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対談・震災後の今、消費者団体にできること1

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2011年4月1日

全国消費者団体連絡会事務局長 阿南 久さん×FOOCOM.NET編集長 松永和紀

●分かりやすい情報はどこにある?

松永  今回の震災のあと、消団連さんはウェブサイトで活発な情報発信をしていますね。被災者に役立つ情報提供ページを紹介したり、消費者庁が主催した「生活関連物資の買いだめに関する意見交換会」の内容を報告したり。計画停電時に冷凍食品をどう取り扱ったらよいかを記した業界団体のページにもリンクするなど、消費者の生活に密着した情報が出されています。
(全国消団連ホームページ:東北地方太平洋沖地震に関する消費生活情報及び消費者団体活動情報
阿南  様々な情報を集めて皆さんに伝えたい、と思っています。食品の問題については、私たちは専門家ではありませんので、政府機関などの情報に頼らざるを得ません。関連省庁のウェブサイトや信頼のおける機関のウェブサイトをチェックしてその情報を提供していくという取り組みになります。
 ただ、それらは消費者にとってはとても手間暇がかかるものだったり、わかりにくい内容だったりすることも多い。たとえば、放射能に汚染された食品の安全性について、厚生労働省が放射性物質の暫定規制値を決めたとき、食品安全委員会はその根拠となる原子力安全委員会の指標値の資料を紹介していました。でも、それが114ページもある。私は食品安全委員会にすぐ電話して「これを消費者に読めと言っているんですか?」と尋ねました。どこをみればいいのか、せめて情報提供してくださいと言いました。そうしたら、次の更新時に、どのページが該当するのか書いてあって、Q&Aも出てきた。

 この情報が出た3月17日あたりは、関連情報がほとんどありませんでした。したがって、食品安全委員会のQ&Aが出てきたのはとてもよかった。でも、ベクレルとシーベルトの説明や、その計算式があっても、現実に問題となっている例えば「ほうれん草」の値がどのくらいであって、影響がどの程度のものなのかなどについては説明がなく、理解できませんでした。また、食べた時の被害と、外から受けた被害は違うのではないかという点についてもわかりにくかったです。

●消費者が混乱するのも当たり前

阿南 そうした中で22日に「食の安全・安心財団」と「食の信頼向上を目指す会」が「メディアとの情報交換会」を共催しました。ここで初めて、ある程度まとまった情報が提供されたのではないかと思います。唐木英明・東京大学名誉教授のお話の中では、出荷規制がかけられた「ほうれん草」は放射性ヨウ素の暫定基準(2,000ベクレル/キログラム)の7.5倍(15,000ベクレル/キログラム)の値であったが、それは同じ「ほうれん草」を1キログラム食べたときに0.33ミリシーベルト被ばくする値で、年間防護基準は50ミリシーベルトだから、1年間に約150キロ食べると達する数字と、説明がありました。こういう情報がないと消費者が混乱するのは当たり前ですよね。

松永  今、検査して出てきている数値がどれほど小さなものか、いろんな人が解説しているけど、なかなか理解しづらいです。消費者にわかってもらうのは難しいので、科学者も行政も困っている。どうしたらわかってもらえるのでしょう。
阿南  国がもっとしっかりとした強いメッセージを出せばいいのではないでしょうか。
松永  国は「今、市場に出ているのは安全です」と言ういい方をしていましたが、翌日にはひっくり返って「あれは飲むな」と言っているわけでしょう。国がころころ変わったということで消費者の心配は一層募った、という気がします。でも、それ以前から、消費者の国への不信感は高まっていたのでしょうか。
阿南  実は私の娘が2歳の子供を抱えて、この春もう一人出産予定なのですが、被ばくが怖くて外出できないというのです。大丈夫だよ、と言っても、信用できないと。今、何が起こるかわからない、後から実はこうだったなんて言われるのは嫌だという。昨日も金町浄水場の水道水から指標値を超える放射性ヨウ素が検出されたという話があったので、信頼できないと言います。残念なことだと思います。
 結局販売されているものは食べても大丈夫だということを基本にして、普通の食生活をちゃんと送ろうということだと思います。それでも不安な人は、いろんな産地のものを牛乳も野菜もバランス良くということでしょうか。乳幼児だって水道水しか手当てができないところもあるし、そこでミルクを与えないことのほうが、弊害が大きいと思います。

松永  今の混乱は、前日のデータを見てバタバタしている不安と、もう一つ今、原発が進行形で、もしかしたらこの瞬間、爆発して放射性ヨウ素が飛び散るかもしれないというような不安、この二つの不安があります。前者では、理性的に水は大丈夫と思える人もいるけども、後者のことを考えると、娘さんのように「それが明日わかっても…」という気持ちになりますよね。その二つの不安をどうきちんと整理していくか、ということだと思うんです。見通しについて誰も語ってくれないじゃないですか。現在進行形の不安まで持つな、ということを消費者に要求するのは無理。娘さんがそういう気持ちになるのは当たり前だと思います。

●消費者庁の呼びかけは効果的か

みんなで分け合えばできること

「松本隆応さん制作のポスター「みんなで分け合えばできること。」(左)」

阿南  今回消費者庁は、消費者大臣からの節電を呼び掛けや、買占めしないようお願いするメッセージなど、早くから情報を発信しています。しかし、私が疑問に思ったのは、呼びかけ方です。現状では不安が情報を超えているので、消費者がいわば自衛の行動にでるのは当たり前でやむを得ない部分があると思います。だから呼びかけ方として「そんなことしてはいけませんよ」ではなくて、「もっと他の人のことを考えよう」「助け合おう」という前向きのメッセージ、消費者の優しい心を引きだすようなメッセージを送る必要があるのではないかと思います。少し指導的な面が強すぎるのではないかと思います。どういう場面においても買占めに走る消費者やおかしな行動に走る消費者がいます。そこを見るんじゃなくて、良い行動に気持ちよく向かえるようなメッセージの出し方ができるのではないでしょうか。昨日も消団連のウェブサイトで、「こんなポスター見かけました」として紹介しました。「スーパーでは品切れのお詫びや計画停電による照明ダウンのお詫びばかりが掲示されている中で、改めてはっとさせられたポスターでした」として紹介しました。

 こういう呼びかけの方が、協力しようかな、と思います。消費者庁もこういう情報発信をしていったらいいと思います。大多数の消費者はこういう時に、ちゃんと消費者力を発揮しているではないですか。そこをもう少し引きださなくてはいけないですね。
松永  本当はそれができるのが、政治家じゃないですか。消費者の良い気持ちを引きだすのは政治家の腕じゃないでしょうか。消費者庁の主力の業務は監視、指導ですから、今回だけは立場を変えるのは、なかなか難しいかもしれません。
阿南  国民生活センターは、こういう時に悪質商法や義援金詐欺に引っかからないで、という情報提供をしています。こちらの方がむしろ、有効な情報ですよね。消費者庁としては、こういう情報を目立たせるように出していけばいいと思います。そうすれば、消費者庁は監視してるぞ、おかしなことをしたら取り締まるぞ、というように、消費者庁の役割も明確になりますよね。
(続く)

  • 阿佐ヶ谷美術専門学校・松本隆応さん制作のポスター「みんなで分け合えばできること。」のページ
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