科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

10月24日消費者庁ワークショップリポート 消費者団体とは多様であることを認めては(小比良和威さん)

森田 満樹

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 消費者庁が進めている新食品表示法(仮称)について、消費者団体とのワークショップが開催された。既に、配布資料は消費者庁のHPで公開されている。また、ワークショップの内容についてはtwitterで中継を行い、まとめを作成した。さらに詳細な文字おこしも既にFOOCOMに掲載されている

 ワークショップは、はじめに事務局より新食品表示制度のポイント(イメージ)について説明があった。続いて各団体からの意見陳述(持ち時間4分)が行われ、最後に意見交換となった。阿南長官は意見交換には加わらず、最初と最後のあいさつを述べるのみで、意見の聞き役にまわっておられた。

新食品表示制度のポイント

 この資料は、これまでの検討会の資料ではなく、今回はじめて公開された資料である。全部で4ページあり、新しい法制度のポイント、スケジュール、法体系、表示基準の移行についてイメージがまとめられている。

ポイントをまとめると

・消費者基本法の基本理念を踏まえて、表示義務付けの目的を統 一・拡大

・複数の法律、下位法令に規定されていること、同一表示事項について複数の法令でルールが定められていることなどを一本化して体系を整備、用語も統一

・是正措置及び執行体制の整備

・申出制度の対象ををJAS法以外へも拡大

などがあげられる。

 特に大きな点として、調査権限規定では、書類の提出についてJAS法では任意で提出となっているが提出義務がある他法令を参考に整備するとしている。また、申出制度の対象拡大などは検討会の時点では出ていなかった項目であり、どのような形で実現するのか興味深い。

 また、検討会や中間論点整理及びパブリックコメントでも紛糾した原料原産地表示や遺伝子組換え表示など個別の表示項目・表示方法については、府令や告示など下位法令で規定されることが明確にされた。

 原料原産地表示については、これまで「品質の差異」という要件が表示対象の拡大に対して一種の足かせのようになっていた。しかし、新法で表示の目的が変わることで、「品質の差異」以外の部分で原料原産地表示の拡大を進めることが可能であるという説明がなされた。一方で新法が施行されたからと言って表示事項が即変更されるわけでもないとのことだ。

 また、栄養成分表示の環境整備についてはできるところから進めて行くとされた。

各団体の意見発表

 続いて団体名の50音順に従い、全15の消費者団体からの意見発表がなされた。全団体の発表の後、意見交換が行われた。時間も限られた中、発表団体も多かったため、意見交換の時間は30分弱といったところだったろうか。意見の詳細は速報記事を見ていただくとして。本稿では特に気になった点などについて自由に感想などを書いてみたい。

(食品添加物表示)

 食品添加物表示について、一括名やキャリーオーバー、簡略名などに見直しを求める意見が複数団体からでた。共通することは、使用している添加物を詳細に記載して欲しいと言うことなのであろう。一括名や簡略名による複数の添加物が一つの表示ですむケースや、食品添加物が使用されていても、調理・加工によって効果が消失する場合などには表示が不要となる。これらのルールによって情報が欠落しているという見方もわからないではない。

 一方で、一括名はともかく簡略名もなくすと言うことはビタミンCといった呼称も使えなくすることを意味している(ビタミンCはL-アスコルビン酸やL-アスコルビン酸グルコシドなど5つの食品添加物の簡略名)。ビタミンCをアスコルビン酸と表記することが本当に重要なのか疑問を感じる。また、気になったのが食品の安全性を食品添加物の使われている「種類」で判断しようとしているようにきこえることだ。「食品添加物がたくさん使用されている」という表現は食品添加物への批判の際に耳にする表現だ。

 食品保健科学情報交流協会の関澤 純氏も指摘していたが、食品添加物の種類が食品を選択する際の合理的な選択基準になりうるだろうか。そもそも、多くの種類が使用されていることで安全性が損なわれるというのは、一見もっともと思わせるかもしれない。しかし、多くの種類を使用することで、一つあたりの量を減らし、トータルではリスクが低いケースだって考えられる。

 そもそも、ADIに対して使用されている食品添加物のマージンにどれだけ余裕があるかで判断すべきという考えもあるだろう。そういう意味ではマーケットバスケット調査ではおよそ問題になるとは考えられない程度の量しか使用されていないことがわかっている。食品添加物表示を見直すにしても、その方向性で本当に良いのか団体内でも精査したほうがよい。

(遺伝子組換え表示)

 食品添加物表示と同様に遺伝子組換え表示についても見直しの意見があつまった。こちらは主に、表示対象品目の拡大と、意図せざる混入の割合見直しであった。表示対象の拡大については表示の正確さを検証できないという問題があるが、意図せざる混入に対する許容割合については見直しが必要と感じているのは反対派だけではあるまい。実際に見直しの場が設けられたら、この部分については最終的な数値はともかく、引き下げる方向性は合意が得られやすいのではないか。

 一方で、EUの表示制度が見直す際のお手本にあげられていたが、EUでは「遺伝子組み換えではない」表示は実質不可能であると聞く。また、遺伝子組換え技術を利用した食品添加物については遺伝子組換えとして扱わないとされているはずだ。そのあたりも含めてEUの制度をまねるよう主張しているのが気になった。

(消費者とは、消費者団体とは多様であることを認めては)

 参加団体の中には、他の団体が「消費者の声を代弁していない」と考えておられるような発言があった。たしかに、参加団体の主張はそれぞれ異なり、ある団体の意見とまったく異なる意見を述べる団体も存在する。しかし、それをもって相手のことを「消費者の声を代弁していない」と主張することは妥当であろうか。

 異なる意見がでるということは、消費者や消費者団体が多様であり、様々な意見を持っている。そのことを認めるだけで良いのではないか。それに、基本的に近い意見を持っているはずの団体同士でさえ異なる主張を行うこともある。

 例えば主婦連の河村氏は「何に優先順位をつけるかについて、多様な消費者がいることは十分に考えられるとは思うが、この表示は誤認するから表示しなくてもいいというようなことを消費者が言う、ということは考えられない。この表示、要りませんという消費者がいるだろうか。それは、字が小さくなるけれどもいいですか、と言われればいやですけれども、わかりやすければ表示は欲しい。情報が欲しくないと言う消費者は考えられない。」と述べている。

 しかし、その直前に天笠氏は「わかりやすい表示について、簡略化して良い表示もあると思う。たとえばカロリーオフとノンカロリーを知っている人はほとんどいない。アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイスの違いを知っている人もほとんどいないと思う。豆乳と調整豆乳、豆乳飲料の違いなど、こういうものは簡略化するのは大変重要だと思う」と述べる。

 天笠氏のいう簡略化がどのていどのものか不明だが、河村氏の基準に照らせば天笠氏は消費者団体失格といえるだろう。ここではこうやって揚げ足をとることが目的ではない。事実として、消費者の嗜好は多様化していることを認めあってはどうか。自分が重要だと思っている表示項目が他人にも同要に重要と言うわけではない。と同時に自分が大事な表示項目も、別の人からみればどうでもよいことというのもありえることだ。

 そうした多様な嗜好を持つ消費者の中で、表示制度を作るのだから、表示のルールは他者の意見を尊重しながら議論を積み重ねて欲しい。

最後に

 今回の資料「新食品表示制度のポイント(イメージ)」は導入後のイメージが分かりやすく、新法のイメージがふくらむものであった。立案作業の合間にわかりやすい資料を作成してくださった事務局には感謝したい。しかし、この説明は、本来第1回の検討会で行われるべきだったのではないかとも思う。法案できめることと表示基準は別であることなどが具体的に示されないため、議論が紛糾した面もすくなからず存在すると思う。

 実際には走りながら検討会を進めたために、当初には具体的なイメージをつかんでいかなったと思われるのだが、それでも検討会の進行のまずさは際立っていた。すぎたことは仕方ないので、今後の運営に生かして欲しい。

 また、各消費者団体は今回新たに出た情報も含めて会員にしっかり新しい法の姿を伝えて欲しい。今回は意見を一方的に陳述する場ではなかったはずだ。新法の意義をしっかり会員に伝え、より良い形で施行されるよう努力する。それこそ、消費者基本法の消費者団体の責務ではないか。

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。