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執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

2017年9月1日 新たな原料原産地表示制度がスタート 複雑な表示を見分ける3つのキーワード

森田 満樹

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 消費者庁は9月1日、食品表示法の食品表示基準を改正し、全ての加工食品の1番多い原材料について、原料原産地を義務付けることを決めました。移行期限は2022年3月末まで。漬物など一部の加工食品に限定されていた原料原産地表示が、約5年かけて拡大していきます。

 新制度は複雑でわかりにくく、「国産又は輸入」や「国内製造」など、これまで見たことのない新しい方法で書かれるので最初は戸惑うかもしれません。しかし、慣れると産地の情報がわかるようになり、選ぶ目安となるでしょう。新表示をどのように見わければよいのか、まとめてみました。

●原料原産地表示はどこに書いてある?

 原料原産地表示は、原材料名のところに書かれるパターンが主流です。まずはパッケージをひっくり返して、名称・原材料名・内容量・賞味期限・保存方法・製造者などがまとめられた一括表示を探しましょう。原材料名には、原材料が多いもの順で書かれています。

 原材料名の最初にくる原材料の後に、原料原産地表示はカッコで「豚肉(国産)」のように書かれます(下図1)。カッコ「〇〇産」の〇〇には、国名、都道府県名、EU産や南米産などの地域名がきます。表示方法は後述しますが、「輸入」や「△△製造」などの書き方も認められています。

 商品によっては原材料名の次に、原料原産地の項目を設けて書かれる場合もあります。この場合は「原料原産地:国産(豚肉)」のように、産地と原材料の順番が変わります(下図2)。また、一括表示の枠外に、賞味期限などと一緒に印字されることもあります(下図3)。

表示の場所(画面をクリックすると大きくなります)

表示の場所(画面をクリックすると大きくなります)

 輸入食品の場合、原料原産地表示のルールは適用されません。そのかわりに、どこの国から輸入されたのかを示す「原産国」が表示されます。これは一括表示の下のほうに、「原産国」の項目が設けられ「原産国:中国」などと書かれます(図・参考)。これは、原料の原産地を示しているとは限りません。また、外食やお店で調理された商品は、表示の対象外です。

 

●4つの例外表示が導入された

 原料原産地の表示方法は5つで、1)の原則表示の他に、4つの例外表示が新たに導入されました。

5つの表示方法(画面をクリックすると大きくなります)

5つの表示方法(画面をクリックすると大きくなります)

1) 原則の国別重量順表示…(A国、B国)
使われている原材料の原産地が、カッコ内に表示されます。2か国以上の場合は使用割合の多い順に「、」でつないで表示されます。たとえばソーセージで「豚肉(国産、アメリカ産)」とあれば、常に国産とアメリカ産の両方が使われ、その割合は国産の方が多いことを意味します。なお、3か国以上は、3か国めから「その他」と表示されることもあります。

2) 製造地表示…(〇〇製造)
原材料が加工食品の場合、その製造地が(〇〇製造)と表示されます。たとえば「そば粉(国内製造)」であれば、そば粉の製造場所が日本国内であることを意味します。そばの実が国産とは限らず中国産ということもあり得ます。誤解しないようにしましょう。

3) 又は表示…(A国又はB国)
原材料の産地が2か国以上で切り替わる場合、過去の使用実績等をもとに使用割合の多い順に「又は」でつないで表示されます。たとえばソーセージで「豚肉(国産又はアメリカ産)」であれば、国産かアメリカ産のどちらか、または両方が使われる可能性を意味します。つまり、その商品に国産豚肉が必ず入っているわけではありません。なお、3か国以上は、3か国めから「その他」と表示されることもあります。

4) 大括り表示…(輸入)
3か国以上の外国産の原材料が使用され、かつ、その産地の重量順位にが変動するようようなる場合、(輸入)と表示されます。国産原料もあわせて常に使われる場合は、(輸入、国産)または(国産、輸入)と表示されます。書き順で輸入が先にくれば、過去の使用実績等で輸入の使用割合が国産よりも多いことを意味します。

5) 大括り表示+又は表示…(輸入又は国産)
国産を含む4か国以上の原材料が切り替えて使用される場合は、「輸入又は国産」などと表示します。書き順で輸入が先にくれば、過去の使用実績をもとに、「輸入」の方が「国産」よりも多く使われたことを意味します。

●新表示を理解する3つのキーワード

 以上のとおり、新表示は複雑ですが、3つのキーワードを覚えておくと便利です。

その1 「製造」の文字が入っているか
原材料が加工品の場合は、上記の例外表示2)のとおり(○○製造)で表示されます。パンやめんは「小麦粉(国内製造)」、お菓子は「砂糖(国内製造)」など、これから最も多く見かけることになるでしょう。これらは、原料の原産地は国産とは限らないので、誤解しないようにしましょう。

その2 「輸入」の文字が入っているか
輸入の文字が入っていたら、3か国以上の外国産原材料が使われていることをします。国産原料にこだわる場合は、チェックしましょう。

その3 「又は」の文字が入っているか
国名などが「又は」でつながれている場合は、それら産地が使われる可能性を意味します。「、」でつながれている場合は、その原材料が必ず混ぜて使われていることを意味します。「輸入、国産」は必ず国産原料が入っていますが、「輸入又は国産」はその商品に国産原料が入っているとは限りません。

なぜ、わかりにくい例外表示が導入されたのか?

 以上のように新制度は例外表示が4つも導入され、わかりにくいものになってしまいました。制度化にあたってこれまで検討を行ってき消費者委員会食品表示部会もこの点を懸念しており、答申にあたって十分な普及・啓発等が必要であるとしています。日本生活協同組合も8月30日、日本チェーンストア協会などと連名で、再検討を求める要望書を提出しています。

 これまで検討の過程で、1)の原則表示である国別重量順表示が一番望ましいとされ、2~5)の例外表示は「事業者の都合に配慮したもの」とされ、表示の情報としては劣るとされてきました。特に5)の「国産又は輸入」の表示に至っては「どんな意味があるの?」と私も反対してきました。

 しかし、加工食品の多くを輸入原材料に頼るわが国の現状において、原料原産地が切り替わるのは当然です。季節変動や天候不順などもある中で、事業者は一定の品質と価格のものを消費者に届けるために、世界中から原料を調達しているからです。それを1)の国別重量順表示のように、原産地と使用割合の順番まで固定する表示方法にするのは、そもそも無理があります。

 次々と変わる原産地に対応してその都度国別重量順表示をしようとすれば、何種類もの包材を予め印刷して準備しておかねばなりません。コストがかかり、環境にも負担がかかります。消費者には商品の値上げという形で跳ね上がってくることもあるでしょう。それでも全加工食品に義務付けるということは政府の閣議決定であり、例外表示を導入せざるを得なかったということです。

 ちなみに例外表示はいい加減な表示と思われるかもしれませんが、消費者庁が9月1日に公表したQ&Aを見ると、消費者を誤認させないように驚くほど細かい条件が定められ、根拠書類の保管が必要とされています。事業者にとって、新表示は困難でハードルが高いものとなっています。

 たとえば事業者が「輸入」と表示するためには、表示する時を含む1年間から遡って3年以内の中の1年間以上の使用実績が必要で、この間に3カ国以上の産地が切り替わるなどの根拠書類が求められます。「輸入」と表示したいために、意図的にごく短期間だけ複数国を用いるような場合は認められていません。このような制度の詳細について、消費者庁は9~10月に全国で説明会を開催するとしています。

 いずれにしても、今後は、「○○製造」や「輸入」の表示を多く見かけるようになっていくでしょう。消費者が原産地を知りたい場合、これではフラストレーションがたまるかもしれませんが、それが日本の食料事情の現実ともいえます。世界全体の商取引においては、原料の原産地を意識していない原料が多く、コスト等を考えると、例外表示による情報提供についても理解しておきたいと思います。

 一方、原料原産地表示の義務化によって、国産振興という目的が果たせるかどうかは疑問です。しかし、この複雑な表示が物語るように日本の食卓は多様性に富んでおり、世界に密接に結びついているということを消費者が知る一助という点において、意味があるのかもしれません。(森田満樹)

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。