科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

部分的つまみ食い引用にご用心~USDA/ERS報告書

宗谷 敏

キーワード:

 2014年2月24日、USDA(米国農務省)/ERS(経済研究局)から、「Genetically Engineered Crops in the United States(米国における遺伝子組換え作物)」と題された報告書が刊行された。今回は、この要約を読んでみる。

なにが問題ですか?

 GE主要作物は、1996年から商業栽培され、15年以上を経て米国農民が広範に採用しており、米国消費者も-コーンミール、植物油と砂糖を含む-GE農作物から得られた多くの食品を食べています--多くは、これらの食品がGE農作物から得られたことに気付かずに--。トウモロコシ、ダイズ、ワタのGE品種の米国農民による採用の急速な増加にもかかわらず、経済性と環境影響、耐性雑草の発生と消費者受容に関する疑問が継続します。

研究によりなにが分かりましたか?

 本報告書は農業バイオテクノロジーについて主要な利害関係者:GE種子サプライヤーと技術プロバイダー(バイオテク企業)、農民および消費者の三者に関係する問題を調べます。

<GE種子サプライヤー/技術プロバイダー>
 USDA/APHIS(動植物検疫局)によって承認されるGE品種の野外試験栽培の数は、農業バイオテクノロジーの研究開発(R&D)活動の重要な尺度です。野外試験栽培数は、1985年の4件から2002年の1,194件まで増加し、その後は年平均800件前後で推移しました。しかしながら、2002年にピークに達した後、DNA構築体の研究開発活動に基づく異なる尺度—試験栽培圃場の数とDNA構築体数(有益な遺伝子を他の要素と一緒にパッケージする方法)—が、2005年以来急増しました。同じく、(干ばつ抵抗性のような)農耕学的な特性を持つGE品種の野外試験栽培が2005年の1,043件から2013年は5,190件にまで跳ね上がりました。

 2013年9月時点で、GEトウモロコシ約7,800件、GEダイズ2,200件以上、GEワタ1,100件以上、GEジャガイモ約900件が承認されました。トレイト(形質)別には除草剤耐性(6,772件)、害虫抵抗性(4,809件)、食味や栄養のような品質改善(4,896件)、干ばつ抵抗性のような農耕学的特性(5,190件)とウイルス/菌抵抗性(2,616件)が承認されました。もっとも多くの承認を得た組織は、Monsanto社6,782件、Pioneer/DuPont社1,405件、Syngenta社565件と、USDA’s Agricultural Research Service(農業研究局)の370件です。2013年9月時点で、APHIS は(GE種子の商業販売を可能とする)規制緩和のために145件の請願を受け、それらのうち96件を承認しました:内訳はトウモロコシ30件、ワタ15件、トマト11件、ダイズ12件、ナタネ/カノーラ8件、ジャガイモ5件、サトウダイコン3件、パパイヤ、コメおよびスカッシュ各2件、アルファルファ、プラム、バラ、タバコ、アマニおよびチコリ各1件です。

<農民>
 3つの作物(トウモロコシ、ワタおよびダイズ)がGE栽培面積の大部分を占めます。2013年に、米国農民がこれらのGE農作物を約1億6900万エーカーもしくは全耕作地のおよそ半分に栽培しました。除草剤耐性(HT)農作物が、グリホサートのようにより効果的な除草剤への耐性を示し、採用者が蔓延している雑草をより効率的にコントロールするのを助ける形質を持っています。2013年に、米国農民がダイズ全栽培面積の93%に HTダイズを用いました。

 2013年に、HTトウモロコシがトウモロコシ全栽培面積の85%を占め、HTワタがワタ全栽培面積の82%を占めました。2013年に、農民がtobacco budworm(ニセアメリカタバコガ)、cotton bollworm(アメリカタバコガ)、pink bollworm(ワタアカミムシガ)のような害虫をコントロールするために、ワタ全栽培面積の75%に害虫抵抗性(Bt)ワタを栽培しました。2013年に、Btトウモロコシ-European corn borer(アワノメイガ)、corn rootworm(ネクイハムシ)とcorn earworm(アメリカタバコガ)をコントロールする-が、トウモロコシ全栽培面積の76%に栽培されました。

 Bt 農作物の採用は、害虫からの収量損失を軽減することによって、収量を増やします。しかしながら、収量に対する HT 農作物の効果に関する実証的証拠は入り混じったものです。概して、スタック(掛け合わせ)種子(1つ以上のGE形質を持つ種子)が、従来の非GE種子や1つだけの形質を持つ種子より、高い収量を持つ傾向があります。スタックされた形質を持つGEトウモロコシは、2000年のトウモロコシ栽培面積の1%から2013年には71%にまで拡大しました。2013年に、スタック種子の品種が同じくワタ栽培面積の67%を占めました。

 Btコットンと Btトウモロコシ種子を植えることは、害虫のプレッシャーが高いときにより高い純収益に関係付けられます。HT 採用が純収益に影響を与えるかどうかについては入り混じっており、主に雑草管理コストがどれほど削減されたかによるのですが、種子コストは増えます。HTダイズの採用は、世帯収入全体の増加と関係付けられます。なぜならHTダイズは(農場)管理の必要性を減らし、非営農活動あるいは事業を拡大することによって農民が収入を得ることを可能にするからです。

 農民が BtトウモロコシとBtワタを植えるとき、一般的に殺虫剤使用が減ります。GE種子採用者と非採用者の両方で、トウモロコシ殺虫剤の使用が減少しました-2010年には、米国トウモロコシ全農民のたった9%しか殺虫剤を使いませんでした。トウモロコシ農場における殺虫剤使用量が、1995年の1エーカー当たり0.21ポンドから2010年には0.02ポンドにまで下落しました。これは、 Bt(種子)採用の直接的結果であることが示されているここ10年にわたるアワノメイガ個体数の着実な下落と一致します。最小保護区の必要条件(Bt 農作物の近くに十分な面積の非Bt農作物を植える)の設定は、 Bt抵抗性の進展を遅らせるのを助けました。しかしながら、一部の地域において特定のBtトレイトに対する抵抗性を害虫が発展させている若干の兆候があります。

 HT農作物の採用は、もっと有毒で残留性の高い除草剤に代えて、農民がグリホサートを用いることができるようにしました。しかしながら、グリホサートへの過度の依存と作物生産者によって採用されてきた雑草管理実践方法の多様性の縮小が、米国で14の雑草の種と生物型でグリホサート抵抗性を発展させる原因となりました。雑草をコントロールするBMPs(最適実践方法)が、抵抗の進展を先延ばしして、HT農作物の有効性を維持するのに役立つかもしれません。BMPsは、作用機序が異なる多様な除草剤を適用し、農作物を輪作し、雑草のタネが混じらない種子を植え、定期的に圃場を偵察し、他の圃場への雑草の伝播を減らすために農場機器をクリーニングし、圃場毎の境界を維持することを含みます。

 GEダイズとトウモロコシ種子価格は、2001年から2010年にかけて実質ベースで(インフレのために調整された)約50%値上がりしました。GEワタの種子価格は、さらに速く値上がりしました。新しい Btトレイトが組み込まれ、そしてスタックトレイトが利用可能になって、従来の種子に対する BtトウモロコシとBtワタの収量アドバンテージが近年ではより大きくなりました。BtワタとBtトウモロコシを栽培することは、従来の種子を植えるより、純利益で判断すればより有益であり続けます。

<消費者>
 GE成分を含む食品への消費者受容は、製品、地理および消費者に紹介される情報で変化します。先進工業国におけるほとんどの研究が、消費者がGE成分を含まない食品に対してプレミアムを支払うのをいとわないことを見いだします。しかしながら、発展途上国における研究は、より入り混じった結果を生じます。一部の研究が、(栄養のような)肯定的な増進を持っているGE成分に重点を置いた若干の人々を含めて、GE食品を試みることと、それらに対してプレミアムを支払うことさえいとわない消費者を見いだします。一方、他の研究は非GE食品に対してプレミアムを支払う積極的意志を見いだします。ほとんどの研究が、非GE食品に対する支払いの積極的意志がEUにおいてより高いことを示し、そこでは一部の小売り業者が、政策的にGE成分の使用を制限しています。非GE食品は、米国においても入手可能ですが、このような食品が食品小売市場では小さなシェアしか持たないことが証明されています。

<研究はどのように行なわれましたか?>

 この報告は「The First Decade of Genetically Engineered Crops in the United States(米国における遺伝子組換え農作物の最初の10年)」というタイトルのERS報告書をアップデートします。バイオテクノロジー種子企業を考慮に入れるために文献からの情報を用い、新しいGE品種のAPHISによる野外試験栽培承認についてのUSDAデータを分析しました。農民のGE農作物の使用状況を調査するために、USDAの農場調査結果、特に農業資源管理調査(ARMS)を解析し、文献を要約しました。消費者の見解を理解するために、文献から消費者の態度に関する調査を要約しました。(訳文終わり)

 遺伝子組換え農作物に関心があり、かつ偏向した情報を排除する知見を持つ方たちにとって、この報告書に述べられている内容のほとんどは、詳細なデータを別として、既知のものだろう。

 重要なことは、USDA(/ERS)が公式見解として等身大の米国における現状を、経済的視点から過不足なく、しかも極めてクールに述べた、という点に尽きる。今後、推進・反対両派により、前後の脈絡を無視した部分的なフレームアップが「USDAもこう述べている」という形でなされるかもしれない。しかし、それらはUSDAの意図とはかけ離れたものだということをキチンと理解しておく必要がある。

(参考)
1) Reuters紙による本件報道
2) Grist誌に掲載されたNathanael Johnson氏によるたいへん興味深いコメンタリー
3) Foocomが掲載した日本の試験栽培の状況に関する白井洋一氏のコラム

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい