたって食経験が培われているので第一段階で評価終了ですが、サプリメント形状の健康食品は、まずは第二段階に進んで既存情報をもとに安全性を評価するのだろうと思っていました。しかし届出内容を見ると、サプリメント形状の食品でも、第一段階の評価しか行っていない商品が3つありました。

 これらは、いわゆる健康食品として販売してきた実績をもって「食経験あり」としています。その販売期間は長いもので13年、短いもので5年程度しかありません。販売量もあわせて記載されていますが、このくらいの販売量で日本人に広範囲に摂取されてきたと言えるのか?と思うものもありました。販売期間中の健康被害情報の記述もありますが「重篤な健康被害が発生していないので安全性は問題なし」とまとめています。しかし、それは販売者の自主申告であり、第三者の客観的な評価があるわけでありません。

 消費者庁の「食品の新たな機能性表示制度に関する検討会(2014年7月終了)」では、安全性の評価方法は特にこだわり、食経験の評価について検討しています。報告書では「一般に、個々の食品の安全性については、それらの長い食経験を通じて担保されてきたものであることから、次に示す具体的な情報に基づき食経験を評価することが適当である」として、日常的な摂取量、食品の販売期間・販売量、機能性関与成分の含有量、摂取集団等をあげています。

 報告書の脚注には「食経験の考え方として、例えば、FDAは仮の目安として、広範囲に最低25年摂取されていることを、また、オーストラリア・ニュージーランド食品基準局は、摂取期間(2~3世代あれば使用歴として十分だが、5年以下では短いと考えられること、また条件次第では10~20年でも十分な使用歴と考えられること)」と参考を示しています。

 何十年あれば食経験があると言えるのか。検討会では食品によって様々なケースがあるため、一定基準を定めることは困難としました。これを受けてガイドラインは、届出者が具体的な情報を出して自らの責任で評価することを求めました。このため、サプリメント形状の食品でどこまで評価するかは、企業判断に委ねられることになったのです。

 たとえば今回の届出内容で、ヒアルロン酸Naを用いたサプリメント形状食品が2つありますが、このうち「ディアナチュラゴールド ヒアルロン酸」は、第三段階まで詳細に評価をしており、第二段階の2次情報として「ヒアルロン酸の経口摂取の安全性については信頼できる十分なデータが見当たらない(国立健康・栄養研究所データベース)」「食品添加物としての登録では、安全性に問題がない(既存天然添加物の安全性評価に関する調査研究)」との情報をあげ、第三段階でヒト試験で安全性を確認しています。念を入れて評価していることがわかります。

 いわゆる健康食品の中には、食経験の乏しい動植物や鉱物などを原料に用いたサプリメント形状食品が多くあります。どこまで安全性評価が必要かはケースバイケースですが、今後の届出で第二、三段階の評価が必要な場合でも、届出者がこれまでの販売実績をもって食経験ありとすれば、安全性評価はそこで終了します。消費者庁に書類を揃えて出せば、内容は審査されないので通ってしまいます。あとは企業のモラルに頼るしかありません。

 ちなみにトクホでサプリメント形状の食品の場合は、過剰摂取の問題があることから、最終製品を用いて一日摂取目安量の5倍量、4週間以上の安全性試験が必要です。通常の食品とサプリメント形状の食品に分けて、それぞれ安全性評価を求めているのです。機能性表示食品もサプリメント形状の場合は、せめて第二段階での確認、必要に応じて第三段階を含めた安全性評価を強く求めたいと思います。

 また、今回は4つの機能性関与成分を含む商品「えんきん」の届出が受理されています。この安全性評価を見ると、第二段階の既存情報を用いた評価のところにチェックがついており、1成分(ルテイン)だけを評価しています。第一段階で食経験ありとした旧製品とはルテイン量だけが異なるので、ルテインだけが第二段階に進んで評価していますが、この評価方法が妥当か疑問が残ります。複数の機能性関与成分同志の相互作用についても、2次情報で記載がないとの記述だけで評価方法がわかりません。

 今後、複数の機能性関与成分を含んだ機能性表示食品がたくさん出てくるでしょうが、このような緩い安全性評価では困ります。複数の機能性関与成分の評価は検討会で散々議論してきただけに、その内容がないがしろにされているような気もします。届出者には、報告書やガイドライの趣旨を踏まえて、適切なレベルの安全性評価をしてもらいたいと思います。

●機能性の科学的根拠のレベルもいろいろ

 機能性は、1)最終製品を用いた臨床試験、2)最終製品又は機能性関与成分に関する研究レビューのどちらかで評価されます。今回の8商品のうち1)で評価したのは3商品(ナイトスリムエッセンスラクトフェリン、えんきん、蹴脂粒)でしたが、添付されている論文を読んで、対象者の人数が少ない、摂取期間が短いなど、気になる点がたくさんありました。

 トクホでは摂取期間は「有効性の発現、継時的な効果の減弱(いわゆる「なれ」)が無いことの確認のため、一般的には12週間程度以上を設定することが必要と考えられる」と定めています。機能性表示食品の場合も1)の場合は、原則としてトクホの試験方法に準拠するとしていますが、届出内容の3商品のうち、「ナイスリムエッセンス ラクトフェリン」は8週間、「えんきん」は4週間でした。合理的な理由は付されていますが、トクホ並みの試験という原則とはずいぶんと異なります。

 ガイドラインでは、1)の臨床試験を行う際は研究計画の事前登録を必要としています。しかし施行後1年は、事前登録は省略できるとなっており、今回の試験も事前登録はされていません。事前に登録をしていなければ、途中で対象者や摂取期間などを変更して、企業にとって都合の良いデータをつくることも可能です。この1年間、臨床試験会社は駆け込み需要でフル稼働だと聞いています。トクホの場合もスタート時は混乱したように、レベルの低い機能性表示食品が次々と出てくるのではないか、懸念されます。

 なお、2)の研究レビューは、新制度で初めて取り入れられた考え方で5商品が該当します。届出内容をみると、それぞれが定められた方法に従って、科学的根拠の質を評価していることがわかります。この評価で有効性ありとしていいの?というものもあってレベルは様々ですが、都合の悪いデータを隠さないという点では一定のレベルには達していると思いました。今回の内容を見ると、「いいとこどりはダメ」というレビューの鉄則は守られている印象です。

●消費者の誤認を招かない表示を

 次に表示です。届出内容には「届出食品に関する表示の内容」として表示見本が添付されており、ウェブサイトで今回の8商品も見ることができます。機能性表示食品は義務表示がたくさんあるので、商品には文字がぎっしりなのですが、実際の表示見本をみるとかなり印象は違います。

 たとえば「ナイスリムエッセンス ラクトフェリン」の表示見本は、表面に「機能性表示食品」「届出表示」「消費者庁による個別審査を受けたものではない旨(打ち消し表示)」があります。この様式は、消費者庁が4月2日に発行したパンフレットの様式とほぼ同じ。消費者が知っておきたい大事な内容が、主要面にまとめて目立つように書いてあります。

 一方、「えんきん」の表示見本をみると、「届出表示」「打ち消し表示」は裏面に追いやられほとんど目立ちません。そのかわり表面には「商品名」と「臨床検査済み」の文字が大きく目立ちます。「臨床試験済み」とは、これいかに?と思いますが、機能性の評価を1)最終製品による臨床試験で行ったということを強調したいのでしょう。なかみはトクホでこれまで行われてきたヒト試験なのですが…。言うまでもありませんが、機能性表示食品もトクホもあくまで食品で、医薬品ではありません。「臨床検査済み」の下に「■疾病に罹患している方を対象とした食品ではありません」とはありますが、字が小さいので見落とされてしまいそうです。

 そして表面のイラスト。「えんきん」という商品名の横に、遠近両用の眼鏡か老眼鏡かはわかりませんが、それをかけたお年寄りらしき人が新聞を読んでいます。しかし、機能性の根拠となる論文の対象者は「日常的に眼の疲れを感じている中高年男女」で、確認された有効性は「手もとのピント調節機能を助ける」もの。イラストで期待される効果とは、ずれがあるように思います。

 やはり気になるのは、「消費者庁による個別審査を受けたものではない旨」の表示が裏面に目立たなく表示がされていること。この文言は、まさにこの制度の根幹の部分であり、消費者に伝えたい大切なメッセージです。その表示場所については、検討会の報告書では「一義的には製品前面とすることが考えられるが、消費者への分かりやすさを考慮しつつも、製品前面以外の場所も含めて検討すべきである。」としています。

 一方、食品表示基準別表第二十の「表示の方式」では
一. 機能性表示食品である旨は、容器包装の主要面に表示する
二. 機能性関与成分及び当該成分又は当該成分を含有する食品が有する機能性ならびに機能性及び安全性について国による評価を受けたものでは無い旨は、容器包装の同一面に表示する
となっています。私は、二は一の同一面に表示するものと思っており、打ち消し表示は主要面に書くものと思っていました。消費者庁のパンフレットの表示サンプルでも、この3つは同一面に表示してあります。しかしよく読むと、二は主要面とはされていません。裏側に目立たないよう表示されていても、法的には問題はないのです。

 もっとも8商品のうち、打ち消し表示を主要面に配置しているものがほとんどです。表示の配置は、その事業者が消費者に何を伝えたいのか、企業姿勢が明確に出ます。大事なメッセージは消費者が見落とすことがないよう、十分に配慮してもらいたいと思います。

 以上、今回8商品の届け出を見てわかったことは、ガイドラインでは細かく要件が定められたものの、これを緩く解釈したり、表示もすれすれの表現でアピールしたりと、制度の間隙をぬって仕掛けてくる企業があるということです。届出内容がガイドラインの求めるレベルに達していなくても、消費者庁は書式さえそろっていれば受理してしまうのです。

 こうして機能性表示食品のレベルにばらつきが出てくるのですが、このばらつきが大きくなるほど消費者の機能性表示食品に対する信頼も損なわれることになります。新制度は、いわゆる健康食品の玉石混交から、科学的根拠のあるものへ移行することが期待されたものでした。しかし、機能性表示食品の中で玉石混交が出てきてしまえば、消費者はそこから選ぶことは困難となります。表示だけでは見分けられません。レベルの低いものが続出すれば、制度の見直しも必要です。制度はスタートしたばかりですが、「事業者責任」の名のもとでの健全な取組みが求められます。

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。