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消費者庁の食品表示法(下) 「安全性確保を最優先」はどこへ

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2013年3月18日

 消費者庁が明らかにした「食品表示法(仮称・検討中)の骨格」について先週(上)に掲載し、酒類の表示と不適正表示への行政措置が、公に検討されないまま盛り込まれたことをお伝えした。続く(下)では、適格消費者団体の差止請求権とともに、新法の目的、基本理念について取り上げる。

●適格消費者団体による差止請求権とは

 骨格ペーパー(下図・再掲)の右上欄「内閣総理大臣等に対する申出等」中に、「適格消費者団体による差止請求権の規定を設けることを検討中(特定商取引法、景品表示法を参考に)」とある。これも、今回初めて明らかにされた一文である。

 

「食品表示法案(仮称・検討中)の骨格」(平成25年2月消費者庁)

 適格消費者団体による差止請求権とは、2007年に消費者団体訴訟制度がスタートした際に消費者契約法の中で規定されたものだ。くらしの中で強引な勧誘や不当な契約などによって被害が起きた際に、1人ひとりの消費者にかわって、一定の消費者団体が事業者に対して不当な行為の差止を請求できるという制度である。消費者団体といっても適格消費者団体だけが請求できるもので、現在は消費者機構日本など全国11団体が認定されている。

 翌2008年には、消費者契約法だけでなく景品表示法や特定商取引法にまで、対象が拡大された。これによって、景品表示法での優良誤認や有利誤認といった誤った内容の表示についても、差止請求権が行使できるようになった。

 制度が導入されて、これまで差止請求訴訟に至ったケースはこの数年間で十数件だ。消費者トラブルが発生している専門学校、不動産会社、通信会社、旅行会社などのサービス分野で契約内容に関するものがほとんどである。一方、裁判に至らないまでも改善を申し入れた段階で和解となったり、業務改善が行われるケースも多い。このように行政処分とは別の民事ルールとして、消費者被害を防ぐ一つの仕組みとなっている。

 消費者庁が、新しい食品表示法にこの仕組みを入れようと考えるのは、もっともらしいことのようにみえる。現状では悪質な事業者が故意に偽装表示をするケースは後を絶たず、これが民間の消費者パワーによって、偽装表示に歯止めがかけられるようになれば素晴らしい。消費者に食品表示の関心を持ってもらうことにもつながる。一見いいことづくめのように思えるが、実際に導入されても使えるのかどうかが問題だ。

●食品表示法に差止請求権が使えるか
 新法が食品表示基準として定めるのは、名称、保存方法、期限表示、原材料、添加物、栄養成分、原産地、その他の表示等である。新法に、適格消費者団体による差止請求権の条文が入れば、これらの表示が虚偽である場合に、その表示を止めさせ、業務改善を求めることができるようになる。

 しかし、適格消費者団体に食品表示の被害情報が集まるだろうか。差止請求権の第一歩は、消費者による被害情報の収集である。しかし、一般の消費者は食品表示について不審に思えば、まずは製造者や小売店のフリーダイヤルに連絡をする。さらに安全にかんすることなら保健所、品質にかんすることなら食品表示110番など地域の農政局がある。食品表示110番には年間2万件程度の相談が寄せられている。国民生活センターや消費生活センターの窓口もある。様々な行政機関、事業者など、専門家による相談窓口が何重にもわたって整備されている。

 さらに、差止請求をするためには、適格消費者団体が偽装であることを立証しなければならない。現状では内部告発が食品表示110番に寄せられれば、すぐに食品Gメンが立ち
入り調査を行う。さらに偽装を証明するために、検査機器なども用いられる。こうした行政力に並行して、どうやって適格消費者団体が民事力を発揮できるのだろうか。

 つまるところ食品表示は、これまで適格消費者団体が取り組んできたサービス分野とは、異なる分野である。一番参考になるのは、同じく表示の法律として差止請求権が先行導入された景品表示法での実績だ。これが調べてみると、ほとんど取り組まれていない。

 適格消費者団体の特定非営利法人消費者機構日本に聞いてみたところ、不適正な表示について是正申し入れの実績は数件あるが(食品ではない)、景品表示法について差止請求権を用いた事例は無いということだった。現在の適格消費者団体の活動は、食品や表示に対応する体制にはなっていないという。適格消費者団体が新法でその権限を行使するためには、行政分野の連携などもあわせて検討しないと実行性は伴わないだろう。

 適格消費者団体に期待されるのは、食品よりもむしろ、悪質な健康食品による被害の防止だ。そうであれば、健康増進法に差止請求権を導入することも含めての検討が必要だった。なぜ、公に検討しないままこの時点で導入を決めたのかはわからないが、食品表示法に「消費者庁らしさ」を打ち出したかった、というところであろうか。

●基本理念として「消費者の権利と自立の支援」「小規模事業者の配慮」が加わった
 「消費者庁らしさ」が強調されたのは、新法の目的のあとに「基本理念」が入ることになったことからも見てとれる。消費者庁がこれまで説明資料としてきた「食品表示一元化後の法体系(イメージ)(2012年11月公表)」では、法体系の中に基本理念は含まれていなかった。それが、骨格ペーパーの左上欄に、新しく盛り込まれている。

 基本理念は「消費者の権利の尊重と消費者の自立の支援」と「小規模事業者の配慮」の2つである。前者は、これまでの検討会や意見交換会で、新法に「消費者の権利」を明記すべき、と一部の消費者団体が強く求めてきたことを受けたものだろう。

 消費者庁はこれまで検討会などで、もし「消費者の権利」を入れるとすれば、一般的な消費者の権利とは区別して消費者基本法の中に定義された「消費者の権利」を入れることになり、そうなれば個別の法律に「消費者基本法に基づいて」と別の法律を盛り込むことになるため、立法技術的に問題が出てきて難しい、と説明してきた。あわせて「消費者の権利」を入れるのであれば、消費者基本法第2条でその表裏ともなっている「自立の支援」も必ず入れなくてはならないとも言ってきた。

 そして最終段階になって、立法技術的には難しかったはずの消費者基本法の一文が盛り込まれることになり、「消費者の権利」と「消費者の自立の支援」が新法の基本理念に入った。

 さらに、1つめの基本理念とバランスをとるように、2つめの基本理念には「小規模の食品関連事業者の事業活動に及ぼす影響等に配慮」という一文が入っている。これも初めて見た。報告書の中では、事業者の実行可能性や、表示のためのコストについて配慮することが様々な形で盛り込まれているが、事業者の規模を限定してはいない。それにしても小規模とはどのくらいか、小規模だけに配慮すればいいのだろうか。

●「安全性確保の情報提供を最優先」はどこへ
 ところで新法の第1条、一番大事なこの法律の目的は「食品を摂取する際の安全性の確保及び自主的かつ合理的な食品の選択の機会の確保」となるようだ。結局のところ、食品表示一元化検討会報告書で強調された「食品の安全性確保に係る情報の消費者への確実な提供(最優先)」とした優先順位は盛り込まれず、選択の情報と並列の扱いとなった。

 食品表示一元化検討会は、少しでもわかりやすい食品表示にするため、安全性を優先として現行の表示項目の重要性を整理する新法とすべき、とした。これが報告書の最も大きな意味だったと思っているのだが、それが新法の文案のどこにもない。

 消費者庁はこれまで「新法は、2012年8月にまとめた食品表示一元化検討会報告書の内容を踏まえて、立案作業を行う」と説明してきた。しかし、今回の骨格ペーパーを眺めてみると、検討会報告書やこれまでの議論を踏まえていない内容がたくさん加わっていることがわか る。

 法案作成の段階では、法的な整合性の目線が入るので、検討会の報告書どおりにいかないこともあることは理解できる。しかし、新しい法律を作る際に、きちんと公の場で検証されないまま、国民の意見も聞かないままに決められてしまうことには、危機感を感じる。

 食品について新制度を導入する際、厚労省と農水省はその手続きを丁寧に進めるようになった。たとえば厚労省が2006年に施行した「残留農薬等にかんするポジティブリスト制度」では、3年かけて審議会や部会で20回ちかい審議を重ね、基準案は最終案を含めて3回公開した。その都度、国民への意見募集を行い、それぞれの意見に回答を付けてその結果を公表した。

 食品表示制度もそうだ。農水省と厚労省の「食品の表示に関する共同会議」は、2002年から7年間で45回開催されている。この会議の結果をもとに、表示基準の改正が行ってきたが、両省はこの会議で決まった内容の範囲を超えて、いつの間にか新しいことを決めるということはなかった。この最終回で事務局は「共同会議は、きちんとした形で一つひとつ透明性を確保して議論し、なおかつきちんと結論を導いてきた。この役割を終えて、消費者庁にバトンを引き継ぐ」とまとめている。果たしてバトンは引き継がれただろうか。

 食品表示の法律は戦後できて、様々な経緯を経て今に至っている。それを変えるにはどのような影響があるのか、その検討のプロセスが公開され、共有されることが大事である。新しく創設された消費者庁だからこそ、今後は進め方を大事にして透明性を確保してほしい。広く国民に情報を公開して意見を聞き、十分に説明をしてほしいと願うのである。(森田満樹)

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