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特集

規制改革会議、サプリ論議は迷走中

   

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 内閣総理大臣の諮問機関「規制改革会議」が、いわゆる健康食品の有効性(機能性)の表示規制を緩和しようと議論を続けていることにお気づきだろうか。
 会議が設置されたのが1月24日。2月15日の第2回会議で、「これまでに国民や経済界などから提起された課題の代表例」の一つとして、いわゆる健康食品(栄養機能食品や特定保健用食品を除く一般の健康食品、サプリメントなど)の表示が事務局から提起され、ワーキング・グループ(WG)で詳しい検討を行うことが決まった。そして、 健康・医療WGの第2回会合(4月4日)、第3回会合(4月19日)、第4回会合(5月9日)で主に取り上げられている。

 いわゆる健康食品の現行の制度に問題があるのはたしかだろう。だが、この拙速の審議は、私たち消費者に大きな不安を抱かせるものだ。
 まずは、議論が密室で行われていること。審議が公開されておらず、終了後に議事概要と資料が公開されているだけだ。議長が「遅滞なく公表することで公開性は十分」と発言しているが、健康・医療WGの議事概要は第1回会合しか公開されていない(5月16日現在)。開催から1カ月以上たった会合であっても、議事がどのように進んだのかが一般国民にはわからないのだ。

 しかも、資料を見る限り、偏った業界筋からのヒアリングしか行っていない。にもかかわらず、5月2日の第8回規制改革会議で、WGの中間報告が出されてしまった。
 この中間報告を見て茫然としたのは、私だけではないはずだ。いとも簡単に、いわゆる健康食品の新制度設立方針が打ち出されているのだ。公表されている資料と突き合わせて検討すると、どうも「諸外国では、食品に機能を表示できるのに、日本はできない。これをできるようにして、産業振興を」という考え方らしい。

 いわゆる健康食品の負の面が、まったく顧みられないまま、「規制改革」「規制緩和」というかけ声だけでことが進んでいるように見えてならない。いわゆる健康食品の制度が今、事実上のこう着状態に陥っているのは、非常に複雑で難しい問題を多数含んでいるからだ。それらを無視して制度を作っても、うまく機能するはずがない。このままでは結局、消費者やこれまでまじめに努力してきた健康食品業者が貧乏くじを引かされ、消費者の健康被害が増えてしまうのでは、と思えてならない。

 マスメディアも、この話をちっとも書かない。その結果、多くの国民、消費者がこんなに急ピッチで制度変革が検討されていることに気付いていない、という状態に陥っている。
 これは、まずい。

 というわけで、Foocomで特集を組むことにした。まず、健康食品に詳しい高橋 久仁子・群馬大学教育学部教授の、今回の審議に対するご意見をお読みいただきたい。
 Foocom事務局は、配布資料やこれまで公開されている議事録を基に、なにが審議され、なにが議論されていないのか、提案にどんな問題があるのか、「諸外国に並べ」と主張されている諸外国で今、なにが起きているのか等々について、分析した。規制改革会議という密室で今、なにが起きているのかを知り、じっくりと考えていただきたい。(松永和紀)

特集1 高橋 久仁子さん寄稿 規制改革会議の中間報告に異議あり

Kuniko Takahashi

群馬大学教育学部 高橋 久仁子教授

 常々、食生活教育の立場から「健康食品」類およびその宣伝広告の問題性について苦言を呈しているが、5月2日に行われた第8回「規制改革会議」の資料中にある「医療・健康ワーキンググループ」の中間報告(1)には驚いた。こんな仕組みが整備されたら健康教育が大混乱に陥る。

 その中間報告の「規制改革の目的」は複数あり、その一つが「一般健康食品の機能性表示を可能とする仕組みの整備」である。その「検討の視点と主な検討項目」には「現在、我が国の食品に係る機能性表示は、特定保健用食品と栄養機能食品においては認められているが、許可を受けるに際しての過度な負担や、可能な機能性表示の範囲の狭さなど、制度の使い勝手の悪さが指摘されている。また、いわゆる一般健康食品においては機能性表示が認められていない。このため、より合理的かつ簡易に機能性表示を可能とする仕組みの整備等を求める。これにより、国民のセルフメディケーションの増進にも資する。」と書かれているのである。

 特定保健用食品(トクホ)は許可を受けた範囲内で健康への効果を表示できるが手続きが面倒。栄養機能食品は定められたビタミン12種類・ミネラル5種類のうちのいずれか一つを下限値以上・上限値以下で含んでいれば手続き不要で表示できる、でも、インパクトに欠ける。だからいわゆる「健康食品」について簡単に「効能・効果」的な表現ができる制度を作りたい、ということのようである。

 そういえば以前から「一定の機能性表示を認める新たな制度設計」の可能性を探る動きがあるとのウワサは聞いていた。しかし、このような形でいきなり出てきて、きちんとした議論もせずにおかしな制度ができてしまうかもしれないことに唖然とする。

 現行のトクホでさえ、消費者の立場からすれば問題山積である。その保健効果は非常に限定的であるのに、「許可を受けた表示内容」を逸脱した、例えば「脂質過多の食事をしてもこれさえ飲めばそれがチャラになる」と錯覚させる宣伝広告が繰り広げられているのである。今以上の簡易さで「機能性表示」を行うことが、「国民のセルフメディケーションの増進にも資する」と本気で考えているとしたらずいぶんおめでたい話である。

 「健康食品」の宣伝広告でよく見かける常套句、「医薬品ではありません。食品だから安全です」に根拠はない。たとえ「それ」が食品そのものや食品に含有されている成分であっても、抽出・濃縮・乾燥等によって「それ」を大量に摂取すると、もともとの食品をたくさん食べることでは起こりえない有害事象を引き起こすことがある。βカロテン摂取による喫煙者における肺がん罹患率増加(2)、アマメシバによる閉塞性細気管支炎(3)、αリポ酸錠剤摂取によるインスリン自己免疫症候群(4)、アルコール抽出緑茶成分の錠剤(5)や共役リノール酸摂取(6)による重大な肝障害等々、報告例は少なくない。

 また、「健康食品」の宣伝では「こんな方におすすめ」として「野菜不足が気になる方・たばこが止められない方・運動不足が気になる方・宴席が多い方」等々をよく見かける。このような文言は、この「健康食品」を使えば「野菜摂取量を増やす・禁煙する・運動をする・宴席回数を減らす」等の抜本的な改善は無用で問題解決できると誤解させ、不健康状態を継続させることになる。

 健康の維持・増進の3要素は言うまでもなく「運動・休養・栄養」である。「栄養」、すなわち食生活、あるいは食事だけで健康を維持・増進できるわけではない。ましてや食品中の特定成分にのみ着目する「機能性表示」は誤ったセルフメディケーションに導く。
 それを利用すると「健康が買える」かのような欺瞞に満ちた製品を流通させることは「国」がインチキに加担することである。健康教育を混乱させてはいけない。

<参考資料>
(1)規制改革会議 健康・医療ワーキング・グループ中間報告
(2)The Alpha-Tocopherol, Beta Carotene Cancer Prevention Study Group. (1994) The effect of vitamin E and beta carotene on the incidence of lung cancer and other cancers in male smokers. N Engl J Med. 330、1029-1035
(3)Oonakahara K.,et.al.: Living-donor Lobar Lung Transplantation in Sauropus androgynus-associated Bronchiolitis Obliterans in Japan 2005
(4)独立行政法人・国立健康・栄養研究所 α—リポ酸
(5)Gloro R, et al.:Fulminant hepatitis during self-medication with hydroalcoholic extract of green tea. Eur J Gastroenterol Hepatol. 17, 1135-1137.2005
(6) Nortadas R, Barata J.:Fulminant hepatitis during self-medication with conjugated linoleic acid. Ann Hepatol. 11:265-267. Ann Hepatol. 2012

特集2 その論法、なにが問題なのか?

●「サプリで医療費削減」の根拠は?

 規制改革会議の健康・医療WGが5月2日の第8回規制改革会議に提出した中間報告をどう考えたらよいのか。会議が公開されていないためなんとも判断しにくいのだが、配布資料を読む限り、この審議には大きな問題がある。

 最大の問題は、「いわゆる健康食品、サプリメントを活用すると、医療費削減の可能」という主張が、何の検証もなく「正しい」とされていることではないか。
 規制改革会議における機能性表示緩和のキーマンは、森下竜一・大阪大学大学院医学系研究科教授である。森下教授が第2回規制改革会議で、「健康食品、いわゆるサプリメント」について発言している部分を抜粋してみよう。

 「海外では機能性表示は一般的でありまして、10ページに書いておりますように米国、EU、中国、 韓国等でもそういう表示ができるようになっている。日本だけがこのような表示ができない。実際に米国の例を11ページに書いておりますけれども、こういう形で表示がちゃんとできれば、消費者の方も分かりやすくなりますし、また、そういう商品を開発しようという産業界の方もおりますので、雇用の促進等にも私もつながるのではないかと考えております。
 実際にこうした形でちゃんと機能性表示ができれば、医療費の削減にもつながるのではないかという例が日本でも実はありまして、15ページに埼玉県坂戸市の例を出しておりますが、これは葉酸を使って医療費が実際に減少したというケースも出ておりますので、こうしたサプリメント、ヘルスケア用品の規制改革も是非行っていただきたいと思っております」

 資料を見ると、埼玉県坂戸市で 年から行われている「さかど葉酸プロジェクト」が医療費と介護費を2年間の合計で約22.3億円節減したことを挙げ、「機能性表示により、国民に安心感を与え、医療費削減、海外との企画統一によりサプリ産業を輸出産業に変換」と書かれている。第2回規制改革会議資料

● 坂戸市葉酸プロジェクトは根拠にならない

 この資料を見て森下教授の発言を聞くと説得力がある。でも、坂戸市が説明する葉酸プロジェクトは、実は葉酸サプリを摂取する取り組みではない。(第3回健康・医療WG、4月19日開催資料坂戸市ウェブサイト
 同市は、成人の1日の葉酸摂取必要量を400μgと定め(厚労省の食事摂取基準では240μg)、できるだけ野菜などの自然の食品から多く摂取するように呼び掛けているという。そして、自然の食品のみでとるのは難しいという人のために、葉酸を添加した食品(パン、ドレッシング、カレー、たまごなど)を開発した、というのだ。

 野菜を多く摂取した場合に、がんなど疾病リスクが軽減することは多くの研究で明らかとなっている。この坂戸市の結果を「葉酸の効果」と限定するのは根拠に欠ける。森下氏が引用した結果にしても学会発表で、エビデンスとして非常に弱い。

 坂戸市は「葉酸は、動脈硬化の危険因子ホモシステインを下げる効果があり、認知症や脳梗塞の予防につながる」としているが、2010年に発表されたメタアナリシスでは、「ホモシステインは下がっているが、それが血管疾患のリスクを下げるという証拠はない」という結果になっている。アメリカ国立衛生研究所(NIH)の情報提供サイトOffice of Dietary Supplementsの葉酸情報は、このメタアナリシスを含めて、サプリとしての葉酸摂取に「認知症や脳梗塞の予防がある」とする明確な根拠がないことを、詳細に説明している。

 坪野吉孝先生の執筆された「葉酸とビタミンBのサプリメントで、高齢者の認知機能の改善なし」も、一つの論文の解説ではあるけれど、とてもわかりやすい。

 葉酸は、受胎から妊娠初期に不足すると、胎児の神経管閉鎖障害のリスクが上がってしまう。だから、妊娠可能性のある女性が適切な量をとることはとても重要だし、サプリメントとして売ることに意味もある。そして、実際に既に「栄養機能食品」として、「胎児の正常な発育に寄与する」などと表示して売ることが認められている。が、血管疾患や認知症等の効果ははっきりしない。そのうえ、過剰摂取によるがんリスク上昇の懸念も指摘されている。

 これらを考えると、坂戸市の結果を持って「サプリメントで医療費削減」があまりにも安易であることがわかるだろう。

● ヒアリングにバイアス

 WGが、健康食品にかんするヒアリングを、健康食品の関連団体からしか行っていないのも問題だ。日本健康・栄養食品協会、日本通信販売協会、健康食品産業協議会、それに坂戸市健康スポーツ推進課である。坂戸市を除き、健康食品の規制緩和が行われれば、お得になる団体ばかり。そして、坂戸市は、医学界では既に懐疑的なホモシステイン仮説に基づく施策を、検証することなく実行している自治体である。

 もしかすると、WGの中にも、食品やいわゆる健康食品に詳しい人がいないのではないか。だから、この葉酸プロジェクトのような、いわゆる健康食品をきちんと調べている者ならだれでも気付く「論理の飛躍」が否定されないのではないか。

 そして、WG委員として当然チェックすべきヒアリング対象の偏りにも目が行かない。
 だが、業界団体が提出した資料を見ると、いかに偏っているかが一目瞭然である。たとえば、健康食品産業協議会の資料(健康医療WGの4月4日開催第2回会合資料の中にある)。世界とのギャップの例として、米国NHIにNational Center Complementary and Alternative Medicine(NCCAM)があることを紹介し、「補完代替医療の研究を推進している」と説明している。

 たしかに、NCCAMでは研究が推進されていて、たとえば日本でも効果が期待されている成分、オメガ-3-脂肪酸(DHAやEPAなど)については、「豊富に含む魚を食べるのは健康的。でも、サプリメントをとって心臓疾患を防ぐことについては、よいエビデンスがない」と明確に書いてある。「Herbs at a Glance」に並ぶさまざまな植物については、軒並み「たしかなエビデンスなし」である。

 つまり、研究を推進した結果、多くが「効果なし」ということがはっきりしてきており、その情報を市民に提供しているのだ。こうした状況に多額の予算がつぎ込まれていることに批判がわき上がっている(2009年のNatureなど)。NCCAMを紹介するなら、ここまで解説してほしい。そうでないと、印象は180度変わってしまう。

 また、「こんなにヘルスケア費用を下げられる」といくつかの研究が紹介されているが、情報が古い。確かに、削減効果をうたう研究発表もあるが、その後の各成分の有効性やリスク研究の進捗状況を考えると、挙げている14億ドルの削減とか32億ドルの削減などの数字を今、そのまま使っていいとはとても思えない。新しい研究も紹介されているが、腹部の手術を受けた入院患者の栄養管理におけるもので、この結果を一般化することなど無理だ。個人的な印象を率直に述べれば、結局は、都合の良い結果を新旧、集めて資料にしました、としか見えないのだ。

 ヒアリングを受けたそのほかの団体の資料も見てほしい。こんなにかぼそい論拠で、あるいはあまりにも正直な利益誘導でサプリの新制度が決まるのか、と驚くこと請け合いだ。

 詳しくない委員たちと、偏ったヒアリングで、よい制度ができるとはとても思えない。委員は、医学や栄養学の研究者、医師会、栄養士等の業界団体等からも話を聞いてから今後の方針を決めるのが、当然ではないか。

● 消費者庁の批判の方が、筋が通っている

 実は、WGの会合で、議論の方向性の問題点を手厳しく指摘している組織がある。消費者庁である。
 私は、消費者庁のいろいろな施策には相当に批判的で、記事でもいろいろと書いているけれど、今度ばかりは、消費者庁の主張の方が、はるかに筋が通っている。規制改革会議は、米国などと盛んに比較して「日本の制度は使い勝手が悪い」としている。でも、「安全性においても有効性においても国が検討し、一定のエビデンスがないと、表示させない」という点で、日本の現行の制度は消費者保護上の一貫性がある。エビデンスがかなり弱い機能性表示を容易にできて、今や大混乱となっているアメリカを真似しても、消費者の不利益になるだけ。だから、現行制度を維持し、でも、問題のある部分は、諸外国を見習って改善を図りたい、というのが消費者庁の主張だ。(ワーキング・グループ第3回会合の資料4:消費者庁提出資料で説明されている)。

 アメリカで実際になにが起きているか、政府機関の中から批判が起きていることや、さまざまな学会等が一部のサプリメントを服用しないように勧告していることなどを知っていれば、消費者庁の主張も十分にうなずける(アメリカの状況については、この後の特集原稿3で解説している)。

 ところが、面白いことに、規制改革会議の資料をばくぜんと眺めていると、「既得権益にしがみつく規制官庁v.s.規制改革派」に見えてしまう。消費者庁はすっかり悪者だ。
 そこで、思い出した。民主党の事業仕分けがまさにこれだった。既得権益にしがみつく行政組織と、ばさばさ仕分けして廃止に追い込もうとする委員たち。でも、事業仕分けは公開されていたから、「2位じゃダメなんでしょうか?」という発言などが出て、「カッコよく切って行く委員たちは、実はど素人じゃないか?」という疑念が産まれたのだ。結局、事業仕分けはうまくいったとは言えず、実現しなかったものも多い。

 事業仕分けと違って規制改革会議は公開されていないので、審議が見えて来ない。結論しかわからない。本当は、ど素人が議論しているのではないですか?
 今、健康食品業界は浮き足立っている。おぼつかないエビデンスで、簡単に表示をされて「産業振興だ」と言われてはたまらない。バカを見るのは、このままでは消費者ではないか。(松永和紀)

特集3 問題が露呈している米国の制度をなぜ真似る?

 規制改革会議の健康・医療WGは中間報告(2013年5月2日発表)で、一般健康食品の機能性表示を可能とする仕組みを整備するため、2つの検討項目を示している。1つは「いわゆる健康食品」の機能性表示、もう1つは現行の保健機能食品(栄養機能食品と特定保健用食品)制度だ。
 これに関連して大阪大教授の森下竜一委員は、規制改革会議第2回(2月15日)第3回(2月25日)に資料を提出しており、新たに「機能性表示健康食品(仮称)」「機能性表示ヘルスケア用品(仮称)」といった新しい概念を持ち出して、現行で認められていない「いわゆる健康食品」のジャンルに機能性表示ができる制度を提言した。

 森下委員の主張は、健康・医療WGで事業者団体が示した主張と同じだ。「海外では機能性表示が一般的だが日本だけがこのような表示ができない。米国の例を示すが、こういう形で表示がちゃんとできれば消費者の方もわかりやすくなる」として、日本でも新たな仕組みを整備すべきというものだ。

 この主張はおかしい。日本でも栄養機能食品と特定保健用食品であれば機能性表示はできる。一方、米国では事業者が届け出をすれば事業者責任で機能性を表示できる仕組みがあって、機能性表示のできる幅が格段と広い。これを持ち出して「もっと機能性表示を」と主張しているのだ。

●米国の機能性表示は複数の法律からなる
 米国の機能性表示のルールはとても複雑だ。基本は、1990年に栄養健康表示教育法(NLEA法)において、FDAが科学的根拠について立証されている原料・素材について「ヘルスクレーム」を認める制度で、「カルシウムと骨粗しょう症」など12の機能を定めている。また1999年には、新たに条件付きヘルスクレーム(QHC)というジャンルを設けて、科学的根拠の程度に応じて段階的な機能表示を認めている。これらは、疾病リスクの低減について表示ができる。

 一方、FDAが有効性を認めなくても、企業が自己責任で届出だけで機能性表示ができる制度がある。1994年に制定されたダイエタリーサプリメント教育法(DSHEA法)という法律によるものだ。この制度によって、ビタミン、ミネラル、脂肪酸、アミノ酸、ハーブ、酵素等について、疾病リスクの表示まではできないものの、「維持する」とか「調節する」といったことばを用いた機能性表示ができる。諸外国には例をみない制度だ。

 この場合、「この表示はFDAによって評価されたものではありません。この製品は病気を診断、治療、予防することを目的としたものではありません」という打消し表示が必要となるが、この打消し表示の文字はとても小さい。

 DSHEA法が導入されてから、米国はサプリメント王国として年間3兆円ともいわれる巨大市場が形成されてきた。確かに、アメリカのスーパーやコンビニに行くと、たくさんの錠剤・カプセルが並んでいて壮観だ。日本のように国民皆保健制度が無く、簡単に医療機関は受診できないことも、後押ししているのだろう。自分の体調にあわせて複数のサプリメントを用いるアメリカ人が多いという。

 しかし米国の制度は、様々な問題が指摘されている。そもそもDSHEA法では、有効性と安全性について詳細な実証法が定められておらず、科学的根拠を実証した論文の公表も義務付けられていない。FDAはこうした問題を解決するため、有効性の実証に関する指針と安全性に関する新たな指針を2008年2011年に示したが、あくまで指針であり強制力はない。

 「FDAのダイエタリーサプリメントの監視は十分ではない」と指摘する報告書が2012年10月、米保健福祉省観察総監室からも発表されている。報告書では、米国で販売されているサプリメントのかなりの部分に根拠のない宣伝やルールに従っていない表示が行われており、改善を勧告している。疾病低減リスクの表示は禁止されているのに、2割は違反しており、7%は打消し表示もされていなかったという。

●DSHEA法は有効性も安全性も問題が多い
 国が有効性を認めていないようなダイエタリーサプリメント、本当に効くのだろうか。米国のダイエタリーサプリメントに関する情報は、NIH(米国立衛生研究所)の中のダイエタリーサプリメント局(ODS)という政府機関が発信している。ODSはこの分野の研究を推進している部局だが、興味深いことにこのウェブサイトではサプリメントは必要ないという情報が多い。消費者向け情報で「サプリメントは健康的な食生活にとってかわるものではない」としているのだ。国をあげてイケイケどんどんではない、ということがわかる。

 さらに項目別ファクトシートの機能性表示の内容が興味深い。たとえばビルベリーエキス。ファクトシートでは「夜間視力を改善するといういくつかの主張は真実ではない」「健康の為にビルベリーの果実や葉の使用をサポートする科学的根拠はない」としている。しかし、米国のダイエタリーサプリメントでは「目の健康を増進する」としてしっかりと機能性表示ができる。
(ちなみに日本では「いわゆる健康食品」のため機能性表示は認められず、「ショボショボが気になる方におすすめ」という表示となり、芸能人の「スッと明るくなった感じ」と体験談が出ていたりする、これでは消費者がわからないので、こういう製品にも機能性表示を認めたほうがいいというのが事業者団体の主張なのである)

 それでは有効性はさておき、安全性はどうだろう。これまで欧米で実施された大規模な疫学調査で、抗酸化ビタミンの長期摂取で、ある種のがんの発症率が高まることがいくつも報告されている。米国がん研究財団(AICR)でも、がん予防のための10か条の1つに「サプリメントは使用するな」とある。
 前述したODSのウェブサイトでも、サプリメントの利用はむしろ予期しない副作用の可能性があるとして、注意喚起情報が満載だ。たとえば朝食用シリアルなどに追加して過剰なビタミンをとることで、骨の強度が低下し、先天性欠損症を引き起こし、頭痛や肝臓を傷つける恐れがあるといったネガティブデータが示されている。これだけを読むととても利用する気にはなれないと思うのだが、米国の消費者には伝わっていないようだ。

 さらにダイエタリーサプリメントによる健康被害情報も数多く報告されている。米国では有症事例を引き起こした場合、事業者はFDAに報告することになっている。米国会計検査院(GAO)が最近まとめた報告によれば、2008年から2011年にわたってFDAの有害事象報告は6307件ある。このうち企業からの報告は7割、多くが複数のサプリメントの使用による相互作用の被害だ。報告書では、中毒情報センターではさらに1000件以上多い有害事象報告事例を受け取っているとしており、FDAの管理は十分ではないと指摘している。

 もちろんFDAもダイエタリーサプリメントを野放しにしているわけではない。FDAのリコールサイトをみると、その回収事例は実に多い。表示された有効成分を満たしていないもの、表示された成分以外に意図的に医薬品成分が含まれているものなど、後を絶たない。FDAでは問題のある製品を排除しようとcGMPという独自の適正品質規範を設けて、取り締まりを強化しているが、違反が多くて追いつかないという感じだ。
 それでも2004年から2012年の間にFDAがリコールしたクラスⅠ(もっとも深刻なレベル)のうち、半分以上(237品目)がダイエタリーサプリメントだという報告もある。多くは痩身用、性機能増強用、筋肉増強作用の医薬品成分が意図的に含まれていたという。

 米国のメディアもサプリメントの摂取について警鐘を鳴らしている。「サプリメーカーが語りたがらない10の事実(WSJ)」「サプリメントの摂取は大半の人で不要、逆効果も(AFP)」など安全性や有効性に疑問を呈している。両方とも日本語に翻訳されている。

●提案されている第三者認証型は、国際的にみてもおかしい
 米国のダイエタリーサプリメントにはこのように多くの問題があり、さらなる規制の強化が必要なのは明白だ。しかし、規制改革会議の森下委員の資料や事業者団体の資料を見る限り、米国の制度は「機能性表示ができる」ことばかりが強調され、問題点は全く指摘されていない。「米国はうまくいっていない」という都合の悪い事実が、どうも規制改革会議の中では伏せられているようだ。

 事業者団体もその点は承知しているのだろう、さすがに米国のダイエタリーサプリメントの制度をそのままもってこようという無茶な提案はしていない。そのかわり、事業者側が新たに提案をしているのが「第三者認証制度」である。 第3回健康・医療WGで、「健康機能食品(仮称)認定のフロー」が示されており、第三者認定機関が認定を行い機能性成分の表示ができるようにしようというものだ。
しかし、国際的にみても第三者認定機関が機能性表示を認めるという制度は無い。米国は届出制度だし、韓国の健康機能食品制度も国が認定したもので、第三者機関の認定制度ではないのだ。これは日本の事業者側の独自の提案である。ならば学識経験者や消費者の声を聞いて、海外にも例のない第三者認証制度の是非を論ずるべきだろう。常識的に考えても、そのまま事業者の提案が通るとは思えない。

 また、規制改革会議では規制緩和にあたっては、項目に応じてその必要性・合理性について国際比較に基づいた検証が必要となる。その時に用いられる枠組みが「国際先端テスト」であり、他の様々な案件もこれに照らし合わせて検討される。国際先端テストに照らし合わせれば、第三者認証制度はどう考えても無理だろう、そう思っていた。

 しかし、驚くべきことにこの「国際先端テスト」の内容自体が、第6回(4月1日)と第7回(4月17日)でいつの間にか変更されているではないか。第6回資料では「検討の視点」がaからeまで6点あって、諸外国と比較して妥当性を問うものだったが、第7回資料ではここに「f. 日本及び諸外国の既存制度を超えた新たなルール・制度整備が必要ではないか」という項目が加わっていたのだ。

 fの項目が加われば、国際的に比較しなくても全く新しいルールを導入できる。つまり「いわゆる健康食品」において機能性表示を実現すべく、「第三者認証認定機関による健康機能食品(仮称)」が導入できることになる。つまり、都合のよい結果を導き出すために、国際先端テストという、議論の大前提となる“ルール”を変えた疑いがある。

 日本の機能性表示は、これまで30年間議論を重ねて、日本独自の現行の保健機能食品制度が構築されてきた。国がちゃんと認めたものでなければ、機能性表示は許しません、という厳しいものだ。もちろん問題もある。しかし使い勝手がわるいなら、まずは現行の保健機能食品制度を見直すことから議論を始めるのが妥当だろう。日本には機能性表示ができる仕組みがあるのだから。

 しかし、これがたった数か月の議論で、サプリメント王国の米国の問題点も検証しないままに機能性表示の緩和が良しとされ、世界中に無い第三者認証型という新たな方向性が示されるのか。これでは消費者は置いてけぼりだ。これが規制改革会議のスピード感なのである。(森田満樹)

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