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執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

個別加工食品表示基準を一本に 消費者庁が食品表示法の説明会で明らかに

森田 満樹

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 2013年9月5日、消費者庁は「食品表示法に係る説明会」を東京で開催し、個別品質表示基準の方針について説明しました。質疑応答の中で「JAS法の中で個別の品質表示基準がいっぱいあるが、府令ができてどうなるのか」と問われ、消費者庁食品表示企画課の平山潤一郎・主席表示調査官が「できれば、食品表示基準を1本にしたいと思っている。50本弱の個別品質表示基準を全部なくして1本にしたいと思っている」と語ったのです。
 この説明会は、消費者庁が8月下旬から全国7カ所で開催したもので、東京会場は300名定員の会場が満席になる盛況ぶりでした。

<わかりやすさを求めて思い切った改正>

 驚きました。私は個別品質表示基準の撤廃は食品表示をわかりやすくする切り札の1つ、と思っていて、食品表示一元化検討会でもそのように発言をしてきました。しかし、検討されないまま報告書にも盛り込まれず、新法にそのまま移行するのだと思っていたのです。これは思いがけないニュースでした。

 個別品質表示基準とはどんなものでしょうか。現在の加工食品の表示は複数の法律でルールが定められていますが、JAS法では品質表示基準制度で表示項目が義務付けられています。この制度には「横断的品質表示基準」と「個別品質表示基準」の2つがあります。

無題

 前者は「横断的」という名前のとおり、加工食品全般の義務表示項目を定める共通ルール、後者はハムやソースなど一部の食品だけに係る個別ルールです。この個別ルールは現在50ちかくもあって、その食品だけに係る義務表示が定められ、事業者と消費者を混乱させてきました。あまりにも複雑でわかりにくいからです。

<個別品質表示基準のわかりにくさ>

 わかりにくさの1点目は、品目ごとに定められた原材料表示のルール。共通ルールでは、原材料の重量の多いもの順に並んでいますが、たとえばソースだと「ウスターソース類品質表示基準」があり、「野菜・果実」の品目をグルーピングして表示をさせて、その後に糖類と記述するというルールになっています。品目の特性ごとに考慮して表示をさせるという例外規定が適用されているのです。
 このため原材料欄には、共通ルールで多いもの順だと「砂糖、醸造酢、りんご、たまねぎ、トマト…」と並ぶ場合でも、「野菜・果実(りんご、たまねぎ、トマト、…)、砂糖、醸造酢…」などと表示されます。一般消費者の多くは個別品質表示基準の存在すら知らず、多い順と誤解してしまいます。ここは共通ルールに統一したほうがわかりやすいと思います。

 わかりにくさ2点目は名称規制です。個別品質表示基準では、それぞれの品目の名称に定義があり、その定義を満たさない場合は名称が使えません。この定義で、食品ごとに原材料や食品添加物、製法や含有量などが細かく定められているのです。
 たとえば「マヨネーズ」は「ドレッシング及びドレッシングタイプ調味料品質表示基準」の中で、「半固体状ドレッシングのうち、卵黄又は全卵を使用し、かつ、必須原材料、卵黄、卵白、たん白加水分解物、食塩、砂糖類、はちみつ、香辛料、調味料(アミノ酸等)、酸味料及び香辛料抽出物以外の原材料を使用していないものであって、原材料に占める食用植物油脂の重量の割合が65%以上のものをいう。」と定義されています。
 この定義を満たさないものはマヨネーズと表示できず、マヨネーズタイプといった名称しかできません。この基準、数年前の基準の見直しで上記のとおり「はちみつ」が入りましたが、それ以前は「はちみつ入りマヨネーズ」は、マヨネーズと表示できず違反とされており、名称規制のあり方が問われていました。
 個別品質表示基準によって名称の使用制限を受ける品目は、現在29品目。この29品目は、国が「この名称を名乗る限りは、こういうものだ」と決めているもので、「類似品には別の名称を付けなさい」と言っているのです。こだわりの原材料や新製法で新しい製品が次々と生まれる中で、名称を縛るのは時代遅れのような気がします。

 わかりにくさ3点目は、食品ごとの品質に関わる細かい規制です。たとえば「調理冷凍食品品質表示基準」では、魚フライやえびフライの衣の率を50%以下、しゅうまいの皮の比率を25%以下と定めており、それを満たさない場合のみ表示義務があります。
 実際にそんな商品はほとんどないので表示を見かけることはありませんが、この規定があることで衣だらけのえびフライが出回ることはなかったのかもしれません。しかし、一昔前と違って食品の品質はレベルアップしていますし、消費者を騙すよう食品は市場から排除されてしまうでしょう。既に一定の役割は果たしたのではないでしょうか。

<個別品質表示基準設定の経緯と撤廃の問題点>

 ここで、個別品質表示基準のできた経緯を振り返ると、そこには半世紀にわたる食品表示の歴史があります。現在の共通ルール、横断的加工食品表示基準が定められたのは2000年、今から13年前です。それ以前はソースやハムなどJAS規格が定められている一部の品目だけに、個別品質表示基準が定められていました。消費者に選択の目安となる情報を全ての食品においてくまなく伝えるために、共通ルールが導入されたのです。

 その時、個別ルールを見直せばよかったのでしょう。しかし、一つひとつの個別加工食品品質表示基準は数十年にわたって、農水省のもとで事業者と消費者団体が議論を積み重ね、その時代に求められる表示を作り上げてきたものです。一昔前まで加工食品は増量やまがい物が多くて品質はバラバラ、これによって消費者が不利益を蒙る場面も多かったのです。だから標準規格ともいえる基準を定め、名称・定義の縛りをすることで、加工食品の品質の底上げをするという歴史的な役割を果たしてきました。いくつかの基準は撤廃されてきましたが、その多くは残り続けました。

 それが見直されるきっかけとなったのは、新しい食品表示法です。法律ができた経緯には「現在の複雑な食品表示をわかりやすくする」という大きな目的があります。2013年の国会で成立、6月28日に公布された新法は、2年後の施行に向けて消費者庁は下位法令である食品表示基準を新たに作っているところです。そこで50ちかくある個別品質表示基準を整理しよう、ということになったのでしょう。

 ただし一本化にあたっては、これまで個別品質表示基準に関わってきた事業者や消費者の意見を聞く機会も設けてもらいたいと思います。原材料表示に関する個別ルールがなくなると、品目によっては原材料の書き方が大きく変わり、事業者にとっては負担となるでしょう。また、名称規制を外すと一定の品質が担保できなくなるのではないか、いろいろな名称の製品が出てきて消費者は不利益を被るのではないか、といった懸念が品目によっては出てくるかもしれません。

 そのうえで、どうしても残した方がいい個別ルールはどうなるのでしょうか。質疑応答の中で消費者庁は「内閣府令は1本だけれども、その中で食品ごとに基準ができる」とも説明しています。1本化した加工食品品質表示基準の最後に、別表などの形で残ることもあるのでしょうか。しかし、残すものがあまりに多ければ一本にしても「巻きもの」のように長くなってしまいます。せっかくの個別品質表示を一本にするのですから、十分に議論を尽くしてほしいと思います。

 新たに食品表示法ができましたが、「その中身は3つの法律をガッチャンコして、目的や基本理念などを統一して大きな枠組みを作っただけ、それで本当に食品表示がわかりやすくなるの?」とよく聞かれるところです。わかりやすさについては、消費者庁は説明会で「文字ポイントを今後大きくします」「用語の統一をします」と言っていましたが、これに個別表示基準の一本化が加われば大きな前進、わかりやすさに少しでも近づいてほしいと思います。(森田満樹)

*9月10日にアップロードした原稿では「個別加工食品表示基準を撤廃」と表記していましたが、個別品質表示基準で規定している内容が全て無くなるという誤解を招くとの指摘があり、9月12日に一部を書き直しました。

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。