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執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

第11回食品表示一元化検討会~小比良和威さん

森田 満樹

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 食品表示一元化検討会もようやく終わりが見てきた。第11回となった今回は、ようやく報告書(案)の全体が示され、細部の詰めが行われた。ただし、時間切れのため一部の内容は次回に持ち越しとなった。なお、例によって検討会の模様を実況したのでそちらも参考にされたい。

第11回 食品表示一元化検討会

●報告書(案)

 第9回の検討会で示された報告書(案)では原料原産地表示と栄養成分表示についての記載がなかった。その部分は第10回検討会で「方向感」という形で一旦議論が行われていたが、今回はそれらも含めて報告書(案)に整理された。これで、ようやく全体像が示されたことになる。

 内容に目を向けると、前半部分も「1はじめに」や「2(3)新しい食品表示制度の在り方」の部分には加筆された部分も多く見られた。また、後半部分では「4新たな食品表示制度における栄養表示の考え方」は多くのページを割き、表示義務化に舵を切る形になっている。一方で原料原産地表示については議論が合意に至らなかったとして「食品表示の一元化の機会に検討すべき項目とは別の事項として位置付けることが適当」とされた。同様に、中食や外食、インターネット販売の取扱いや遺伝子組換え表示についても別途検討すべきとされた。

 原料原産地表示については、これまで「閣議決定」を根拠に表示項目推進を主張する側と、実行可能性から疑義を唱える側の主張が折り合わないままであった。これを合意の得られないまま強引に表示拡大としなかったことは評価したい。一方で、検討会の中での議論にとどまらず、中間論点整理についての意見交換会やパブリックコメントでの多くの意見について、どの様な論点や議論が出たかの記述はない。結果的に原料原産地については次回に議論することになったが、一部の委員から議論の過程を記述すべきとの意見が出された。

●執行体制

 報告書案には、法律が一元化された後の執行体制についての記載が無い。現在、消費者庁は食品表示に関する法律を所管するようになっているが、実際の執行体制は持っていない。実質、現場で動くのは食品衛生法では保健所の職員、JAS法では地方農政事務所の職員などだ。両者では持たされている権限も異なるため、権限も含めた執行体制につての質問が相次いだ。また、法の運用の面でもJAS法と食品衛生法で通知や告知のレベルが異なることが指摘されたほか、Q&Aを整備して運用解釈をわかりやすく提供しているJAS法などと、そうしたものを用意されないため、見通しがよくない食品衛生法について、一元化後はレベル合わせやQ&Aの整備を進めるという考えが示された。

●表示の簡素化

 検討会後の報道で、表示項目を絞り込むとともに、表示の文字を大きくすることが決定したかのように読める報道が一部の報道機関からなされた、しかし、報告書・検討会共にそのような内容ではない。実際に、委員からも表示内容の絞り込みや簡素化について合意に至ってはいないとの意見がなされ、事務局も表示事項を減らすというのは誤解と述べている。

●栄養成分表示

 これまでの議論と同様、重要性については認識を共有した上で、義務化を優先すべきか、環境を整備すべきかについて意見がわかれた。結果的に移行期間を用意した上で義務化し、その間に環境整備を進めていく形に落ち着いている。また、年間の販売数量が一定数以下のものについては表示免除という方向性が示された。

●原料原産地表示

 議論は栄養成分表示までで、残りは次回に議論されることになった。その中の、原料原産地表示の取扱いについて先述のとおり事務局へ申し入れが行われた。報告書(案)において、原料原産地表示の拡大について、議論を進めたが合意に至らなかったとされている。このこと自体は事実だが、ある意味もっとも時間を要して議論が行われ、意見交換会やパブコメでも多くの意見が集まった議案にもかかわらず、そのプロセスが全く記載されていない。結果的に合意に至らなかったとしても、多くの議論が積み重ねられたのであるから、その経緯を報告書に記載し、今後の議論のベースとすべきという意見だ。それに対し、事務局は合意事項として記載できるのは報告書(案)にある内容までであるとし、経緯の記載には消極的であった。

●感想

 ようやく形になった報告書(案)は、ある意味無難な内容であった。しかし、それだけに検討会のかじ取り次第で、もっと実のある議論の積み重ねができたのではないかと惜しまれてならない。個人的には「はじめに」の部分に食品事故の拡大防止という食品衛生法による表示の意義についての記載をという意見に対し、事務局が否定的であったのは残念であった。現在の消費者のための表示というのも考え方ももちろん重要であり、そのことを否定するものではない。しかし、過去の経緯や役割の変遷をおさえることは新しく物事を始める上で重要だと考えるからだ。この点については事務局にもご一考願いたい。

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。