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執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

アレルギー表示、消費者庁と政府広報オンラインで説明異なり、大混乱

森田 満樹

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 FOOCOM.NETで10月2日に掲載した「食品表示考・食品表示法施行から半年(1)」の記事中で、「アレルギー表示の一括表示は柔軟な対応を」と私見をまとめました。この考えについて、消費者庁の担当者から「あなたの解釈はおかしいのではないか」と注意を受けました。その方によれば、アレルゲンの一括表示が可能な場合は、消費者庁がQ&Aに示した4例に限り、それ以外は認めないということです。

 一方、記事を読んだ事業者の方からは、消費者庁とは異なる指摘を頂きました。「政府広報オンラインの説明では、『一つの食品として調理・加工されていて、部分だけを切り分けることが難しい場合は一括表示ができる』とあり、パンや菓子などは一括表示ができるはずだ」と言います。消費者庁と政府広報オンラインの説明が異なり、業界は混乱しています。それぞれの内容について、見ていきましょう。

 まずは消費者庁の説明です。アレルギー表示にはこれまで個別表示と一括表示の2方式がありましたが、新基準では個別表示が原則で、一括表示は例外となります。消費者庁は一括表示が可能な場合として食品表示基準Q&A(2015年3月30日消食表第140号)の別添「アレルゲンを含む食品に関する表示」の31pE-6に考え方を示し、「個別表示により難い場合や個別表示がなじまない場合」として4つの例を示しています。下記に転載しますが、消費者庁の担当者によれば、一括表示ができるのはこの4例に限定するとしか読めない、ということです。

以下転載**********************************************************
(E-6)原則、個別表示ということですが、一括表示をすることは可能ですか。
(答)食品表示基準第3条第2項の表の別表第14に掲げる食品(以下「特定原材料」という。)を原材料とする加工食品(当該加工食品を原材料とするものを含み、抗原性が認められないものを除く。)及び特定原材料に由来する添加物(抗原性が認められないもの及び香料を除く。以下同じ。)を含む食品の項の1において、「原則、原材料名の直後に括弧を付して表示する。」と規定されています。これは、重篤な症状を持っている食物アレルギー患者は選択できる食品が限られており、その中から喫食可能な食品を選択する際に確実に情報が得られるという患者からの要望があり、アナフィラキシーショックにより命に関わることもあるという食物アレルギーの病態を考慮し、個別表示を原則としました。
ただし、これまで個別表示をするか、一括表示をするかは、事業者の判断で選択されており、一括表示についても相当程度普及していること、また、一覧性があるなどのメリットを踏まえ、個別表示により難い場合や個別表示がなじまない場合などは、一括表示も可能なこととしますが、その場合にあっても、食物アレルギーの病態を理解し、どのような表示が患者にとってふさわしいか考慮した上で表示するようにしてください。なお、個別表示により難い場合や個別表示がなじまない場合などの例示を以下に示します。
・ 個別表示よりも一括表示の方が文字数を減らせる場合であって、表示面積に限りがあり、一括表示でないと表示が困難な場合
・ 食品の原材料に使用されている添加物に特定原材料等が含まれているが、最終食品においてはキャリーオーバーに該当し、当該添加物が表示されない場合
・ 同一の容器包装内に容器包装されていない食品を複数詰め合わせる場合であって、容器包装内で特定原材料等が含まれる食品と含まれていない食品が接触する可能性が高い場合
・ 弁当など裏面に表示がしてあると、表示を確認するのが困難であるとの食物アレルギー患者からの意見を踏まえ、裏面に表示があるために表示を確認することが困難な食品について、表面に表示するため(ラベルを小さくするため)に表示量を減らしたい場合
*********************************************************以上転載終わり

 一方、政府広報オンラインの説明は全く異なります。このサイトは内閣府官房政府広報室が運営するもので、「暮らしのお役立ち情報」として5月29日、「新しい食品表示のルールが始まります」と食品表示法を紹介したものです。

2015年5月29日公表 政府広報オンラインより

2015年5月29日公表 政府広報オンラインより

 ここでは、洋菓子の新表示例を出して「例えばチョコレートケーキなどのように、一つの食品として調理・加工されていて部分だけを切り分けることが難しい場合は、複数の原材料を使っていても、そこに含まれるアレルゲンをまとめて表示(一括表記)することができます。」としています。

 この説明は、消費者庁の4つの事例には当てはまりませんが、Q&Aの公表から2か月がたっており、Q&Aを踏まえたうえでわかりやすく紹介したものと読む側は解釈するでしょう。また、その内容は消費者委員会における審議結果も反映しています。個別表示が原則になったのは、アレルギー患者団体から「お弁当のおかずのように部分に切り分けられるものは、個別表示の方が選択できる」という要望を受けたもの。最初から混ざっていて切り分けられないものは一括表示でもよいとされてきました。

 この記事の最後には<取材協力:消費者庁 文責:政府広報オンライン>とあります。政府広報室に聞いたところ、文責は政府広報オンラインとあるものの、内容は消費者庁が確認しているということでした。そうであれば担当者によって説明が異なるのか、それともこの時から解釈が変わったのでしょうか。

 ところで、前稿でパンの新表示を紹介しましたが、一括表示をすることによって個別表示よりも文字数が多くなっていました。消費者庁の説明ではQ&Aの4例に当てはまらないため、何らかの措置が必要となってしまいますが、政府広報オンラインで解釈ですれば問題がないことになります。

 この違いをどう考えればいいのか、消費者庁の担当に確認したところ「新表示基準の解釈は、消費者庁の食品表示基準に関する施行通知が全ての拠り所になる」という答えでした。政府広報オンラインの情報が間違っていることになります。

 アレルギー表示は、食品表示項目の中でも安全性に関わる最も重要なものです。その表示方法において国による説明が異なるような状況が続くことは、業界の混乱を招き、新表示への移行が遅れ、監視執行の現場にも影響を与えます。早急な対応が求められますが、その際に忘れて頂きたくないのが消費者へのメリットです。パンや菓子などの場合、お客様である子どもたちに確実にわかりやすくアレルギー情報を伝えるための一括表示は、消費者のためでもあります。本来の食品表示の目的に戻って、再考してもらいたいと思います。(森田満樹)

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。