科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

第9回食品表示一元化検討会~板倉ゆか子さん

森田 満樹

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  第9回消費者庁食品表示一元化検討会は6月8日に開催された。今回も3時間の長丁場である。配布資料は資料「食品表示一元化検討会報告書(案)」と参考資料「論点についての検討方向(たたき台案)」があり、また、委員の机上には田崎委員提供資料鬼武委員提供資料が配られ、たたき台案の論点1~3に該当する報告書(案)について議論が進められた。

 冒頭に迫和子委員(体調不良で途中退席予定のため先に意見陳述)が、「食パン1枚か菓子パン1個選ぶかの違いでも1か月に7000kcal、体重1kg分増える」ということを例にとり、「表示をみてエネルギーや食塩などの摂取量を調節することが我が国で急増中の生活習慣病の予防に有効である」「栄養成分表示は使われていないという意見もあるが、現在は任意だから使えない状況にある」ことを指摘し、栄養成分表示の義務化を求めた。

 今回初めて出された報告書案は、「1 はじめに」「2 新たな食品表示制度の基本的な考え方」「3 新たな食品表示制度における適用範囲の考え方について」「4 新たな食品表示制度における加工食品の原料原産地表示の考え方」「5 新たな食品表示制度における栄養表示の考え方」の5章で構成されているが、1、4、5は中身が作成されておらず、2、3のみの検討であった。まず、「2(1)現行制度の枠組みと一元化の必要性について」と「(2)食品表示の目的」を事務局が説明を行ったが、委員からは全体を通して報告書案に書かれているのはすべて「新たな」制度についての言及しかなく、既存の義務表示に言及する必要があるとの指摘があった。

 ここで席に着いた松原仁消費者担当大臣から「消費者が実際に食品を選ぶ際に有効なわかりやすい食品表示実現のため、忌憚のない意見を賜り、世界に冠たる食品表示が作られるように願ってやまない」と挨拶があった。

●現行制度の枠組みと一元化の必要性について
 多くの委員が「一元化の必要性のところに、消費者が出てこない」と指摘した。消費者庁が見直しするのだから何より消費者のために行われると記載すべき、消費者にとっても複雑でわかりにくいと入れるべき、消費者の食品表示の学ぶ際、法令の複雑さが食品表示の正確な理解をさらに阻む場面があるといった意見が相次いだ。

 また、制度の枠組みと一元化の必要性を記述するのであれば、三法だけに狭めるのではなくて、他の法律や多様な省令等が錯綜しているがゆえに今回見直しをするということをはっきりしてほしい、景品表示法を入れず三法だけなのかを説明してほしいなどといった意見もあった。それに対して事務局は「『食品一般を対象にして』とすれば三法となる、景品表示法は食品一般だけを対象としておらず、個別品目の省令は「食品一般」が対象ではない」と説明した。

 一方、コストの記述がいくつか出てくる点について、「事業者にとってはコストだけが問題なのではなく大事なのはコストに見合った成果である」、「確かな表示の担保の点からみて食品の特性や現在の調達状況、体制、運用で難易度がかなり違い、コストだけの問題ではない」といった多くの反論があった。

 また、監視執行機関が複雑で解釈が異なり、問合せに混乱が生じているので監視執行する行政機関の一元化や、縦割りではなく統一された窓口で豊富な事例等に基づいて明快な回答を出す体制を望む意見も多数出た。前回までに問題提起されたにも拘わらず議論が棚上げになっている個別品質表示基準や遺伝子組換え食品表示、食品添加物表示の問題については、今後の検討課題という形でまとめてほしいという意見も相次いだ。

●2(2)食品表示の目的について 
 「消費者の自立」という表現が最初から強調されすぎているという意見、自立を高めようがないものが表示規制されているので最初に自立が書かれるのはおかしい、消費者は日々の買い物で学ぶので、自立支援という点で食品表示が必要といった意見があった。

 「食品の安全性に関する情報が特に重要となる」という表現については、食品添加物や遺伝子組換え食品などリスク評価され安全性が確認されているものは安全性に関する情報ではないという意見もあれば、安全なものだけが流通しているが、全て安全というものでなく、使い方によっては不健康になるので一概には言えないといった意見もみられた。安全性に関する情報の優先についても、選択の機会とどちらを優先するかはこの箇所で述べるのではなく具体論に入れればよいという意見や、それに真っ向から反論する意見があった。(2)のタイトルも「消費者の自立支援のための食品表示」か「消費者行政における食品表示」が提案された。

 事務局は「安全性が最優先との記載は、義務表示の考え方を示したもので、条文に書くということではない」と述べ、「選択」については「誤認防止の視点に留まらず、原材料や産地などの積極的な情報提供により良い商品選択というもの」と説明した。また、「執行」については「特に地方における執行は組織的には一元化という段階には遠いが、消費者庁が地方支分部局を持たない形で発足し、国の地方機関の新設は、困難を伴うので議論は難しい」と弁明した。

 また、「消費者は実際に表示をみるときに表示の根拠法令がどれかを気にしないので一元化に期待していないとの外部での指摘もあり躊躇したが、消費者にとって一元化の必要性については具体的な意見を参考に次回取り上げたい」と回答した。さらに「酒など個別の食品を対象とする法律まで統合するべきだという意見は中間論点整理以降、外部の方の意見にも多くはなかったと認識している」と述べた上、「地方監視体制の整備が事実上厳しいのに景品表示法を視野に入れると公正取引委員会の地方事務所の執行をやめさせるかという議論になる。執行の水準は落とさないことを前提としたい」と説明した。

 また、「自立」については、「消費者基本法第2条において消費者の権利の尊重と自立の支援は表裏一体なので、自立に関する記述も増えただけで特段の意図はない」と説明した。

●2(3)新しい食品表示制度の在り方について 
 (3)のタイトルを「新しい食品表示の在り方と現行表示制度の問題点」に変更する提案があった。「用語や解釈の統一」については、食品衛生法とJAS法で加工食品と生鮮食品の定義が違うものとして、食肉などや「製造者」と「加工者」などの混乱の例が出されたが、これらは、法律を変えなくてもできるのではないかとの指摘もあった。食品添加物の一括名と用途名が食品の種類によって違っている点、知られていれば省略可能な複合原材料名が消費者に知られているかどうか悩むといった問題点も出された。

 他にも様々な観点から意見が出され、一元化に併せ改善が必要なところを見直して活用できる表示ルール作り、目的の表示がすぐに見付けられるという視点や興味を持てる表示を目指す必要性を望む意見や、引用しているWEBアンケートの調査結果の解釈に異議があるという意見、アレルギーを持つ人などの弱者に対する保護、救済という観点の必要性を指摘する意見などもあった。

 事務局は、「わかりやすさには、一元化の理由にならない点は混在しているが、指摘を踏まえて修正を検討していきたい」と述べ、座長は、「食品衛生法は通達、通知で決められている部分が多いが、統一的な規程の工夫でわかりやすくなると言える」と発言した。

●(4)義務表示の範囲について 
 「イ 現行の義務表示事項の見直し」について、委員からの「事例として「にせ牛缶事件」の記載があるなら、一元化後も誤認をさせない部分は維持されるのか」との質問に対して、事務局は「単に誤認というだけではなく、多くの情報により積極的に選択可能な環境を作っていくため」と答えた。

 「ウ 新たな義務付けを行う際の考え方」には、添加物や遺伝子組換え表示にについて報告書には「一部の消費者には関心が深いが…不相当なコスト上昇を引き起こすおそれがある」という記述があるが、「関心の高いのはアンケートでも明らかであり、「一部の」という記述は抵抗がある」との意見が出た。

 また、「義務表示事項を柔軟に変更できるような法制度とすることが必要である」記述について、「義務表示の変更は法律ではなく内閣府令など下位の法令で変えるという意味だ」と事務局は回答した。

 「なお、消費者のニーズに対応することは」というパラグラフの記述については、「今後の事業者の自主的な取り組みを促す重要な方向性なので、なお書きされるところではない」「『消費者ニーズ』は売上増のため意図的に作られる面もあるので、安易に使ってほしくない」といった意見が出た。座長は「制度の円滑な実行や導入に当たって環境の整備やQ&Aなど国の対応が重要という点の記述を加えてほしい」と述べた。

●3 新たな食品表示制度における適用範囲の考え方について
 「中食」は検討会で使われてこなかったので記述を工夫してほしい、「単独世帯の増加によって中食・外食の重要性が高まっている」とあるが単独世帯でなくても重要性が高まっている、方向性はこれで良いと思うが、アレルギー表示は行政も自主的取組の推進に力添えしてほしい、といった意見が出た。

 また次回の議論への要望として、原料原産地表示、栄養成分表示についての進め方、「今後の検討課題」についての検討、これにお酒の表示を入れてほしいという希望、議事録の公表のスピードアップ化の依頼があった。

●感想
 報告書案の内容は、全体的にはどういう立脚点で何を言いたいのか、また、この報告書案から具体的にどのような法律条文が書けるのか、全くわからないものとなっていた。
 消費者の自立ばかりが促され、社会的コストや遵守コスト高の問題ばかりが強調されていたので、業界重視の表示制度に移行するのかと疑いたくなってしまった。

 しかも、3つの法律で異なる規制対象や、表示そのものの定義も、どうなるのか明らかでない。例えば、酒類に課せられている食品衛生法にかかわる安全性に関する表示や健康増進法における健康の保持増進の効果等に関する虚偽又は誇大な広告の禁止などは、今後も現状維持と考えて良いのだろうか。表示の定義は、容器包装への表示に限定するのか、食品衛生法のように広告なども含めるのだろうか。適用範囲には、事業者間取引の食品も入っているのだろうか。一元化予定の3つの法律とも虚偽表示や誇大な表示、優良と誤認させる表示を禁止する条文は残ると考えて良いのだろうか。

 現行の義務表示事項を「優先順位の考え方を導入して見なおす」というのは、今よりも表示項目を少なくするということを示しているのだろうか。それとも、項目数は変わらず事項を一括表示外にするなど、見やすくするという意味なのだろうか。この報告書では、いかようにも解釈できて、新しい食品表示がどうなるのか実体がわからない。これに対しては消費者団体も食品表示が後退するのではないかとの不安を募らせている。

 また、「義務表示事項を柔軟に変更できるような法制度とする」ことが必要ということは、一度表示ルールが決まっても、しょっちゅう変更の可能性があるということだろうか。この記述への質問には、変更の方法論の説明しかなかった。

 次回の検討会の論点だが、義務化をするかどうかで対立する栄養成分表示は、義務化のメリットについて説得力のある意見が出たにもかかわらず、業界側委員は義務化困難を唱えるなど、委員間の意見の溝はここに至っても埋まるとは思えなかった。

 今までの検討会での議論が生かされているとは感じられない報告書案について、福嶋消費者庁長官の締めくくりの挨拶で「わかりやすい表示を目指す報告書がわかりにくいというのは、中身が詰まっていないということであるので、自分も点検していきたいが、皆さんもわかりやすい報告書になるように指摘をしてほしい」と述べたが、大臣の挨拶にあった「世界に冠たる表示」との落差に肩を落として会場を後にしたのは私だけだっただろうか。
(食品アナリスト・板倉ゆか子)

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。