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週刊文春さん 一杯食わされましたね〜「遺伝子組換えに発がん性」説を読み解くリンク集

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2014年4月21日
セラリーニ氏らの論文の一部。視覚的なインパクトを狙った論文であったことがわかる。論文は出版社により取り下げられた。×印は、FOOCOM編集部がつけた

セラリーニ氏らの研究グループの論文の一部。視覚的なインパクトを狙った論文であったことがわかる。論文は出版社により取り下げられた。×印は、FOOCOM編集部がつけた

 週刊文春4月24日号に、米国産「危険食品」キャンペーン第2弾として、「遺伝子組換え作物から子どもを守れ」が掲載されている。一読して目を疑った。取り上げられているのはなんと、フランス・Caen大のGilles-Eric Séralini(セラリーニ)教授の実験結果ではないか。
このFOOCOM.NETでいったい何回、この実験のお粗末ぶり、顛末をとりあげたことだろう。

 遺伝子組換え反対派として以前から知られていたセラリーニ氏が、「遺伝子組換えトウモロコシに発がん性がある」とする論文を学術誌で発表したのは2012年。合わせて、自身の実験を解説する映画や著書発売も宣伝し、その時点では海外の大手メディアが数多く取り上げた。遺伝子組換えの強硬な反対国であるフランスの首相も「研究が確かなら、欧州全土での禁止措置を要請したい」と発言した。実験材料の遺伝子組換えトウモロコシを開発したのはモンサントだから、欧州のマスメディアが盛り上がったのは事実だ。

 だが、モンサントとはまったく関係のない科学者や欧州食品安全機関(EFSA)などから次々に実験の不備が指摘され、マスメディアは急にトーンダウンした。2013年には、掲載した学術誌も掲載を撤回して論文を取り下げた。
 もう、まともなメディアは、セラリーニ氏のこの実験結果を書かない。日本の全国紙だって、科学的にあまりにも明白な話だから取り上げない。なのに、週刊文春は論文取り下げから半年もたってこの記事……。

 記事の内容は、科学的にはあまりにも稚拙だ。売名行為の科学者に一杯食わされた、としか私には見えない。事実誤認が山ほどある。
 同じことを多くの人が感じているようで、twitterでもほとんど話題になっていない。まあ、ネットにはセラリーニ氏の所業についての解説がいろいろあるので、多くの人は「週刊文春、やっちゃったね」という感じなのかもしれない。ただ、週刊文春の主な読者層である高齢者でネットを利用しない人は、信じ込んでしまうかも。困ったものだ。

 セラリーニ氏の実験の不備、主張のおかしさは私を含め、さまざまな方々が何度も書いていることなので、もうここでは説明せず、以前の記事にリンクする。食品安全委員会も、この文春記事を受けて改めて、食品安全委員会の見解を再掲載した。これらをお読みください。

 一つだけ、週刊文春記事が致命的に間違っていることを指摘したいと思う。実質的同等性の話である。記事はこう書く。

 実質的同等性とは、GM作物が元の作物と、形、主要成分、性質などがほぼ同じであれば安全という概念で、きわめて曖昧な基準である。
 米国はこの概念によって「政府による安全性試験は不要」とし、OECDに認めさせてGM作物をグローバルスタンダードにしたのである。遺伝子組換えを行う以上、本来なら医薬品なみの検査がなされるべきだ。医薬品では動物実験等が欠かせないのに、GM作物は書類審査だけだ。

 実質的同等性はこういう意味ではない。
 食品の安全性を確認するのは実は、極めて難しい。今食べている食品のほとんどを、人類は安全性を確認しないまま食べている。わかっているのは、「食べてすぐ、具合が悪くはならないですね」ということだけだ。食品に含まれる自然、天然の微量成分の毒性や発がん性などは不明。「昆布を食べ過ぎると、一部のがんリスクが上がるようだ」とか、「コメにも、遺伝毒性発がん物質とみられる無機ヒ素が比較的多く含まれている」というようなことが、最近の研究でわかってきたりしている。つまり、食品はリスクゼロではない。どの食品も、さまざまなリスクを内包している。

 したがって、遺伝子組換え食品の安全性を検討する場合も、「リスクゼロ」は求められない。検討されるのは、これまで食べてきた非組換えの対照食品と比較して同等に安全かどうか、ということだ。
 まず、さまざまな角度から実験データも検討して、組換え食品と非組換え食品で全体としてほぼ同等である、と判断することから、評価ははじまる(食品、つまり作物は、個体差も大きく含有成分等、幅があるものなので、完全に同じであることを求めるわけではない点に注意)。

 だが、組換え食品と非組換え食品で明確に違うことがある。遺伝子組換えにより導入された遺伝子が作る産物である。だから、「ほかのところは全部同じ。でも、導入した遺伝子とその産物については違うから、関連する部分だけはしっかりと安全性を調べよう」という次のステップに進むのだ。

 そして、導入遺伝子の影響、産物について、詳しく調べる。企業が実験等を行ってそのデータを国の機関に提出して専門家が審査し、専門家が足りないと判断したものについてはさらなる実験解析によるデータ提出を要求し、企業は従う。こうしたやり取り、審議の末、懸念のないものだけが、商用化を認められる。これが、国際的に共通の仕組みである。
 企業が検討しデータを提出し第三者の専門家が判断する、という流れは、医薬品も同様だ。

 実質的同等性という概念は、この「既存の食品(作物)と比較して判断する」という考え方を指すもので、「安全性試験は不要」という意味ではない。実際に、さまざまな角度から試験され評価されているし、最近では、メタボロミクス(細胞中の代謝産物の網羅的な解析)などで遺伝子組換え食品と非組換え食品を比較し、より厳密に安全性を確保して行こうという動きも加速している。
 週刊文春の記事を書かれた方は、食品のリスクについて根本的にご存じない方のようだ。食品の安全性は、動物に投与すればわかる、という思い込みもある。だから、セラリーニ氏にだまされてしまったのだろうか。

 記事では、EUが遺伝子組換えの米国基準に真っ向反対、とも書いているが、現状、EUは大揺れだ。英国は遺伝子組換え技術を食糧増産、気候変動対応に役立つ技術の一つと位置づけ、研究に余念がない。首相の諮問機関である科学技術会議は「科学的根拠に基づき適切な承認プロセスによって管理されている限り従来の作物と同等に安全である」と強調し、EUが政治的思惑により動き、商用栽培の承認が増えない現実を厳しく糾弾している。

 日本で一番売れている週刊誌がこれでは、米国に「日本の科学リテラシーの水準は相当に低い」とバカにされてしまうなあ。小保方騒動もあったことだし。
 そもそも、「TPP締結で大量流入 遺伝子組換え作物から子どもを守れ」というタイトルだが、もう既に、日本は遺伝子組換え作物を年間1800万トンくらい輸入していると推定されているわけで……。こんなレベルの反対論では、米国に笑われるだけ。それがなんとも情けない。(松永和紀)

<関連リンク集>

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外部サイト
食品安全委員会・除草剤グリホサート耐性トウモロコシ NK603 系統の 毒性発現に関する論文に対する見解
食品安全情報ネットワーク・フランスの研究グループによる「組み換えトウモロコシの毒性」に関する論文およびそれに関する報道について
遺伝子組換え食品 海外での
“大事件”が報じられない日本(前篇)「遺伝子組換えトウモロコシに発がん性」?
英国科学技術会議リポート

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