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執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

フライパン「セラフィット」の景品表示法違反 課徴金制度導入によって広告が変わる

森田 満樹

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消費者庁は2016年9月1日、株式会社オークローンマーケティング(以下㈱OLMとする)が供給するフライパン「セラフィット」の広告表現が消費者の優良誤認をまねくとして、景品表示法における措置命令を行いました。

今回措置命令を受けた㈱OLMは、9月5日に「お詫びとお知らせ」を出しています。新聞に社告も出し、お客様相談センターでこの案件について24時間対応もしているそうです。

実は私の知人が、この不当表示の広告を見て、昨年セラフィットを購入していました。措置命令の報道を見て、購入先のショップジャパンの窓口のフリーダイヤルにすぐに連絡して返金を求めたところ、「返品保証期間の39日間を超えているので返品、返金には対応しません」と断られたそうです。

その後、㈱OLMの「お詫びとお知らせ」の社告を見てそこに記載された連絡先に電話をしたところ、今度は「購入したものと同じ製品をお送りします」「使用時は強火ではなく弱火で使ってください」などと言われたそうです。しかし、知人は「消費者庁が措置命令を出した広告を信じて購入をしており、同じ製品は不要なので返金してほしい」と申し出たところ、少し時間をおいて返金手続きを進める旨の連絡があったということでした。申出内容によって、対応窓口によって対応は異なることがわかりました。

●「実際は、50万回を大きく下回る回数で傷がつく」フライパンだった
このフライパンは2014年5月から1年半の間、テレビショッピングの番組などで「ダイヤモンドの次に硬いセラミックを使用」「50万回こすっても傷まない」「クギを炒めても傷がつかない」などの宣伝を行っていた商品です。BS放送や地上波放送でもチャンネルを回すとよく放送されていたので、私も覚えています。

この内容について、消費者庁は「実際には、本件商品の表面処理加工に用いられている『セラミック』と称する物質はダイヤモンドの次に硬いものであるとはいえず、本件商品を金属製品で擦った場合には50万回を大きく下回る回数で傷が付くものであったこと。」として優良誤認になると認定しました。

報道によると、消費者庁が金属製の調理器具でこするテストを行ったところ5000回で傷がついたそうです。同社は「50万回こすったのは実際にはナイロン製の調理器具だった」と答えたということですが、消費者庁は「番組の内容から金属製の器具でこすったと考えるのが自然で、誇張した宣伝だ」と判断しました。㈱OLMはテレビの通販番組「ショップジャパン」を運営しており、2014年5月から1年半の間に全国で1万2千回放送して、これまでに76万セット、120億円あまりを売り上げたということです。

●「セラフィット」は課徴金制度の対象にはならない

今回の措置命令はインパクトがありました。「措置命令」とは、 景品表示法に違反して商品の品質や値段について実際よりも優れているような不当表示などをした事業者に、消費者庁がその行為の撤回、再発の防止を命じる行政処分のことです。消費者庁は毎年、数十件の措置命令を出しており、健康食品などの事例も目立ちます。しかし、広告の露出度がこれだけ高くて、1商品で100億円以上も売り上げている案件はそうはありません。

景品表示法ですが、2013年秋にホテルやレストランのメニュー偽装表示が問題となり、法律が大幅に改正されて2016年4月より課徴金制度が導入されています。景品表示法の「課徴金制度」とは、事業者が優良誤認表示、有利誤認表示の不当表示を行った場合に、国が課徴金を納付するよう命じる制度です。その額は対象商品の売上金の3%となっています。

これを「セラフィット」に当てはめてみると120億円の売上金であれば、課徴金の額は3億6千万円で、この額を国に納付することになります。しかし課徴金制度は導入された2016年4月1日以降に不当表示を行っていて、その売り上げが5千万円を超えたものが対象です。今回不当表示が認められた時期は2015年11月までなので、対象にはなりません。

2016年4月以降に措置命令を受けた案件は、6月に1件ありましたが、広告期間や売上金の関係から、課徴金の対象にはなっていません。不当な表示の実態があって、消費者庁や公正取引委員会がそれを調査して措置命令にするまでにはそれなりに時間がかかります。課徴金納付命令の第1号はもう少し先のことになりそうです。

●事業者が自主返金すれば課徴金を払わなくてもよい?

課徴金制度の導入によって、景品表示法違反の罰則は強化されることになります。これまでは事業者が景品表示法に違反しても、措置命令を受けて再発防止策を講じればそれで終わりでした。しかし今後は措置命令の後に、売上金等の一定の条件を満たせば課徴金措置命令が出されることになります。そうなると事業者は社会的信用を失うだけでなく、金銭的なダメージも被ることになります。

景品表示法に導入される課徴金制度に関する説明会(消費者庁)資料より抜粋 http://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/pdf/160129premiums_1_2.pdf

景品表示法に導入される課徴金制度に関する説明会(消費者庁)資料より抜粋
http://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/pdf/160129premiums_1_2.pdf

ただし、課徴金納付命令を回避できる方法もあります。景品表示法の課徴金制度は消費者の被害回復を促進する観点から、事業者が消費者に自主返金をすれば、課徴金額が減額されたり全額免除されたりします。自主返金するかどうかは、事業者の任意です。

事業者が「不当表示でご迷惑をおかけしたお客様に、返金をしよう」と思ったら、上の図のとおり「実施予定返金措置計画書」を作成して消費者庁長官に提出し、認定を受けて返金手続きを行います。計画書を作る前に返金を行っていれば、その額も後から自主返金額として認めらます。自主返金の額が課徴金の額を超えれば、課徴金の納付命令は出されず、「命じない旨の通知」(上の図の真ん中の矢印)で終わることになります。

なお、不当表示と認定されても必ず課徴金を課せられるわけではありません。「違反行為者が相当の注意を行った者でないと認められるとき」「課徴金額が150万円未満のとき(課徴金は売上金の3%なのですなわち売上金が5000万円未満のとき)」は、課徴金は賦課されません。前者の「相当の注意」というのは、別途ガイドライン「不当景品類及び不当表示防止法第8条(課徴金納付命令の基本的要件)に関する考え方」に示されていて、いくつかの事例も出されています。ここには、表示上の間違いがないように、日ごろから管理上の措置が講じられているかどうかも盛り込まれています。

●課徴金制度の導入で、優良誤認の広告が減ることを期待したい

このように、課徴金の対象となるかどうか、なった場合の金額の算定には様ざまな要件が絡みます。しかし、いったん不当表示が認められたら、事業者は少しでも課徴金によるダメージが少なくなるように、様々な手続きを講じることになるでしょう。事業者は自主返金の道を探ることになり、消費者にとっては「返金」という救済の道が開かれることになります(ちなみに返品は認められません)。

景品表示法の課徴金制度の導入は、2013年に起きたメニュー表示問題を受けて景品表示法を改正されることが決まり、消費者委員会で専門調査会が開催され、1年ほどで決まりました。今、思い返しても短い期間で決まったという印象があります。その当時、消費者委員会の委員長は「3%は少ない、3割でもいいくらいだ」などと発言していましたが、自主返金の対応の重みを考えれば3%でもかなりの効果はあるでしょう。

これから課徴金制度が本格的に動き出せば、事業者にとっての景品表示法遵守の重みもかなり違ってくるはずです。この重みを事業者によく理解してもらい、消費者を誤認させるような広告・宣伝や表示が少しでも減ることを期待したいと思います。(森田満樹)

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。