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執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

消費者庁 魚介類の名称ガイドライン改正と、新しい名前の手続き公表

森田 満樹

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最近、スーパーで「バサ」など馴染みのない魚の名前の表示を見かけます。一瞬「サバ」の誤字かと思いきや、そうではなく白身です。タラのような味がしますがナマズの仲間で、「バンガシウス」としても売られています(写真)。見慣れない魚を目にすることが増えると、きちんと名前が表示されているのか気になります。

生鮮食品に書かれる魚の名称は、2000年にJAS法改正で表示が義務付けられました。しかし、魚の名前はなかなか複雑。地方によって呼び方が違ったり、出世魚のように成長して変わったり、海外の魚は標準和名が付けられていないなど、適切な名称をめぐって問い合わせが急増し、水産庁が2007年、「魚介類の名称のガイドライン」を定めました。

このガイドラインは生鮮魚介類の名称はもちろん、加工食品の原材料名においても一般的な名称を確認する際のより所となっています。現在、このガイドラインは消費者庁が所管しており、消費者庁の食品表示基準Q&Aの中の別添に位置付けられています。

最近、世界的に安定して調達できる魚介類が減少して新規の魚介類を扱うケースが増加していることから、消費者庁は多くの魚種をリストに追加する等、ガイドラインを改正しました。また、今後さらに増えることが予想される新規の魚種についても、事業者が消費者庁に届け出て名前を付けることができる方法も公表されました。

● ガイドラインの改正内容

魚介類の名称ガイドライン」は本文と、2つの別表で構成されています。本文は一般ルールとして等の考え方が示されています。魚介類の名称のリストは、国産と輸入に分けられ、「別表1 国産の生鮮魚介類の名称例」「別表2 海外漁場魚介類及び外来種の名称例」に示されています。

今回のガイドラインの改正は、本文の抜本的な見直しでなく、急増する新規の魚種に対応するために別表の魚種を追加したものです。あわせて標準和名、標準和名に代わる一般的名称例等も整理しています。改正点は次のとおりです。

1. 魚種の追加
別表1:3種(クロシビカマス、メアジ、イヌノシタ)
別表2:39種(クリアノーズスケイト、アメリカウナギ、イラコアナゴ、パンガシウス、ヨーロピアンスプラット、グレーターシルバースメルト、ニジワカサギ、リング、ヒタチダラ、ホワイトヘイク、アメリカンアングラー、ナンヨウキンメ、アラスカキチジ、ナガメヌケ、キタノメヌケ、ゴケメヌケ、アラスカアカゾイ、ヒレグロメヌケ、ニシアカウオ、アルゼンチンオオハタ、ミナミオオスズキ、オオヤセムツ、ニュージーランドマアジ、ミナミマアジ、チリマアジ、ニジイトヨリ、ゴウシュウマダイ、アメギス、ホシギス、モトギス、コガネギス、トランペッターシラーゴ、ミナミクサカリツボダイ、フエフキタカノハダイ、バルコグランダー、ミナミクロメダイ、ヒレナガナメタ、タイセイヨウオヒョウ、ウマガレイ)
2. 魚種の削除
生産、流通実態のない「カワスズメ」を削除
3. 標準和名及び一般的名称例の整理
別表1:5種(サクラマス、サツキマス、カラフトマス、キンメダイ、アラスカメヌ)
別表2:15種(チャネルキャットフィッシュ、パンガシウス、メルルーサ、シロイトダラ、モトアカウオ、チヒロアカウオ、マジェランアイナメ、ミナミカゴカマス、ミナミオオスミヤキ、ウロコマグロ、ナイルティラピア、ミナミメダイ、シルバー、オキヒラス、グリーンランドアカガレイ等)
4.学名の修正
別表1:10種
別表2:3種

● 改正のポイントは、消費者を誤認させないこと

今回の改正の多くは輸入のもの、別表2に関するものです。別表2の項目は、学名(種名)、種・亜種の標準和名、標準和名に代わる一般的名称例、使用できない名称例、備考となっています。冒頭の「バサ」は、タイやベトナムで養殖されているナマズの仲間。「バサ」は現地の英語名であり、国際的にもこの名称で流通しているとのこと。また、「バサ」は、2つの学名があり、「バンガシウス」と併せて一般的名称とされました。どちらかの名称で流通されています。海外の養殖魚で、標準和名は付けられませんでした。

また、別表1で国産の魚種も追加されています。別表1は別表2と項目は異なりますが、標準和名を基本としています。たとえば標準和名「イヌノシタ」は、一般的名称例「シタビラメ」として加わりました。標準和名のままだと「犬の舌」と読めてしまい良いイメージではありませんが、今後は「シタビラメ」と堂々と表示できることになります。舌平目のムニエルをつくろうと魚売り場にいくと既にアカシタビラメなどが「シタビラメ」と販売されていますが、そこに加わることになります。面白いところでは「アカウオ」でしょうか。粕漬などでよく見かけますが、いろいろな魚種にアカウオと表示されているのではないかと思っていましたが、その通り。これはガイドラインでも認めており、外来種の標準和名「モトアカウオ」や「チヒロアカウオ」の一般的名称例とされ、今回はさらに国産魚種の「アラスカメヌケ」の一般的名称例としても「アカウオ」が追加されました。
1つの名前が3種類を示すというのもおかしな感じですが、既に一般にその名前で知られ、消費者を誤認させなければ使ってもよい、という考え方です。

一方、消費者を誤認させないように名称を厳しく制限しているものもあります。それが別表2の「使用できない表示例」の項目です。これは、外来種に高級魚種に似た名称をつけて消費者を誤認させることを防ぐためです。今回の改正では一般的名称「メルルーサ」において、使用できない表示例に「タラ」が追加されました。メルルーサはフィッシュフライで認知度が上がりましたが、「タラ」と表示しないようにと明示されたわけです。

改正ガイドラインは案の段階で、6月23日〜7月7日にパブリックコメントが募集されました。寄せられた意見を見ると、たとえば外来種の「オオセキムツ」の一般的名称について、「ニュージーランドムツ」「ミナミムツ」など掲載してほしいといった要望がありましたが、消費者庁は「適当ではない」と回答しています。消費者を誤認させるような名称の追加はしないという、消費者庁の姿勢が見られます。

● 消費者庁を窓口とした新標準和名の提唱スキームを公表

魚介類の名称のガイドラインに係る魚類の新標準和名の提唱手順の参考フロー図

このように外来種が増える中で改正ガイドラインは対応しましたが、それでも今後増えていく外来種など新品種にどう対応したらよいのでしょうか。それに応える形で今回、新たなルールが定められたのが、「魚介類の名称のガイドラインに係る魚類の新標準和名の提唱手順」です。

魚介類には、ラテン語化した言語で記述される学名があり、図鑑などで用いられる標準和名があります。新たに標準和名を提唱する場合は、学会等に関わる学術著作物などでに申請しますが、事業者が行うのは困難な状況です。そこで、消費者庁を窓口にして日本魚類学会に属する研究者に依頼することにより新たな標準和名を提唱できるスキームが構築され、その手順があわせて公表されました。

申請方法の詳細は「魚介類の名称のガイドラインに係る魚類の新標準和名の提唱手順実施要領」に示されています。消費者庁は窓口にはなるものの、申請者は現地で学名や現地名などを確認して標本などの準備も求められるので、ハードルは高そうです。それでも候補名もあわせて事業者が直接申請できるので、新たな道が拓けたともいえるでしょう。

一方、エビ、カニ、貝類などの見直しは一切行われていません。これらも輸入の新種の名称追加が求められるところですが、今回は魚類に限っての改正だったということです。こちらも整備も待たれるところです。

今回は2007年にガイドラインが公表されて初めての改正です。この間、魚介類の名称で問題となったのは、2013年末のホテルなどメニューの偽装表示問題でした。ブラックタイガーを「クルマエビ」と表示したり、高級な魚介類の名称を偽る場合は景品表示法上問題があるとされ、魚介類の名称ガイドラインに基づいて表示するように示されました。

このようにガイドラインは魚介類の偽装表示につながらないよう、役割を果たしてきました。今後、地球温暖化など環境の変化で魚が獲れなくなり、未利用魚の利用も増える中で、ガイドラインの整備はますます求められることになるでしょう。消費者の誤認を招かないよう適切な名前で堂々と販売され、選択する側も新たな味覚にチャレンジできればと思います(森田満樹)。

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。