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「奇跡のリンゴ」から考える日本農業論〜農家、商店主が本音で語る食の未来 第3回

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2013年8月23日

 日本で一番、農薬にやさしい有機農家、久松達央さん、日本で一番、リンゴとリンゴジュースの味にこだわるリンゴ農家、水木たけるさん、自分が好きなものしか店に置かない、日本で一番わがままな店主、安井浩和さん。この3人を迎えての座談会3回目。安井さんのオリジナリティあふれる販売手法から、話は青森のリンゴのダメさかげんへと進む。

築地直送で喜ぶなんて、おかしい
安井:最近、おかしいな、と思うのは「築地直送」っていう言葉。八百屋ではだれも、太田市場直送なんて言わないよ。Facebookで「築地直送だからこの店はおいしい」なんて書いている人たちに、「築地は荷受け場だよ」と教えて上げたい。
 今、ぼくの店、石川県珠洲市で水揚げされた魚を扱ってるんです。これがおいしいんですよ。地元のスーパーが、水揚げされた魚をさばいてすぐに送ってくれる。

久松:たしか、その仕入れルート、自分で開拓したんだよね。

安井:はい。珠洲市のスーパーに直接、「さばいて送って欲しい。着払いでいいから」と頼みました。パッケージとか送り方とか、最初は少し問題があったけど、改善をお願いして今はまったく問題なく送ってきてくれる。それで、うちのお客さんは普通に、日本海側の魚を食べられるんです。あっちの魚はうまいですよ。お客さんに「お宅のは全然違う」と言われます。

石川県玖珠市の新鮮な地のものを、目利きのスーパーがさばいて送ってくる

 産直野菜の店は腐るほどあります。そこで商売しても、なかなか勝てない。だから、人がやらないことをやるんです。産直魚は、やっている人がいないから面白いかな、とやってみたら、その通りでした。

早稲田の商店街で、中学生が地元産品を売る

安井:もう一つ、うちの商店街の面白い話をしますね。
 うちの早稲田の商店街は、15年以上前から環境を切り口にした商店街の活性化で有名になって、修学旅行生が見学にくるんです。その流れで、うちの親父は小泉チルドレンで議員になったりしたこともあるんです。ぼくが修学旅行対応の担当になった当時、修学旅行生たちが見学や商店街のおやじさんの話を聞いたりするのを物凄くつまらなそうだったんです。それを見ていて、これじゃいけない、と思って、「じゃあ、地元産品をPR販売してもらおう」ということになった。地元のものを持ってきてもらって、うちの商店街で売る。この修学旅行地元産品PR販売に、今では年間1000人くらい来るんです。
 先日なんか、天然ヒラメ、40センチくらいあるこんなでかいヤツを、なんと500円で売った。15分で40尾全部売れました。500円は地元の仕入れ価格なんです。

 学校は、地元産品の販売といっても、どこで仕入れたらいいのか、どれくらい売れるのか、わからないことだらけ。だから、ぼくが地元の商工会・商工会議所などに電話して、道の駅などの支配人を紹介してもらって、交渉します。学校によっては、早稲田に来る前に生産者と会って、生産とは?という話を聞いて試食会まで開いて生産者とかかわってから、売りにくることもあります。

修学旅行生はポスターを作り、地元の産品の販売を宣伝。早稲田商店街には、こうしたポスターが何枚も張られる

 ぼくは、学校に「修学旅行で東京に行った時に、早稲田で地元の産品を販売しますよ、PRしますよと、地元のメディアに電話しなさい」と勧めています。そうしたら、新聞社やケーブルテレビが取材に来て、子どもたちが修学旅行から帰る頃にバンと、地元の新聞やテレビに出る。子どもたちは凱旋ですよ。

 この間は、和歌山の無農薬の甘夏がどっさり来て、子どもたちが3個入り200円で売りました。子どもたちに「これは、すごく安いんだよ。普通は600円、700円で売るもんだよ。これを作ってくれた人に会ったか?」と聞いたら、前校長が栽培していて、畑でもいで持ってきた、と言っていました。

こだわり商店ウェブサイト・早稲田の商店街修学旅行 地元産品PR販売 体験実習ツアー
山形おこしあいネット記事

青森のリンゴは、どうしてダメになってしまったのか?

久松:食に関して、そういう機能を果たせる人がなかなかいないんだよね。安井さんみたいな人が持っている客とつながりたいな。水木さんも同じだと思うけど、別に、中国の富裕層に売りたいわけではないんだよ。ちゃんとした野菜を、価値を評価してくれる人に売りたいだけ。高級野菜を金持ちに売りたい訳ではない。そう考えると、青森のリンゴは、世界有数のリンゴに適した気候の中で作られているのに、本当につながりたい人を探して価値を提供するということができていないように見えるね。

美しい岩木山の麓。絶好のリンゴ産地なのだが…

水木:弘前市のリンゴ産地は岩木山の斜面に広がっていて、世界有数のリンゴ栽培の適地です。なのに、道具、インフラの使い方を間違っている。刀でゴルフをしているようなものなっている。研究体制はしっかり、出荷体制はしっかり、インフラしっかり。なのに、顧客離れするようなリンゴを作っている。安井さんみたいな、いいものを客に届ける人を目がけてリンゴ作りしなきゃいけないのに、だれも興味がない、客離れするリンゴを作っています。

松永:客離れするリンゴってどんなもの?

水木:青森の生産者にとっては、保存性とか、通年で量をコンスタントに出すというのが重要です。リンゴを通年売ることを考えている。でも、旬のおいしいリンゴは、通年は持たないんです。そこを通年持つようにするにはどうするか? 最初から、味を作り込まない。徹底的にまずく作る。葉を思いっきり取っちゃう。味がのる時期に葉をとって日に当てる。保存性を上げるには酸味が必要なんです。酸味を強くして、熟さない、なおかつ赤いリンゴにします。それを、酸素を抜いた中で冷蔵すると、5〜7月まで持って、出荷できます。

 だけど、それを食べた人はなんじゃこら、となる。ジョナゴールドをこうやって出すと、柔らかくてぱさぱさ、いものようなリンゴです。ジョナゴールドは、うまく作って旬の時期にピンポイントで食べると、びっくりするくらいおいしい。それを食べてほしい、と思うんだけど、今、ジョナゴールドといったとたんに消費者からは「いらない。ふじはないの?」と言われます。
 青森のリンゴは、そうやって通年売ることで、今の生産量が回っている。それを否定することは難しいけど、青森県の戦略として回してしまっている。困ったもんだよね。

一家で作業。適期の摘果や葉とり、収穫など、リンゴ農家は忙しい

 もう一つ、うちの農園は「葉とらずリンゴ」はやりません。リンゴは、しっかりと養分を溜め込む時期と、養分を糖分に変化させる時期があって、葉とり作業は養分を糖分に変化させるきっかけとなる大事な作業です。適切な時期に葉とりをすることで、日光が果実にまんべんなくあたり、全体がさらに甘みを増します。葉とらずは、省力化、コストダウンの手法で、食味を向上させる技術ではないんです。

 でも、「おいしくなる」と錯覚させるリンゴ農家がいる。そうしたことが、客の不満足を産みます。その結果、自分たちの生産の厳しさを再生産してしまう。ぼくは、それをぶった切りたい、顧客満足を主題にして考えたい。そこから、システム構築したい。弘前のリンゴ農家はもう持たないところまで来ている。高齢化や後継者消失で、今後どうするかは地域的な課題です。いろいろ言われているけれど、ぼくは、「ノーと言われたら存続できなくなる。残りたければお客様に選ばれる努力すればいいだけ」と言っています。

TPPに反対しても、売れないものは売れない

久松:リンゴが行き渡ることが売れる、大事という時代があって、通年供給システムもできた。そのための態勢を作ってしまった。小売りも、間違った勉強をして協力してしまった。でも、ものの売れなくなった時代に、もうそれは通用しない。本当にだめな希有な例かもしれないね。

水木:でも、農産物全般が同じ問題を抱えていると思う。昔の成功モデルを引き継いで困っている。客の「要らない」というのを突きつけられている。それをこねくり回しても、もうダメ。なのに、「生き延びさせてください。TPP反対」でしょう。反対しても、売れないものは売れないよ。

久松:業界は気付いているんだと思うよ。農業は、イベント出してどーんとやろうとするばかり。茨城県ブランドを押し上げる、なんて事業にお金が使われている。だれが、茨城ブランド買うか? そんな大づくりのイメージではなくて、もっと実体のあるフックが必要だよ。当事者は、それがダメなことに薄々気付いている。

水木:でも、それで回っちゃっている。走るしかない。やっぱり、どう撤退させて行くか、という戦略がいります。
 ぼくは生産者だけど、日本に農業は要るのだろうか、と考えます。普通の製造業と同じように、日本でやる意味を考えないと。安井さんのように、お客様が求めるものをちゃんと作り提案して選択されることで再生産が可能になる。そういうことを自分たちでやれるところは生き残る。それをできなくて、物量で商売する昔のようなやり方のところは、需要が落ちているんだから、撤退するしかない。

 経済はもう、日本国内だけでは回らない。アジアも含めて考えないと。米とかはタイなどのほうが有利でしょう。いつまでも日本とか茨城とか言っていても仕方がない。オールジャパンで、「日本の農業はこれ」という海外向けブランディングをしないとね。国内向けや海外向けにそれができるものは生き残る。できないものは、海外での生産と輸入に切り替えて行く。そんな感じですね。

赤い紅玉青い王林。このほかふじ、ジョナゴールド、津軽も栽培。生産者から見れば旧世代に属するこれらの品種の本当の美味しさ、素晴らしさはあまり知られていない

 今までのやり方を延々と続けてダメになるより、ぶった切った方がいいよ。違うやり方をしないと、全損になってしまう。客に向けたサービスをちゃんとやる人がこれからは伸びないとね。

松永:青森県のリンゴは、昔から海外に出すのに積極的と世間から見られていますが。

水木:それ、普通でしょう。リンゴって世界的な流通商材なんです。今は、そこに弱小国である日本が首突っ込んでいる、という状態。やるならもっと徹底しないと。

久松:それって、コモディティとしての市場に参戦するってこと?

水木:世界水準のコモディティの品質はひどいです。国内では通常、出荷基準の3等級から下のものを加工用に回すけど、世界水準のコモディティは6等級くらい。ぼくから見ると、これ食うの? というレベルです。だから、国内の1等級をコモディティに引っ張って行くと、かなりのシェアがとれるはず。日本でやるからには高品質、高付加価値を応用して、コモディティにすればいい。

久松:それが一番金になるよね。コストコとか、こんなにまずいものがあるのか、というような商品を売っている。

水木:世界のコモディティは、本当にまずいよ。でも、あれが普通。それを世界の人たちが疑問なしで、買っている。今のところ、日本のものと比較してこれだけ違うよ、と見せる機会がないでしょう。われわれも、わかってもらう努力をしていない。やり方次第で、コストをぐっと下げて、コモディティでびっくりするような差を作れる。だから、やればいいと思うよ。それが、われわれが生き残って行くコアの部分だと思う。それがなかったら、韓国とかで作った方が、安くていい。日本でやる理由はまったくない。それがやれないと、誇りを持てないし、継ぎたいとも思わないでしょう。

久松:話を元に戻すと、付加価値を付けるためのツールの一つとして有機、奇跡のリンゴがあってもいい。でも、万人に受ける大きなイノベーションとしての有機、という考え方は、何周も遅れているとしか思えない。

松永:有機農家が「うちにはハダニは1匹もいません」と言うけれど、専門家がみるとウヨウヨいる、みたいな話も聞いたことがあります。つまり、そういう人のところには害虫がいないのではなくて、彼には見えていない、ということ。

久松:人は、見たいものを見るからね。そこは、ぼくも含めて無農薬の人に共通する問題点かもしれない。有機農業は、水木さんが言ったように、周辺へのリスクになりうる、ということも知っておかなきゃいけない。通常は、病虫害を広げるほどの力はないけど、たとえばトマトに黄化葉巻病※が出て、家庭菜園のプランターまで薬剤を使って防除しなければいけないような封じ込め作戦をとる時に、一人だけ「うちは有機」と言っていてもヤバいよね。

※:トマト黄化葉巻病は、トマト黄化葉巻ウイルス(TYLCV)により広がる病気で日本では1998年に発生が確認された。シルバーリーフコナジラミ(タバココナジラミバイオタイプB)とタバココナジラミバイオタイプQが、ウイルスを媒介する。ウイルスに感染して発病した株は治らず、大きな被害を受け、なおかつ被害が広く拡大して行く恐れがある。そのため、伝染を見つけた場合は、苗をすぐに抜き取って土中に埋めるかビニール袋に密閉して処分する必要がある。コナジラミ類が広がらないように、薬剤などによる徹底防除も求められている。

久松:有機農業は、いろいろな生き物がいてバランスをとる中で栽培するやり方だけど、そんな定性的な理屈だけでは抑えられない時もあって、地域の実情に合わせて対処しなくてはいけない。そんな時に、「見えてない」というのは、決定的に弱い。有機農家は、どちらにしても農薬を振らないから、虫とか病気とか勉強しない人が多いのは事実なんですよ。自然はそうやわじゃないから、いきなり有機農家から病虫害が広がる、ということはそうはないにしても、工場の衛生管理に比べれば、農業現場はずさんだから。有機農家が、その人のセルフストーリーの中で生きていることを否定される筋合いはないけど、でも、地域全体の中ではどうかということは、冷静に議論しないといけない。

水木:その問題プラスで、消費側の意識に与えるインパクトは、やっぱり大きすぎる。

久松:大きい。侮れない。それに、栽培を知らない人が新規就農して有機にのめり込みやすいんだ。技術的な健全性が担保されないへたくそが、騙される。

松永:うーん、でも、騙される自由もあるしね。周辺に大きな影響を及ぼしたらまずいけれど、木村さんに憧れて脱サラして、失敗して、そういうリンゴを欲しいという消費者もいて、というのも、ある意味、健全では。

水木:判断する情報を持っている時にはその議論が通用する。自分なりに選択できたらいいんだけど、情報もなくお祭りだから踊るって人も多いし。
 これまでのダイエットブームや海外の健康食品、石けんでアレルギー症状が出た「茶のしずく」問題…。得体の知れない、安全と確認されていないものを「自然だから」と無思慮に手を出すのは危険でしょ。そこは、同じ図式だと思うけど。
(次回、最終回は、なにをやって生き残るのかについて、4人が語る)

久松達央さん
1970年茨城県生まれ。久松農園代表。慶応大学経済学部卒業後、帝人(株)に入社。98年に退社後、農業研修を経て99年に土浦市で独立就農。年間50品目以上の旬の有機野菜を栽培し、契約消費者と都内の飲食店に直接販売している。スカイプ、SNSなどを駆使するソーシャル時代の新しい農業者として、仕掛ける農業を展開中。著書『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書 9月14日刊行)。大学、セミナーでの講演多数。2013年の久松農園のテーマは「公開、ライブ感、エロうま野菜」。久松農園
水木たけるさん
1975年、青森県弘前市のリンゴ農家に生まれ、後を継ぐ。ふじ、紅玉、ジョナゴールド等を栽培。原料の生産から、自宅に併設した加工場での加工を行い、商品企画・ラベルデザインと製作・パッケージまで一貫して全てを手がける。工業高校での経験を生かし新しい加工技術の開発・加工機械の設計も行う。ストレートジュースで、2011年お取り寄せ大賞ドリンク部門金賞受賞。ジュースのほかりんごを使ったスウィーツの商品化を行う。最近は、ほかの果物・野菜の加工へも関心を広げている。あっぷりんご園
安井浩和さん
1978 年早稲田で生まれる。3 歳から父の経営するスーパーマーケットを手伝い、18 歳から明治大学商学部に通いながらスーパーの店長を勤める。父(安井潤一郎さん)が 2005 年に衆議院議員(小泉チルドレン)になったのをきっかけにスーパー全体を預かる。スーパーの将来性に疑問を持ち2007 年、テナントを含め8 店舗すべてを閉店。10月に『こだわり商店』をオープン。産地直送・無添加・店長が食べて美味かったものだけを集めた「お客様の胃袋をつかむ店」をコンセプトに経営。こだわり商店
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