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焼肉店も指導する自治体も大混乱―腸管出血性大腸菌食中毒問題←6/2記事追加

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2011年5月30日

 焼肉チェーン店で発生した腸管出血性大腸菌0111による食中毒は、依然として17人が入院しており深刻である。厚労省は「飲食店などで食べるときには、生肉や肉を生焼けで食べる料理がメニューにあっても、なるべく避けたほうが安全です」とウェブサイトに書きながら、「生食用食肉を取り扱う施設がある」という前提で都道府県などに監視を通知したり、消費者への情報提供を促すなど、その動きは極めて分かりにくい。消費者にしてみれば、「国は、『生食をするな』と言っているのか、『食べても良い』と言っているのか、いったいどっちなんだ!」という疑問しか湧いてこない。
 どうすべきか分からなくなっているのは、自治体や飲食店なども同じのようで、さまざまな混乱が起きている。

厚労省と飲食店の板挟み、苦慮する自治体

 腸管出血性大腸菌が原因の食肉食中毒事件を受けて、自治体がその対応に苦慮している。
 厚生労働省は5月5日付けで「生食用食肉を取り扱う施設に対する緊急監視の実施について」とする通知を出して、5月末日までに監視指導を行うよう、自治体に要請した。
 この通知を受けてからの約1か月の間、地方自治体の食品衛生監視員は、域内の膨大な数の施設に緊急出動して監視を強めた。監視のポイントは生食用食肉を提供しているか、提供している場合は衛生基準(1998年に定められた生食用食肉の衛生基準)に適合しているか、である。そして、もし適合していない場合は生食用食肉の取り扱いを中止するよう、指導を行った。その結果は、各自治体から6月5日までに厚労省に報告することとなっている。

●衛生基準に適合していない施設がほとんど

 いくつかの自治体は、緊急監視の中間報告をすでに発表している。徳島県や秋田県などは、大半の施設が国の衛生基準に適合していないことを明らかにしている。また、今回の食中毒事件の中心となった富山県は5月24日に中間報告を発表している。(http://www.pref.toyama.jp/cms_cat/104020/00010532/00414814.pdf)緊急監視の点検対象321施設のうち、生食用食肉取り扱い施設が195施設、このうち点検済み施設は130施設で、112施設がこれを機に取り扱いを中止した。一部の施設では、現在も生の食肉の提供を行っており、富山県は自粛するよう繰り返し指導しているそうである。

 一部飲食店からは「安全な生食肉を出すために具体的にどうしたらよいのか、適切な方法を教えてほしい」という要望が保健所に出されている。自治体によっては、こうした要望に応えるべく生食用食肉の衛生基準について説明会を実施し、トリミングの方法について積極的に指導を行っているところもある。
 だが、厚労省がトリミングの方法を詳細に解説しているわけではなく、「どう指導すべきか、わからない」という食品衛生監視員も多い。どんなトリミングが最適か、トリミングは何ミリが効果的か、表面をあぶったらどうかなどの検証を開始した自治体もある。

 ある地方都市で、報告の作成に忙殺されている食品衛生課K課長に話を聞いた。「現在、市内全域の監視調査を行っているが、飲食店で衛生基準に適合した施設はほとんどない。一部の施設は生食用食肉を調理する専用のまな板や包丁を使うなどしているが、これらが常に洗浄消毒が行われて衛生的な状態で使われているとは限らない。注文が続く忙しい時間に、厨房できちんと区別して処理できるかどうかは疑問だし、隣で加熱用食肉の処理が行われれば、汚染が起きる危険性は高い」という。

●飲食店での表示をどうする?

 現場をさらに悩ませているのが、厚生労働省の5月10日付け通知「生食用食肉を取り扱う飲食店における情報提供について」である。前の特集でもふれたが、飲食店が衛生基準をクリアした場合は、「厚生労働省の衛生基準に適合しています」という表示をするようにというのだ。
 K課長は「施設が整備されておらず、現在の衛生基準ではトリミングの方法も明示されていない以上、実際には、よほどのことが無い限り、表示するようにという指導をすることはない。それでも表示したいという店が現れたら徹底的に監視指導する。今でも肉の生食の提供は止めてほしいというのが基本スタンスだ。」という。

 さらに続けて「今回の事件を受けて多くのメディアが『現在の衛生基準がガイドラインだから強制力がなく、保健所は手出しができないと』報道しているが、それは誤解である。生食を出す店があればわれわれは徹底して指導を行う、それは今後も変わらない。しかし、指導する立場からいえば、これまでは肉の生食提供は止めてくれ、どうしても生食を出す場合は衛生基準を遵守するように、というスタンスできたのに、今度はいきなり衛生基準に適合していることを表示するように、という指導にいきなり変更するのは難しい。こんな通知があるんだよということを飲食店に伝えることさえも悩ましい」と、困惑を隠さない。

 これから4か月後、10月1日には生食用食肉の規格基準が作られる。監視指導の現状に即して、衛生基準も細かく方法が定められるのだろうか。果たして時間は足りるのだろうか。                      

(森田満樹)

「当店のユッケは、厚生労働省の衛生基準に適合しています」と書いてあったら、食べますか?

●ユッケを堂々と提供する店が現れた

 富山県を中心に4人の死者、160人以上の患者を出した集団食中毒事件。これを機に、牛肉の生食が敬遠されるようになり、《牛角》などの大手焼肉店ではユッケなどの提供を一時見合わせている。
 その一方で、堂々と生食を提供する店も現れ始めた。たとえば青森県弘前市のある焼肉店では、ウエブサイトのトップページに「当店のユッケは、当店にて、厚生労働省が定める生食用食肉等の衛生基準に適合した加工を行っています」と掲示して、生肉料理を提供している。

 この掲示には根拠がある。厚生労働省が5月10日付けで出した「生食用食肉を取り扱う飲食店における情報提供について」という通知だ。これを受けてこの店はこの表示をしているのだ。
 通知の内容は、厚生労働省が定めた衛生基準(1998年・生食用食肉の衛生基準)を満たしてトリミング等を行えば、店内に表示あるいはメニュー等でそのことを掲示することによって、生食を提供することができる、というものだ。利用者(客)への情報提供の参考掲示例として、「当店の○○は、当店にて、厚生労働省が定める生食用食肉等の衛生基準に適合した加工を行っています」という具体例まで親切に示してある。また、神戸のある食肉店は、通知の翌11日には、同内容の表示を行って生食用食肉を販売し、積極的に消費者に“情報提供” を行った。

●通知の周知徹底に動く自治体も

 自治体でも、この通知を周知させようとする動きがある。新潟市食の安全推進課は5月13日、ウエブサイトでこの通知を紹介するとともに、営業者間の食肉の取引において衛生基準通知に基づいているかどうか文書で確認するよう“お願い”をしている。
ここでは利用者への情報提供方法の事例として、厚生労働省の参考掲示例だけでなく、メニュー表で「当店の牛タタキは、グループ店の○○食肉加工所で厚生労働省が定める生食用食肉等の衛生基準に適合した加工を行っています!」と表示する事例など、いくつかを掲げている。表示による情報提供を推奨しているのだ。

●厚労省のお墨付、と誤解されかねない

 この通知とそれに基づく表示(情報提供)は、消費者に誤解を与えることにならないだろうか。ユッケが大好きな人であれば、このような情報提供と商品提供を「待ってました!」と大歓迎することだろう。これを見て「この店のユッケなら、厚生労働省のお墨付をもらっているから大丈夫」と安心して利用する人も少なくないはずだ。子供に食べさせる人も出てくるかもしれない。

 この通知の内容そのものが不適切というわけではないのだが、現場で基準が本当に守られているのだろうか。許可制度ではないので、チェック体制があいまいなまま、この表示が独り歩きしないだろうか。衛生基準が実質的に守られていれば、今回のような食中毒事件は起こらなかったに違いない。罰則を伴わないこの通知が守られていなかったからこそ、甚大な被害をもたらした重大食中毒事件が発生したのである。

 むしろ国は規制を強化し、食肉の生食は食中毒のリスクが高いということを周知徹底させるべきではなかろうか。この通知は、肝心な点に目をそむけ、逆行しているように思えてならない。
通知は、今年の10月1日に厚生労働省が新たに規格基準を設けるまでの間、消費者に少しでも適切な情報を与えるために出されたものだという(細川厚生労働大臣の記者会見より)。しかし、この内容では情報提供の目的を超えて、厚生労働省がこのお店の生食を推奨しているような印象を消費者に与えかねない。

● 通知内容、見直しを

 少ない菌数で発症してしまうのが腸管出血性食中毒大腸菌食中毒の特徴だ。たとえ飲食店の専用施設で、専用の調理器具を用いて適切な技術力をもってトリミングしても、生で食べる事を消費者の判断にゆだねるのだから、メニュー等に一定のリスクがあるといった情報提供を併記させることこそ重要ではないだろうか。今回の通知はあまりに唐突すぎるし、通知内容を充分に検討したような経緯もない。
 消費者にとって、表示は商品選択の拠りどころである。短いメッセージの中に、「厚生労働省の基準に適合」と表記してあれば、期待するのは無理もない。健康食品であれば「厚生労働省認可」と表記することによって優良誤認として法令違反となるケースもあるくらいだ。
新しく推奨される表示が、間違ったメッセージを消費者に与えることにならないように、そして、悲劇がこれ以上繰り返されることがないように、通知内容を再度見直してもらいたいものである。

(森田満樹)

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