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執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

米国が栄養政策を強化、砂糖は栄養表示義務化、塩は削減ガイダンス案を発表

森田 満樹

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米国食品医薬品庁(FDA)でこのところ、栄養政策に関する重要な発表が続いています。2016年5月20日、加工食品に義務付けられている栄養成分表示の改正案が最終決定されました。続く6月1日には、食品業界に対して塩分を減らすよう求めるガイダンス案を発表しています。砂糖と塩、どのような政策なのか、みてみましょう。

 ●ファーストレディが発表 米国の新しい栄養表示は「追加した糖類」が表示される

深刻な慢性疾患問題を抱える米国が、世界に先駆けて栄養成分表示を義務化したのは1994年のこと。その内容を20年ぶりに大改正しようと提案したのが、ファーストレディのミシェル・オバマでした。彼女の政治活動は、2010年に立ち上げた全米規模の肥満撲滅キャンペーン“Let’s Move” が有名で、栄養政策にも力を入れています。2014年2月、現行の栄養成分表示を一新するとして、FDAが改正案を発表しました。

当時はずいぶん話題になりましたが、その後、パブリックコメント等の手続きを経て見直しが加わり、2016年5月20日に最終決定に至りました。FDAのニュースリリースには、彼女のスピーチがビデオで添付されています。

短いスピーチですが、誇らしげに「FDAの栄養表示が20年ぶりに見直されることが最終決定され、全米80万の商品のラベルが変更される」「新表示は、カロリーが大きく表示され、サービングサイズが現実的なサイズとなり、最も重要なポイントは、スナックなどに加えられた糖類が表示されることだ」「もうすぐ変わる!」などと語り、拍手喝さいを浴びています。

発表された栄養成分表示は、2014年2月の改正案からデザインや義務表示項目など、さらに変更点が加えられていました。4点にまとめます。

(1)   デザインが一新

FDAのリリースは新旧表示を並べて図解で説明していますが、様式が大きく変わりました。

左が現行の栄養成分表示、右が新表示:FDA資料より

左が現行の栄養成分表示、右が新表示:FDA資料より

新表示でまず目に飛び込んでくるのが「Calories」です。Serving size(1食分の量)あたりのカロリーを、ポイント数を大きくして太字で表示します。また、Nutrition Factsの文字のすぐ下に、「1パッケージが何Servingか(サンプル表示例は8 servings  per  container)」表記されています。その下、Serving sizeも、太字で目立ちます。新表示では、1サービングが55gで230kcal、この袋は8食分入っていることが伝わります。

また、各成分の「% Daily Value(1日の必要摂取量の%)」は、2014年2月の発表時は、表の左側の列に並べて表示されていましたが、今回の発表では、旧ラベルと同様に右側に戻っていました。栄養表示を見慣れている人にとっては、「% Daily Value」の位置は今のまま(右側)の方がよい、といった意見が出たのではと思われます。。

(2)「追加した糖類」「ビタミンD」「カリウム」を義務表示項目に追加

新しい義務表示項目として、食品の調理加工工程で「追加した糖類」が加わります。表記方法は、炭水化物の内訳表示である食物繊維と糖類の表示のさらに下、糖類の内訳表示の中で書かれます。表示サンプルには「includes 10g Added Sugars」となります。

この「追加した糖類」の量の義務表示は、2014年の改正案で決まっていましたが、今回はこれに加えて「% Daily Value」の表記も義務付けています。最新の「米国人向け食事ガイドライン2015年-2020年」では、「追加した糖類」に由来するカロリーを減らすべきとしており、これを1日の総カロリーの10%以下にするように求めています。新表示は、この考え方を取り入れたものです。

続いてビタミンとミネラルの項目ですが、カルシウムと鉄はこれまで通り義務表示ですが、新たにビタミンDとカリウムが追加されました。ビタミンDは骨の健康に重要な役割を果たし、カリウムの摂取は血圧を下げるのにメリットがあるという根拠に基づくものです。これらは、「% Daily Value」の表示も必要です。なお、ビタミンAとCは、義務表示から外れました。もはや、必須情報ではないということです。

(3)Serving Sizeが変更に

米国の栄養成分表示は、食品ごとに「Serving Size」を表示単位と定めていて、その単位当たりの栄養成分や熱量を表示するよう統一されています。このServing Sizeは、食生活のうえで望ましい量がこれまで規定されてきましたが、米国人が実際に食べる量と、かい離していることが指摘されていました

1993年に栄養成分表示が義務付けられた際のServing Sizeよりも、実態調査などでは米国人の食べる量が増えてきていることがわかっています。たとえば、アイスクリームでは1/2カップでしたが、実際には2/3カップ、炭酸飲料もかつては8オンス(約240ml)でしたが12オンス(約360ml)に増えています。ニュースリリースは図解もついています。Serving Sizeを現実的に変更することで、使える栄養成分表示にしようということです。

(4)移行期間は、事業者の規模によって2年か3年

新栄養成分表示は、2018年7月26日までに移行することとされています。また、食品の年商1000万ドル以下の企業はさらに1年の猶予が与えられています。

以上、20年ぶりに改訂される栄養成分表示の主な変更点です。ミシェル・オバマは「新しい栄養成分表示は、より健康的な食品選択をしたい人にとって、基本情報が一目でわかるようになる。私たちのくらしにとって、ドキドキするような素晴らしいことだ」と強調します。

それにしても、日本の栄養成分表示と比較すると何と情報量の多いことか。そして、これだけ情報が充実しているのに、なぜ肥満率があんなに高いのか。考えさせられます。

 ●加工食品、レストランの食品を対象に、自主的な減塩目標ガイダンス案を発表

続いて6月1日、FDAは食品業界のための自主的なナトリウムの削減目標ガイダンス案を発表し、パブリックコメントを求めました。

ニュースリリースによれば、現在のアメリカ人の平均的なナトリウム摂取は1日あたり約3400mg(食塩相当量8.6g)。「米国人向け食事ガイドライン2015年-2020年」では、1日あたり2300mg(食塩相当量5.8g)未満にするよう推奨しており、現状で5割も多く摂取していることになります。ナトリウムのとり過ぎは高血圧の原因とされています。アメリカ人の3人に1人が高血圧であり、高血圧は心臓病や脳卒中の主要危険因子となります。

今後10年間に米国民のナトリウム摂取量を40%減らせば、50万人以上の死亡が回避でき、1000億円ドルの医療費削減につながると説明しています。

アメリカ人の食生活の現状から、加工食品やレストランの食事の75%からナトリウムを摂取しており、ガイダンス案はこれらの食品を対象に削減目標が定められました。ターゲットとなったのは、16分類のもとに分けられた150の食品カテゴリーです。それぞれナトリウム含有量の2010ベースライン(2010年の食品サンプル調査に基づいた値)を定め、2年後、および10年後の削減目標量などを定めています。

チーズ、食肉製品など、市販加工食品の単品のカテゴリーもありますが、レストランメニューであるサンドイッチやピザなどのカテゴリーもあります。

たとえば食肉製品の分類では24食品カテゴリーが並びます。そのうち「加熱されたソーセージ(Precooked Sausage)」は、2010年のサンプル調査で、65ブランド254食品の市販品が調べられ、平均的なナトリウムは100gあたり936mg。これを2010ベースラインとし、2年後の短期ゴールで、850mg、10年後の長期ゴールで750mgとなっています。

指針案のプレゼンテーション資料も公開されており、ダウンロードすることができますが、Precooked Sausageは次の図が紹介されています。赤い帯が2010ガイドライン、黄色い帯が2年後のゴール、緑の帯が10年後の最終ゴールです。赤い帯の右側にあるソーセージが、左側の目標に移っていくよう取り組みが求められます。

FDAのナトリウム削減提案のプレゼンテーション資料より

FDAのナトリウム削減提案のプレゼンテーション資料より

この表を見ていると、私がふだん食べているソーセージのナトリウム含有量がどのくらいか、気になってきました。栄養成分表示を確認したところ、100gあたり840mgで、米国の2年後のゴールと10年後の最終ゴールの間にありました。

いつもの食パンは100g当たりナトリウム500mg。米国の白パンは2010年ベースラインが523mg、短期ゴールが440mg、長期ゴールが300mg。米国の2010年のベースラインと、短期ゴールの間にあることがわかりました。

米国では、これまでも健康政策としてナトリウム削減を推奨しており、食品企業によってはナトリウム削減に積極的に取り組んでいます。FDAでは、こうした削減努力をサポートしながら、業界全体が目標に向けていけるよう技術提供も行っていくとしています。

国際的にみると、食品中のナトリウムの低減策は英国やカナダで先行しています。英国では、食品業界に対して商品の塩分削減の自主目標を設定させ、2005年からの3年間で塩分摂取量を10%削減でき、医療費も年間2600億円減ったと言われています。今回の米国の指針案は、まずは2年間でできるところから進め、長期10年間で目標を達成するという息の長い取組みです。

米国の指針案の数値と日本の食品成分表を比べてみると、多くの食品で2010年ガイドラインの数値を超えていることに気づきます。また、この指針案のカテゴリーは、サンドイッチ、デリ肉、パスタ、スナック、パンなどアメリカ人が多く消費するものです。日本でおなじみの高塩食である干物(dried fish)などは指針案に入っていませんが、ガイダンス案のQ&Aをみると、こうした食品は一般的には大量に消費されることがないため含めないと書いてあります。

現在の日本人の食塩摂取量は、2014年国民健康・栄養調査で成人1日あたりの平均摂取量男性10.9g、女性9.2gと、アメリカ人よりもかなり多い実態があります。それでも日本では、減塩政策がなかなか進みません。日本人がよく食べる加工食品や和食メニューで調査を行い、米国のようにベースライン調査をするとどうなるのでしょうか。産業界の取り組んでもらうことは何か、表示でできることは何か―日本のはるか先を行く米国の栄養政策を見ながら、真剣に考えなくてはならないと思います。

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。