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GMOワールドⅡ|宗谷 敏

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一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
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油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

暗礁に乗り上げたEUにおけるGM作物栽培承認

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2013年12月23日

 2013年12月13日、欧州裁判所の一般裁判所(General Court旧第一審裁判所、司法裁判所Court of Justiceに次ぐ高位の法廷)は、BASF社のGM(遺伝子組換え)ジャガイモ「Amflora」への欧州委員会による栽培・販売承認を取り消す裁定を下した。

 「Amflora」は、工業用でんぷん(製紙と接着剤生産)とでんぷん副産物の飼料利用を目的としている。食品利用は許されてはいないが、フードチェーンへの意図しない混入を考慮して食品安全性もEFSA(欧州食品安全機関)により評価され、食品には0.9%未満の閾値が設けられている。

 2010年3月2日、欧州委員会保健・消費者総局が「Amflora」の栽培承認を公表した。例の通り、欧州委員会の栽培承認提案が、関連する常任委員会と閣僚理事会において賛・否とも議決数(加盟国による加重投票の2/3)に達せず、欧州委員会がデフォルト承認した形だ。

 しかし、2010年5月27日、この承認決定を不服とするハンガリーが欧州裁判所へ提訴、同年9月にはオーストリア、ルクセンブルグ、フランスとポーランドもこれに同調した。今回の一般裁判所裁定は、ハンガリーの主張を認め、欧州委員会の栽培承認を取り消した。欧州委員会としては、司法裁判所(最高裁に相当)への控訴が可能だが、今のところ今回の判決を吟味中とスポークスマンが述べている。

 実のところ、この判決の実態市場への影響は無い。「Amflora」は、2010年と2011年にドイツ、チェコ共和国とスエーデンにおいて少量が栽培されたが、2012年1月16日のBASF 社によるEUからの撤退発表に伴い「Amflora」種子も撤回され、2012年以後は域内栽培が行われていないからだ。

 今回の一般裁判所裁定は、欧州委員会に、GM作物認可のための手順に関して手続き上の規則違反があったと判断している。申請から承認まで実に13年を要した「Amflora」のストーリーは、背景を含め複雑の一語に尽きるが、経緯を辿りながら少し詳しく見てみよう。

 欧州委員会は、EFSAによるリスク評価に基づき、指令(Directive)2001/18/EC1 (環境放出利用に関する指令)に従い、2006年11月(一般裁判所裁定では2007年となっている)に始めて「Amflora」 の栽培・販売の承認を提案した。

 これは「原則的に」栽培申請を出願した加盟国(この場合はスエーデン)のためだと一般裁判所裁定にはあり、他の加盟国に対しては平たく言えば「お願いベース」だ。しかし、実際には共通農業政策(CAP)関連の指令を除き、全加盟国が指令の対象となってくる。従って、加盟国は同意決定に対する反対を提起する(この場合はハンガリーなど)かもしれない。

 次に、欧州委員会は、規則(Regulation)1829/20032に従い遺伝子組換え食品と飼料利用に関する承認も提案した。EU(全加盟国)レベルで適用される規則には、それ自体に執行力があり、加盟国内における個々の立法手続きを必要としない。

 これらの承認提案がセットで提出されたなら、各々を所管する常任委員会や関連閣僚理事会がEFSAの意見をベースに審議を行い、結論が出せない場合は欧州委員会に戻りデフォルト承認となるのが通常の流れだ。

 「Amflora」 の栽培承認は、2006年12月の規制上の常任委員会と2007年7月の農業閣僚理事会で共に合意に至らず、デフォルト承認をすべき欧州委員会では所管するStavros Dimas環境担当委員(ギリシャ)が、2007年9月21日に「Amflora」の安全性に疑義を呈する反乱を起こす。

 一方、「Amflora」 の食品と飼料利用承認も、2007年10月の常任委員会と2008年2月の農業閣僚理事会で合意に失敗し、欧州委員会の「Amflora」承認プロセスは大混乱に陥る。行き詰まった欧州委員会は、2008年5月7日に「Amflora」などに用いられる抗生物質抵抗性マーカー遺伝子の使用(反対の根幹をなす懸念)について新たに整理統合する科学的知見を準備するようにEFSAに求める。

 欧州委員会が求めた2008年9月30日の期限までに、抗生物質抵抗性マーカー遺伝子の使用に関するEFSAの答申は目処が立たず、2009年3月31日に期限が延長され、この間承認の遅延に怒ったBASF社は2008年7月24日に第一審裁判所(当時)に欧州委員会を提訴する。

 2009年6月11日に、 EFSAは漸く抗生物質抵抗性マーカー遺伝子の使用について最終の肯定的意見を発表する。欧州委員会は、従来環境総局の専権であった栽培承認をJohn Dalli保健・消費者政策委員(マルタ、2010年2月10日就任)が率いる保健・消費者総局に移譲し、Dalliは2010年3月2日に「Amflora」の栽培承認を電撃的に発表する(因みに、Dalliはマルタ実業家による贈収賄に関与した不正疑惑により2012年10月16日辞任)。

 さて、この承認プロセスのどこに違反があったと、一般裁判所は判断したのだろうか?欧州委員会は、2005年のEFSAによる肯定的意見に基づいて承認プロセスを進め、2007年時点でデフォルト承認が可能だったが、EFSAの科学的見解に反対する意見に遭遇し、確認のために整理統合する科学的意見を改めてEFSAに求めた。EFSAの見解は、2009年6月11日に提出され、これを採択した欧州委員会は、2010年3月2日に「Amflora」を栽培承認した。

 しかしながら、このEFSAの整理統合された意見に基づく承認ドラフトと、ハンガリーなどによる少数反対意見の存在は、共に担当常任委員会と関連閣僚理事会に提出されていない。担当常任委員会と関連閣僚理事会では、2005年のEFSAによる肯定的意見のみに基づいた承認ドラフトで審議が行われた。そして、欧州委員会がデフォルト承認した承認ドラフトの新バージョンは、以前のものとは異なる。

 従って、EFSAの整理統合された意見は新しい実質的な査定として一から扱われなくてはならないし、新たな承認ドラフトが審議されたなら、常任委員会と閣僚理事会の結論が異なっていた可能性がある。それらの状況により、欧州委員会はその手続き上の義務を果たしておらず、一般法廷は正当性を疑われた決定を無効とする。

 なんともややこしい話であるが、一言で言えば欧州委員会によるデフォルト承認は、そこに至るまでの一連の承認プロセスとは、明らかに異なった条件に基づくから認められないと一般法廷は結論した訳だ。

 この裁定は、「Amflora」自体に対するインパクトはないとしても、欧州委員会による今後のGM作物栽培承認作業に与える影響は無視できない。欧州委員会は、新たに害虫抵抗性・除草剤耐性GMトウモロコシ1507系統(Pioneer社とDow AgroScience社が申請)の栽培承認を提案しているが、議長国リトアニアは、2013年12月13日開催の環境閣僚理事会のアジェンダからこの議題を排除した。

 2010年に提案されたGM作物栽培の可・否を加盟国に任せる欧州委員会案以来、GM栽培承認プロセス改正は3年以上にわたり迷路にはまり込んでいる。2014年1月1日にリトアニアとEU議長国を交代するギリシャと2014年10月末に任期が切れる現欧州委員会が、これらの問題にどう結着をつけるのかが注目される。

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