科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

米国上院は遺伝子組換え食品表示義務化で合意に到達したが…

宗谷 敏

キーワード:

 2016年6月23日、米国連邦議会上院の農業・栄養・林業委員会(Agriculture, Nutrition and Forestry)は、全国的にGM(遺伝子組換え)食品表示を義務化する法案を発表した(Mandatory Labeling Bill)。この法案は各州などによるGM義務表示を禁止しているため、成立した場合には7月1日に発効するバーモント州のGM義務表示法Act 120は無効となる。

<背景説明>

 上院では、3月16日に任意のGM表示法案S.2609のファストトラック(関係法案の無修正一括承認手続き)に失敗した後、起案(2月19日)者の農業・栄養・林業委員会委員長のPat Roberts上院議員(共和党、カンザス州選出)と同委員会民主党トップのDebbie Stabenow上院議員(ミシガン州選出)による妥協案を模索する動きが延々続いてきた。

 7月1日にバーモント州GM義務表示法発効を控え、コネチカット州、メイン州もトリガー条項付きのGM義務表示法を既に成立させており、他州にも同様な法案を検討する動きが波及しており、しかもそれらの法案が細部で異なるパッチワークであるため、食品業界には焦りが広がった。

 ナショナルブランドを抱える大手食品企業の中には、単一州のためにGM表示を実施するのは現実的ではないとして全国ベースのGM表示を実施するとの発表が相次ぐ。1月7日のCampbell Soup社を嚆矢として、3月18日にはGeneral Mills社が動き、Mars社、Kellogg社、ConAgra社、Dannon社などが続々フォローした。

 しかし、食品・農業セクターからは、連邦政府による決定的な解決を望む声も強く、漸く農業・栄養・林業委員会委員が共和・民主両党の妥協案に合意した、というのがこのストーリーである。

 General Mills社など、既に自社一部製品へのGM食品表示実施を表明している企業が連邦議会の法案を受けて今後どう動くかも興味深いが、いったん文言表示すると声明したものを、バーコードなどに後退させるのは難しいかもしれない。

<今後の展開>

 本法案は、週明けに上院の全体投票に付されるが、今回は成立に必要な賛成60票を獲得するのが確実視されているようだ。下院は7月5日まで休会なので、7月6日以後に上院案に対する投票が行われる見込みだ。

 下院では、2015年7月23日にGM食品表示を任意制度に留める法案H.R. 1599が既に成立している。下院の農業委員会は、GM表示義務化に対し強硬に反対してきた経緯がある。上院の義務化法案に下院がどう応じるかは注目されるが、両院でなんらかの根回しはあったと考えるのは普通だろう。両院通過後法案は、Obama大統領の署名に回される。

 尚、上述した通りバーモント州のGM食品義務表示法は7月1日に発効するので、連邦議会の動きはこれには間に合わなかった。しかし、食品企業がバーモント法に従うためには1年の猶予期間が設けられているため、この間に連邦議会で法案が成立すれば、バーモント州法は徒花となる。

<上院妥協法案の概要>

 1946年のAgricultural Marketing Act(農業市場法)を改訂し、USDA(米国農務省)長官にbioengineered食品の国家公表基準を2年以内に確立させる。州など下位機関によるGM食品表示義務化は、これを禁じる。
 GM食品表示を全国的に義務化するが、食品メーカーには次の3つのオプションを認める。
(1)パッケージに「contains genetically modified organisms」という文言を印刷する。
(2)( USDAによる)GM食品シンボルマークをつける。
(3)スマートフォンによるQR あるいはバーコードなど電子オプションを使う。この方法が効果的かどうかをUSDAが1年間で検証する。

 小規模食品メーカーは、開示要件をウェブサイトあるいは電話番号を示すこと満たすことができる、さらにレストランと極小食品メーカーは表示を免除される。

 食肉、鶏肉と卵はUSDAが(先行他法令により)規制し、主成分である場合は表示を免除される(複合原料として使われた製品は表示対象となる場合もある)。

 USDA長官は、GM飼料で飼育されたというだけの理由で食肉にGM表示することを禁じる。

 USDA認証オーガニック食品は「not bioengineered」、「non-GMO」という表示を付け加えることができる。

 以下は、法案自体には直接の言及がないが、コーンフレークと食用調理油も表示対象となる、遺伝子編集のような新技術は、この法案の対象外とする、と各メディアが解釈している。

<これは、なんちゃって義務表示か?>

 GMA:Grocery Manufacturers Association(食料品製造業者協会)などの食品業界や、ASA:American Soybean Association(アメリカ大豆協会)などの農業セクターは、この上院案をこぞって歓迎している。

 それは、大部分の食品企業がおそらく選択するであろう(3)スマートフォンによるQRあるいはバーコードなど電子オプションでは、(1)の文言印刷や(2)のシンボルマーク添付に対して、GM原材料の存在を一応ステルス化できるからだ。いわばユル~い表示義務化なのだ。

 この、「SmartLabel initiative」は、2015年12月にGMAが提案し、USDAのTom Vilsak長官が強く支持してきた。米国としてはGM表示義務化に当たっての落としどころなのだ。このオプションは、GM表示推進派から当然目の仇にされるだろうから、USDAが1年後に効果を査定するという懐柔策を但し書きしている。

 今後氾濫するかもしれない「米国ですらGM食品表示を義務化した!」という極く表面的なフレーズを盲信してはいけない。実態はもっと複雑なのである。

<参考記事>
6月23日 AP「Senators reach deal on GMO labeling」
6月23日 VOA「US Senate Reaches Deal on GMO Labels」
6月23日 USA TODAY「Senate lawmakers reach deal on labeling foods containing GMOs」
6月24日 Bloomberg「Senate GMO Labeling Deal Would Ban State Requirements」

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい