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「奇跡のリンゴ」から考える日本農業論〜農家、商店主が本音で語る食の未来 第1回

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2013年8月16日

 日本で一番、農薬にやさしい有機農家、久松達央さん、日本で一番、リンゴとリンゴジュースの味にこだわる農家、水木たけるさん、自分が好きなものしか店に置かない、日本で一番わがままな店主、安井浩和さん。この3人にFOOCOM.NET編集長の松永和紀が加わって、有機農業のこと、世界に日本のリンゴを売る方法、客の胃袋をつかむ食べ物のこと……縦横無尽に3時間語り合った。食べ物をめぐる「本音」の話を4回にわたってお伝えしよう。
 まず盛り上がったのは、話題の「奇跡のリンゴ」。どうも、有機農家にも、農薬を使うリンゴ農家にも評判はよろしくないようで……。

周囲のリンゴ農家が農薬を使うからこそ、無農薬が可能になる

水木:奇跡のリンゴの発祥の地、弘前市でリンゴを栽培して、ジュースなどの加工品も売っています。奇跡のリンゴは映画にまでなりましたから、地元は、大学や銀行などがとても盛り上がっています。でも、ほかのリンゴ農家は歓迎していない。地元では、だれも同じような農法でリンゴを作ろうとはしていないです。

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Foocom事務所で語り合う4人

 その理由を6月にFacebookに書いたら、6万ビューを超え、シェアも400あまりになりました。月刊誌「農業経営者」の8月号にも載せてもらいました。現場からの批判が今まで、きちんとなされて来なかったから、ぼくのFacebookにも注目が集まった、と思っています。
松永:Foocom読者にもFacebookを読んでいただきたいと思いますが、ここで簡単に説明していただけますか。

水木:これまで、リンゴは無農薬では栽培できない、と言われてきましたが、木村秋則さんの努力により、それが覆されたのは事実でしょう。でも、それは彼の園地のみで成立していることで、だからほかの園地や青森県全域で無農薬へと転換できるか、というとそれは不可能だと思っています。
 そもそも、彼は今から40年近く前に奥さんが農薬の被害を受けたのが無農薬を志したきっかけだといいます。でも、その後、農薬は進化して、そのような害に見舞われて苦労することはほぼなくなりました。それがリンゴ農家の実感です。一日摂取許容量(ADI)の設定など十分に安全に配慮されており、むしろ消費者は農薬利用によってメリットを享受している。メリットというのは、生産安定や低コスト化などです。40年以上前の基準をベースに「農薬=害」とするステレオタイプの古い発想から脱却すべきです。

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日本で一番、リンゴとリンゴジュースの味にこだわる農家、水木たけるさん

安全だとという保証はない

水木: 無農薬栽培によってリンゴ自身が害虫・病害に対する危機を感じて、農薬と同じような成分を自ら作って身を守ろうとし、それが、人のアレルギーの原因となる場合もあることなど、研究でわかってきています。そのような化学変化が、「奇跡のリンゴは腐らない」という現象になっているのかもしれない。防腐剤に相当する成分が含有されているから腐らないだけなのに、それがなにか、生命力が強い、素晴らしいというイメージとなって振りまかれる。農薬を使ったリンゴよりも安全だという保証はないのに「安全」と説明して高く売る。そして、購入する側も安全と思い込み、喜んで高値で買う。売りたい側にとっては好都合ですが、消費者にはメリットがないでしょう。

 昨年、あるメディア関係者が木村さんのリンゴとうちのリンゴの味比べをしたのですが、うちのリンゴに軍配が上がりました。奇跡のリンゴストーリーは感動の物語です。大変良い話だと思います。でも、もはや30~40年も前の過去の話、時代劇のような過去のお話です。

松永:木村農法を学んでリンゴを無農薬で栽培しようとする人たちが、他地域では出てきているんですよね。

水木:失敗している人も多いみたいです。木村氏の園地の周囲はみんな、農薬をしっかり使ってリンゴを栽培しています。周囲が使っているから、木村氏は使わなくて済むんだよ、という見方は強い。つまり、木村氏の園地で病気や虫を培養しているんだけど、周囲で農薬を使うから、爆発的に増えない、被害が広がらない、という見方です。周辺の農園では、農薬使用量は増えているんじゃないかなあ。

松永:その話、私も聞いています。周辺の農園は大変だという話は、たしかなルートから流れてくる。もう一つ、県や大学などが木村農法のメカニズムや味の解明を研究している、という話をずいぶん前から聞く。でも、その成果が公表されない。都合の悪い研究結果は発表しない、というパブリケーションバイアスが確実にあるのだろうなあ、と思わざるを得ないです。

有機農業に、エセ科学がぴったりはまる

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日本で一番、農薬にやさしい有機農家、久松達央さん

久松:科学的には、そういうことなんだろうと思うけど、心から善意で無農薬とか有機農業を信じている人たちがいる。善意は、たちが悪い。勉強熱心で努力家の有機農家が、エセ科学にころっとやられる姿をぼくはずっと見てきたんで、やばいな、と思います。科学的背景が全然ない、裏付けがないのが80年代までの有機農業だったんだよね。
 今、出回っている農薬は、危険ではなくなってきている。だったら、「自分たちは有機的なアプローチをしている」で済ませればいいのに、有機が優れていると思いたい、という心理が人間にはあるんですよね。そこに、エセ科学がうまくはまっちゃう。

水木:Facebookに書いてみて、いろいろな人がコメントを付けてくれてやりとりする中で見えてきたのは、「農薬=ダメ。農薬=毒」という認識で、全部が見られてしまっている、ということ。だから、ぼくが「実はそうではない」と説明すると、「ああよかった」と安心する。
 一般の認識の根底、ベースに「農薬=ダメ。農薬=毒」というのが、すごく大きく流れている。不安感が、国民的共有になっている。

久松:そう。国民的共有になっちゃってる。
(遅れていた安井浩和さんが登場)あっ、前掛けがいいねえ。

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自分が好きなものしか店に置かない、日本で一番わがままな店主、安井浩和さん

安井:これをしてないと、気合いが入らなくて。配達行って、そのまま来ました。

久松:というわけで、なぜこの対談企画をやりたかったか、という話をしましょう。ぼくは有機農家、水木さんは農薬を使うリンゴ農家だけど、農業の現場では農薬の話なんて、たいした問題じゃない。それぞれ自分の目指す農業をやればいい。なのに、小売りの現場の話を聞くと、「農薬どうなの?」と客からえんえんと聞かれる、という。放射性物質についても、沈静化した今でも「どうなの?」と聞かれ、西日本産がいい、という人がいっぱいいる。リアルなこういう現象はやっぱり無視できない。だから、安井さんも入れて話してみたい、と思いました。安井さんのお店は、すごく面白いんだよね。

スーパーマーケットからこだわり商店へ

安井:ぼくの家、都電早稲田駅のすぐ近くで、ごく普通のスーパーをやってたんです。広さ30坪くらいだったけど、ピーク時は、年商7億円だった。でも、スーパーはみんな同じ売り場になっちゃう。ピッピと端末に入力すると、その商品が入ってくる。それこそ、電子レンジでチンしたら野菜ができる、くらいの勢いで、生産者が不在だったんです。

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店頭に特徴ある野菜がずらりと並ぶ「こだわり商店」

 本部が商品毎にA、B、Cと振り分けていて、このくらいの大きさの店ならA判定のものだけ置きなさい、広かったらC判定のものまで置いていいよ、と指示するんです。だから、どのスーパーも品揃えがおんなじ。
 ある時、ぼくが食べてみてすごくおいしいと思ったカップ麺があって、C判定だったけど、本当においしかったから客にどんどん勧めて売ったんです。そのカップ麺に関しては、関東で一番売れる店になった。定価でさくさく売れるんです。ところが、メーカーがC判定だからもうやめます、と終売にしてしまった。数の論理で、さくっと終わる。そうなった時、今まで買ってくれたコアな客はどうなるんだと思った。店が、客を裏切ってしまう。それは嫌だった。

 スーパーって、30坪の広さの店で約7000アイテム置くんです。新しいものが毎月200アイテム入ってくる。だから店長が食べて選ぶ、ということはできない。結局、CMを見て並べ方を決める、ということになってしまう。それに、ある程度の規模の店か、チェーンストアに入っていないと、某製パン業者の製品とか並べられない。卸してくれないんです。だから、ほとんどの小型スーパーは大手のチェーンストアの傘下に入って、みんな同じような品揃えになって行く。

 チェーンストアから毎週メールが来て、売り場造りも決められて、価格もこれくらい、棚割り表も来る。でも、売れない。だって、隣の店で同じ売り場が作られているんだから。スーパーで、卵100円で特売しますよね。あれは、うちらが150円で仕入れて売るから赤字。チェーンストア本部がそうしなさい、と言ってくる。赤字切りなさい、と言ってくる。なんなんだろうなあ、と思いました。

 ある時、野菜担当のバイヤーがミニトマトを100円で売るということで売り場に並べてたんです。それを食べてみたけど、これがおいしくない。そこにお客さんが来て「店長、このミニトマトどうなの?」と聞くんです。だから、「おいしくないよ」と答えた。あとで、バイヤーに殴られそうになりました。でもね。おいしくないものをおいしいと売ったら、客は「あの人のおいしいはこの程度」と思ってしまう。いくら100円で安くても、100円の価値がないものは売りたくない、と思った。毎日、こんなことの繰り返しだったんです。

 だから、おやじの後をいよいよちゃんと継ぐ、となった時に、思い切ってそのスーパーはやめました。全部売却しました。そして、すぐ近くの場所で5年半前に売り場15坪のお店「こだわり商店」を開きました。自分が食べていいと思ったもの以外は売らない店。肉や野菜、魚や酒、お菓子など売っています。一見自然食品系だけど、そうではない。とにかく産地直送で、でも値ごろ感があって、お客さんの胃袋をつかめるものを売る店にしたいと思っています。

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作り方、食べ方も教えている

松永:こだわり商店、行きましたよ。すごかった。たしかに自然食品店風なんだけど、全然違う。無農薬とかそういう能書きはなくて、店長の「これ、おいしいよ。食べてみて」というエネルギーが、POPや品揃えからびんびん伝わってくる。

安井:へんに加工していないものがぼくは好き。食品添加物が入って安全が保たれるものもあるんだろうけど、白菜漬けなら、塩と昆布と唐辛子で作ってあるのが好き。うちで一番売れている白菜漬けは月間500kg売れるんだけど、田舎のおばあちゃんが漬けている。そういう泥臭い商品を並べたい。

 新しい店を開く前に、自然食品店をいろいろ回ってみたんだけど、儲かっている気配がなかった。

久松:活気がないよね。

安井:野菜なんか、全部しなびているよね。儲かっているにおいがしない。この道に進んじゃいけないな、と思ったんです。だから、産直に行こうと思いました。土地に合う作り方をしたものをちゃんと売って行く。ぼくが食べてうまいと感じるものを売る、ということで信用を作って行く、安心して買ってもらえるようにする。水木さんのジュースも置いています。

情報が消費者に届いていない

久松:安井さんの店は、安井さんへの信用で成り立っている店でしょ。お客さんも安井さんを信じて買っている。その率が高いにも関わらず、農薬、放射性物質はだめと言われるんだよね。

安井:そう。農薬イコールダメという人がいる。

久松:「こだわり」好きの中に一定層、農薬や放射性物質にものすごく敏感、という人たちがいるんだよね。ぼく自身、農薬を使っていないのは農薬が悪いからではないですよ、と説明すると、そういう人たちは離れて行く。結局、農薬は悪い、と言ってほしいんだよ。

水木:年に1回くらい、原理主義者から電話から来る。農薬使っていますか? と。ちゃんと説明しますよ。日比谷公園で開かれるマルシェにも出店するんだけど、「農薬使ってる?」とやっぱり聞かれる。だから、ADIとか残留基準とか栽培の実情とか説明します。長い立ち話になりますけどね。でも、しっかりと説明すると理解してくれて、「大丈夫だね。よかった」と安心してくれる人も多い。でも、理解しない人もいる。

久松:理解しようとしない人がいるよね。

水木:そういう人とは、ぼくはがちで喧嘩しますよ。

久松、安井:(声を揃えて)いいなあ。がちで喧嘩したい。喧嘩上等だ。

久松:対面販売でないスーパーマーケットのような小売りでは、だれも情報を提供してくれなくて、安心させてくれないからね。

水木:そもそも、農薬が使われているから、この農産物を買いたいです、という人はいないから。

安井:どうせなら、使ってくれない方がいい。事情があって使うのはしょうがないけど、あなたが選んでいるから大丈夫でしょうね、という関係を、ぼくのようなお店では、客と結べるんです。勉強しない消費者は多い。そういう人は、自分の基準を持てない。だったら、ぼくを基準として、ぼくがコンシェルジュとして、野菜を見極めてあげますよ、というのが、うちの店だったらできる。大きなスーパーマーケットでは無理だろうな、と思います。

(次回、話は「農薬嫌いの消費者は増えているのか?、減っているのか? 農業のことをそもそも消費者は知っているのか?」という核心へと続く)

久松達央さん
1970年茨城県生まれ。久松農園代表。慶応大学経済学部卒業後、帝人(株)に入社。98年に退社後、農業研修を経て99年に土浦市で独立就農。年間50品目以上の旬の有機野菜を栽培し、契約消費者と都内の飲食店に直接販売している。スカイプ、SNSなどを駆使するソーシャル時代の新しい農業者として、仕掛ける農業を展開中。著書『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書 9月14日刊行)。大学、セミナーでの講演多数。2013年の久松農園のテーマは「公開、ライブ感、エロうま野菜」。久松農園
水木たけるさん
1975年、青森県弘前市のリンゴ農家に生まれ、後を継ぐ。ふじ、紅玉、ジョナゴールド等を栽培。原料の生産から、自宅に併設した加工場での加工を行い、商品企画・ラベルデザインと製作・パッケージまで一貫して全てを手がける。工業高校での経験を生かし新しい加工技術の開発・加工機械の設計も行う。ストレートジュースで、2011年お取り寄せ大賞ドリンク部門金賞受賞。ジュースのほかりんごを使ったスウィーツの商品化を行う。最近は、ほかの果物・野菜の加工へも関心を広げている。あっぷりんご園
安井浩和さん
1978 年早稲田で生まれる。3 歳から父の経営するスーパーマーケットを手伝い、18 歳から明治大学商学部に通いながらスーパーの店長を勤める。父(安井潤一郎さん)が 2005 年に衆議院議員(小泉チルドレン)になったのをきっかけにスーパー全体を預かる。スーパーの将来性に疑問を持ち2007 年、テナントを含め8 店舗すべてを閉店。10月に『こだわり商店』をオープン。産地直送・無添加・店長が食べて美味かったものだけを集めた「お客様の胃袋をつかむ店」をコンセプトに経営。こだわり商店
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