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執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

韓国が遺伝子組換え食品(GM)表示を改訂 日本の表示との違いは?

森田 満樹

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韓国の食品医薬品安全省(MFDS)は2017年2月4日、遺伝子組換え(以下GM)食品の改訂表示基準を施行した。韓国のGM表示は考え方が日本と似ており、EUの表示とはかなり異なる(下図)。韓国の表示制度を見ながら、日本のGM表示の行方について考えてみた。

遺伝子組換え国別比較

●油脂や糖類などは表示不要のまま

韓国では2001年に遺伝子組換え食品表示制度がスタートした。その基本的な考え方は「組み換えられた遺伝子やその遺伝子がつくるタンパク質が残っている場合に表示する」というもので、今回の改訂でもそこは変わっていない。加工のときに熱処理、発酵、抽出、精製などによって、組み換えられた遺伝子やそのタンパク質が分解されれば痕跡は残らず、分析による検証は不可能となり、表示を不要とする考え方だ。これは日本と同じだ。

このため、韓国でも植物油脂や糖類、砂糖、でんぷん、しょうゆなどの加工食品は表示されない。表示が必要なのは大豆、トウモロコシ粉、きな粉、豆腐、みそ、もやし、コチジャンなど一部の食品に限られる。

韓国では、年間200万トンを超える遺伝子組換え食品が輸入される。その多くが油脂や糖類などの原材料として使われており、これらにはGM表示が義務付けられていない。これでは消費者の「知る権利」を満たしていないと、見直しを求める声が消費者団体の間で高まった。しかし、食品業界はコスト高につながるとして見直しに反対する意見が根強く、韓国政府は基本的な考え方を変えなかった。

それでは今回の改訂ではどこが見直されたのか。改訂前の基準では、「組み換えられた遺伝子やその遺伝子がつくるタンパク質が残っている場合に、原材料の重量順5品目まで表示する」ものだったが、新基準では「すべての原材料」に拡大された。他にも文字の大きさ(10ポイントから12ポイントへ拡大)や、Non-GMO表示方法なども見直されている。しかし、対象食品が限定されたままなので、改訂による影響は少ないだろう。

つまりこの改定案は、消費者からの要求を受けて何らかの見直しが必要と考えたMFDSの妥協案ともいえる。2月1日の報道によれば、MFDSは「改訂は、実行可能なレベルまで基準を拡大するための最も合理的な試みである」「GMタンパク質が存在しない食品にもGM表示が必要かどうかについては、見解に大きな相違がある」とコメントしている。
http://koreabizwire.com/controversy-prevails-despite-new-gmo-labeling-standards/74960

あわせてMFDSは「現在、韓国が輸入している遺伝子組換え作物は、健康上のリスクはない」とも述べている。GM表示は安全性に関する表示ではない。この考え方も、日本と同じだが、消費者からはとかく安全性表示と誤解されやすい。TPPの議論の際も、GM食品表示が後退すれば食の安全性が脅かされるといった主張がまかり通っていたことを思い出す。

●「遺伝子組換えではない」「Non-GMO」表示は厳しく規制されている

このように日本と韓国のGM表示の基本的な考え方はかなり似ているが、Non-GMOの表示方法はかなり異なる。韓国ではNon-GM表示は消費者を優良誤認させる可能性があるとして、厳しく規制されている。

ちなみに、事業者が遺伝子組換え食品ではない農産物を調達して遺伝子組換え義務表示を免れようとする場合、そこには「閾値」という考え方がつきまとう。流通過程で遺伝子組換え作物の一定程度の混入は技術的に避けられず、「意図せざる混入」として許容できる閾値が決められている。日本は5%、韓国は3%、EUは0.9%である。

この許容値以下になるよう分別流通管理されていれば、遺伝子組換え表示は省略できる。しかし、日本では1999年の検討の際に、この閾値以下であれば「大豆(遺伝子組換えではない)」と表示できることにしてしまった。このため、日本では最大5%のGM大豆が含まれていても「遺伝子組換えではない」といった表示ができる。これが消費者を誤認させると、たびたび問題となってきた。

韓国では、3%以下の「意図せざる混入」でも、「遺伝子組換えではない」といった表示を認めてこなかった。日本よりも優良誤認の考え方がはるかに厳しい。

今回の改訂ではその表示方法を見直し、「非遺伝子組換え食品」「無遺伝子組換え食品」「Non-GMO」「GMO-Free」の4種を認めた。ただし、これらが表示できるのは、原Non-GMO原材料が重量順1位のものだけで、やはり非意図的混入も認めていない。

4種類のNon-GMO表示を認めておきながら、非意図的混入を認めていないのは矛盾しているようにみえる。これは、輸入原材料ではどうしても混入してしまうため認めないが、国産原材料を100%用いて、輸入原材料が混ざらないように管理した場合には認めるということを明示したものだ。いかにも国産振興に力をいれている韓国らしい。

ところで、EUの「Non-GMO」表示の規定は国によって異なる。ドイツやフランスが国内法で規定し有機農産物等の場合に限り「GM-Free」等の表示を認めている。ベルギーとスウェーデンはこうした表示を禁止し、オランダでも国内法で制限している。日本のように5%の閾値でもって、「遺伝子組換えではない」と表示してもよいというのは、かなり珍しいのである。

●日本のGM表示の見直しは?
日本でも今後GM表示を見直すとして、今年早々に共同通信で記事が配信された。消費者庁は、2016年11月の記者会見などの場でも「原料原産地表示の検討の後は、GM表示制度を見直す」と発言があり、来年度に消費者庁でGM表示制度が検討されるのだろうか。

2012年の食品表示一元化検討会の報告書では、「食品表示は、安全性の表示ではなく、消費者の選択のための表示において新たに義務表示を拡大する場合、消費者のニーズと事業者のコストをバランスさせて慎重に検討すること」という原則を掲げている。

昨今の検討会では、こうした実行可能性に配慮されないままに義務表示が拡大され、ますます複雑になっている。もし、今後EUのような表示制度をそのまま導入するのは、コストに跳ね返るだけでなく、ますます表示をわかりにくくすることにならないだろうか。原材料名に「果糖ぶどう糖液糖(国内製造、遺伝子組換え不分別)」のような表示が、果たして消費者のためになるのだろうか。

今後の検討のポイントは、「組み換えられた遺伝子やその遺伝子がつくるタンパク質が残っている場合の基本的な考え方をどうするか」「『遺伝子組換え不分別』というわかりにくい表示を見直す必要はないのか」「閾値を見直す必要はあるのか、品目毎に変えることは現実的か?」「『遺伝子組換えではない』という任意表示を見直す必要はないのか」「遺伝子組換えという定義や対象範囲をどこまでとするか」「どの程度までコストアップを許容するのか」等々となる。今度こそ実行可能性を配慮しながら、わかりやすい表示を目指して検討してほしい。(森田満樹)

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。