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執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

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生食用食肉の規格基準、10月1日から

森田 満樹

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 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会が8月31日に開催され、生食用食肉の規格基準案を了承した。

(要約)

 2011年4月に発生した腸管出血性大腸菌による集団食中毒の発生を受けて、厚生労働省は2011年10月1日より、強制力のある生食用食肉の規格基準を施行できるよう手続きを進めている。8月31日に開催された食品衛生分科会は、この手続きの最終段階にあたる。会では、パブリックコメントの報告、食品安全委員会の答申を踏まえて、規格基準の修正案が示され、委員はこれを了承した。

(概要)

 事務局より生食用食肉に係る規格基準設定について、これまでの検討内容の説明が詳しく行われた。今回、事務局が示した規格基準案は、7月に合同部会が示した基準案に若干の修正が加えられたものだ。

 会では部会長の山本茂貴・国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部長より「今回の規格基準案は、コーデックス委員会のリスク管理の考え方を取り入れた。食品安全委員会の評価とは異なる部分もあるが、管理部門としてもコーデックスの手順を取り入れ、簡易ながらもリスク評価を加えて規格基準を作成した。現行の生食用食肉の衛生基準と違って、かなり厳しくなっていると感じられると思う」と総括があり、その後、委員からいくつか質問・意見が寄せられた。

●ユッケなどの生食は実質禁止、ともとれる内容

 規格基準は大きく分けて、(1)成分規格、(2)加工基準、(3)保存基準、(4)調理基準からなっている。この中で、加工基準については、「衛生的に枝肉から切り出された肉塊は速やかに、機密性のある衛生的な容器包装に入れて密封した後、表面から1㎝以上の深さを60℃で2分間以上加熱する」としている。

 また、成分規格は、加工工程を検証するため、「1検体を25g、25検体以上について腸内細菌科菌群が陰性であることを確認しなくてはならず、検査記録も保存しなければならない」とされた。検査は毎回必要ではないものの、検証のために定期的に確認が必要だ。

 これまでの衛生基準よりも格段に厳しくなり、実現したとしてもコストがかなりかかる。ユッケなどの生食は実質的に禁止ともとれる内容である。会では委員からも「新しい考え方に応じて進めるのは大変。実際に指導ができるのか」と疑問も出された。

●食品安全委員会がこだわった「25検体以上」の検体数

 今回示された成分規格について、最初の基準案では、「検体25gにつき、腸内細菌科菌群が陰性であること」とされていたが、修正案では「生食用食肉は腸内細菌科菌群が陰性でなければならない」と変更されている。この点について複数の委員から、確認が行われた。

 変更された理由は、食品安全委員会の健康影響評価の審議中に「厚労省から出された規格基準の中に検体数が無い。これでは加工時の達成目標値を担保できない」と指摘があったためである。食品安全委員会の結論は、「加工時の達成目標を担保するためには、微生物検査は1検体25gで、25検体以上が陰性でなくてはならない」だった。わざわざ検体数をつけて、答申を返したのである。

 これを受けて、厚労省は結局、成分規格の中には具体的な数字は盛り込まず、25gとする検体量についても表記を外した。そのかわり、運用にあたって25g、25検体の数字を盛り込むこととで対応した。委員の質問に対して、事務局は「成分規格の中に数字は盛り込まず、指導として行う」と答えた。

●拙速な審議に反対する声がパブコメで多く寄せられた

 今後、生食用食肉に係る規格基準は、同省の薬事・食品衛生審議会の了承を経て、施行される予定である。5月中旬に厚生労働大臣が約束したとおり、本当に10月1日からの新基準施行に間に合うことになった。通常であれば、1年かかってもおかしくないほどの規格基準が、わずか4カ月でまとめあげられた。表示についても消費者委員会食品表示部会が、2、3回の審議で結論を出した。

 3つの省庁にまたがり、同時進行で審議が行われ(同日同時間に審議が行われたこともあった)、どこかがちゃぶ台をひっくり返せば、10月1日施行には間に合わなくなるとされる中で、着々と審議が行われ、余裕をもって間に合いそうである。

 「10月1日の施行ありきで規格基準を拙速に進めるべきではない」と言う意見は、パブコメでも複数出されている。これに対して厚労省は「今年4月に発生した焼き肉チェーン店での食中毒事件において、4名の方が亡くなられ、重症者も多数出ていること」をあげ「食品衛生法に基づく規則を早急に策定することが必要と判断した」と応えている。(森田満樹)

(有料会員向けメールマガジン9月1日付け第17号に掲載した記事を一部変更して掲載しました)

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。