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GMOワールドⅡ|宗谷 敏

どんなコラム?
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
プロフィール
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

遂に決着を迎える米国GM食品表示騒動を巡る七番勝負

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2016年7月15日

米国連邦議会上院のゆるーい全国GM義務表示法案S. 764)が、7月7日上院、7月14日下院において各々可決された。およそ7年間に及ぶ米国のGM食品表示フィーヴァーも、絵に描いたような政治決着で漸く大団円を迎えつつある。そこで、全米が騒いだ!この問題について少し視点を変え、いくつか対立軸を置いて検証してみたい。

<第1ラウンド ヴァーモント州 Vs. GMA>

2014年5月、全米初となるヴァーモント州の条件無し独立型GM義務表示法Act120が成立した。Act120は、乳、卵、肉、アルコール飲料などを除き、州内で販売される包装加工食品に閾値0.9%でGM成分表記を義務づけた。タイムラインは、2016年7月1日発効、猶予期間6カ月、消費者による訴訟は1年間禁止となる。さらに、違反した場合、1ブランド当たり1日最高1000ドルの罰則規定に食品製造業界は震撼する。

2014年6月12日、GMA(Grocery Manufacturers Association:全米食品製造業者協会)、Snack Food Association(スナック食品協会)、International Dairy Foods Association(国際乳製品協会)及びNational Association of Manufacturers(全米製造業者協会)が、Act120の合憲性に異議(憲法修正第1条、修正第5条と貿易条項に違反)を表明して、ヴァーモント州連邦地方裁判所に訴訟を提出した。

2015年4月27日、ヴァーモント連邦地裁は、GMAなどの提訴に対し、Act 120の2016年7月1日実効を阻止する裁判所からの事前勧告要求を却下する(合憲性に関する訴訟は継続、現在も係争中)。2015年5月6日、GMAは、この判決を不服とし、連邦第2巡回区控訴裁判所(ニューヨーク市)に控訴した。

予め業界からの訴訟対応予算まで組んでいたヴァーモント州政府は、GMAと激しいバトルを展開しながら、ヴァーモント検事総長を中心にAct 120の発効に向けて着々と法整備を進めてきた。形成不利と見た食品業界は、Act 120の連邦議会による上斬り法案を求めて陳情を重ね、下院を動かすのに成功したが、上院でスタックしたまま7月1日を迎えてしまった。

<第2ラウンド ヴァーモント州 Vs. 連邦議会と食品業界>

ヴァーモント州のAct120発効とトリガー付きGM食品表示法を成立させているコネチカット州やメイン州の動きや、さらに多くの州がGM食品表示や規制を検討している状況は、農業・食品業界の危機感を招く。

州毎に各々細部が異なる表示規制のパッチワーク乱立に、食品製造業界は個別に対応できないし、実施コストやマンパワーで莫大なロスを生じ、食品市場全体に大混乱を招く、という懸念だ。激しいロビーイングは、連邦議会を突き動かす。

従って、議会の法案の肝は、表示制度そのものよりむしろ州などの地方行政がGM表示などの規制を行うことを一切禁じ、発効済みのヴァーモント州を含め、現在成立している州による規制を全て無効とすることにあった。アラスカ州が成立させたGMサケ義務表示も無効にされると、同州選出の上院議員は、ヴァーモント州選出Bernie Sanders上院議員などと共に上院法案に激しく反対した。

Act120発効を控えて、大手ナショナルブランドからは、単一州の表示制度に対応は出来ないから、自社一部製品に全国レベルでGM表示してしまおうという動きが出てくる。1月7日のCampbell Soup社を皮切りに、Mars社、General Mills社、Kellogg社、Dannon社などがフォローする。

一方、Coca-Cola社などがヴァーモント州内の食料品店から一部製品を撤収する道を選ぶ。食料品チェーン店Price Chopper社は、ヴァーモント州内店舗から3,000商品を撤収させ、早くも懸念されていた食品市場の混乱が起きている。

ヴァーモント州やNGOが議会やUSDA(米国農務省)に対し訴訟を起こす可能性は残るが、ヴァーモント州のAct120は死ぬ。Act120は、結局連邦政府のGM食品(義務)表示を生み出させ、不謹慎な言い方を許されるなら小さなヴァーモント州による自爆テロとして、今後は記憶されるのだろう。

<第3ラウンド 連邦議会下院法案 Vs. 上院法案>

2015年7月23日に下院が可決した法案H.R. 1599は、食品企業による任意表示だ。こちらが成立した場合、GM表示推進消費者グループは、個別企業に対しGM製品表示を記載するよう圧力をかけることができる。しかし、上院の義務表示のオプションに従い製品表示を避けてマークやQRコードを選択した食品企業に対し、コンプライアンス面からもそれ以上の要求は押しにくい。上院法案は義務表示ではあっても殆どの消費者はマークやQRコードを無視するだろうから、情報開示のステルス性で企業にアドヴァンテージがある。

強力なロビーグループである農業セクターは、上院法案についてパーフェクトではないが問題解決に向けて最良のオプションを提供すると指摘する。American Farm Bureau Federation(アメリカの農場局連合)会長は「この法案はパーフェクトではないが、科学的に安全だと証明された成分に対する紛らわしい表示群と50の異なる州法のカオスを回避するだろう」と述べ、ASA(アメリカ大豆協会)会長も「上院法案はパーフェクトではないが、法律化できる最良の法案です。可決成立させることができないパーフェクトな議案(下院法案)は、農家と消費者のために何も達成しません」とコメントした。

「パーフェクトではない」~すべての周辺議論を捨象してしまい、純粋に法律文そのものとして論じた場合、妥協の産物である上院法案は下院法案H.R. 1599はもとよりおそらくヴァーモント州法Act 120にさえも劣る。なぜなら、上院法案は、精密設計図(例えば、表示対象、閾値、罰則・・・)はUSDAが今後2年で描きなさいという、あくまで設計仕様書的性格のものだからである。各州パッチワークを塞ぐ連邦ブランケットはまだ寸足らずか穴だらけで、USDAの裁縫仕事待ちなのだ。

<第4ラウンド 連邦議会共和党 Vs.民主党>

3月16日、共和党の上院法案S.2609を起案した農業、栄養と林業委員会Pat Roberts委員長(共和党、カンザス州)による最初のCloture(討論終結動議)は失敗した。この時、S.2609はまだ任意表示法案であった。

対案の義務表示法案S. 2621を擁し、S.2609への反対票を投じた民主党議員41名をどれだけ寝返らせS.2609支持48票(共和党45+民主党3)に上積みさせてClotureに必要な60票を満たせるかを、Pat Roberts委員長と農業、栄養と林業委員会民主党トップのDebbie Stabenow上院議員(ミシガン州選出)による協議が継続する。

結果として、Grist紙のNathanael Johnsonが指摘した通り、共和党は任意表示から義務表示とすることで妥協し、民主党は製品パッケージ表示欄への直接表記から、スマートフォンによるQRバーコード走査なども認めるという表示方法の柔軟性で妥協した。

この超党派の妥協案に対しては、ヴァーモント州選出の民主党議員Bernie Sanders議員とPatrick Leahy議員を先頭にコアな民主党議員たちが断固阻止を画策したが、両党妥協案支持派による切り崩しが成功する。かくして7月6日の議案討議時間を30時間に制限するCloture投票が、賛成65票(共和党47+民主党18)対反対32票(共和党5票を含む)で可決された。翌7月7日の単純過半数による最終決選投票では賛成63票対反対30票で共和党ベースの上院義務表示法案を含むS.764が可決され、下院に送られることになった。

夏休み入り前の7月15日までの決着を急ぐ下院では、7月12日に議事運営委員会がS.764審議を開始し、全体投票実施に合意した。7月14日に行われた下院投票は、賛成306票(共和党205+民主党101)対反対117票で可決され、法案S.764はObama大統領の署名に回された。大差がついたのは、表示義務化に強硬に反対してきた農業委員会委員長がS.764を支持し、任意のH.R. 1599やS.2609を認めなかった多数の民主党議員たちがS.764支持に回った結果である。

<第5ラウンド FDA Vs. USDA>

食品表示行政を専権してきたFDA(食品医薬品局)は、6月27日上院法案に対する(技術的)意見書を上院宛に提出した。FDAとしては、USDAが表示行政に介入してくることへの懸念や不快感が透けて見える内容である。

テクニカルな問題として特に取り上げられているのは、表示対象食品の範囲。上院法案は、表示すべきGM食品の定義として、「contains genetic materials that has been modified through in vitro recombinant DNA techniques(人工的環境で組換えDNA技術を通して修正された遺伝物質を含む)」食品としている。これだと、高度に精製された植物油、砂糖、でんぷんなどは表示対象にならない、という警告だ。

この議論には、上院法案に反対するオーガニックや消費者グループも乗ってきて、表示対象食品が少ないと上院法案を批判した。これらに対し、USDAは7月5日に反論し、上院法案は植物油やHFCS(異性化糖)のような精製された成分も対象とし、ヴァーモント法より推定24,000以上の食品に表示が必要となると指摘して沈静化を計る。上院法案では、法制化に当たってのディテールは全てUSDAに一任されており、今後の2年間USDA内部でどのような検討がなされるかはまだ分からないが、ともかく結論は「USDA様の言う通り」だから、局地戦でもFDAには勝ち目はない。

FDAのスタンスは一貫しており、非組換え食品と安全性に差異がない(安全性評価済み)GM食品に表示はなじまないし、ましてや警告とも誤解されかねない義務化はとんでもない、というものだった。GM食品表示に関する議会のヒヤリングに呼ばれた時も「FDAには食品安全性に直接係わる取り組むべき課題が山積している。安全性とは無関係のGM食品表示などに割くリソースをFDAは持たない」と堂々主張してきた。

上院法案が、FDAの顔を立てた部分は、「GM食品の安全性は政府により確認されており、科学的には安全なものだ」という意味のそもそも条項を含めたことだろう。これは表示の有無とは別に政府の基本姿勢を明記したので、案外重要な部分だと思われる。

<第6ラウンド 健康安全性情報 Vs. 知る権利・選択する権利>

これは、GM表示論争の根幹を成す論戦であり、諸氏による論評・意見は枚挙の暇もないが、簡単に論点整理しておく。GM表示推進派が主張する消費者の「知る権利」に対する反論は一般的に難しい。しかし、それはお題目に過ぎず、実はGM食品に「ドクロと十字骨」印をつけることで、一般消費者の誤解や不安を煽り、GM食品を市場から駆逐しようとする(オーガニック業界などによる)作戦だという批判もある。

「選択する権利」については、GM(あるいはnon-GM)表示は、その食品のいかなる劣等(または優越)とも結びついてはいないため選択する意味を持たず、選択したと思いこむのは幻想(優良誤認)であり、そのために表示するコストをかけ、リソースを浪費するのは非合理でムダだという批判がある。

GM食品の安全性については科学的コンセンサスがあり、栄養、健康、安全性になんら関係していない表示を義務づけることは支持できないとするのが、科学界(米国ではNAS報告書)やFDAのスタンスだ。もちろんその安全性は絶対を意味せず、非組換えのカウンターパートと比較した場合それ以上のリスクはない、という慎重・限定的な物言いが常にされる。言い換えれば、GM食品が有害であることを示す堅実な科学的データはない、ということになる。

ここから派生(もしくはループ)するのが、実質的同等性に基づく現在の安全性評価法が妥当か、安全性評価はプロダクトベースかプロセスベースか、(既に20年の食経験があるが)長期摂取した場合の安全性はまだ不明ではないか、1800年代のJohann Mendelに始まる選択育種の時代から遺伝子(あるいはDNA)の変更は行われてきた、いや、異なる生物からの遺伝子導入は違うだろう、などいうどれも一筋縄ではいかない議論である。さらに、最近は新興の遺伝子編集技術、NBTなどを巡って、規制対象であるGMの定義さえ揺らぎ複雑化してきている。

GM食品表示を実施するためには、必ずコスト(額の多寡についても諸説ある)を伴う。安全性に関係しない表示コストをすべての消費者が負担するのはおかしい。スキ・キライだけの問題なら、嫌いな消費者だけが選択できればいいし、市場には彼らが購買可能なオーガニック食品(主原料は非GM農産物)やNon-GM食品が既にある。わざわざGM表示を義務化する必要はないというのもよくある意見だ。

<第7ラウンド そして究極の勝者は?>

筆者の見立てに過ぎないが、任意表示に拘った立法府と業界、文言表示義務化を渇望した消費者(団体)と三方一両損のようなこの帰結における真の勝者は、USDAのTom Vilsack長官ではないかと思う。Vilsack長官は、既に1年前からQRコードを使ったGM食品表示を推奨してきた。従って、2015年12月にGMAに落とし所としての「SmartLabel」イニシャティブを提案させたと推測するのは自然だ。また、連邦議会上院のS.2609に対し「もう義務表示にしないと待ちませんよ」と、上院両党のキーパーソンたちを説得したのもVilsack長官である。

さらに遡れば、Vilsack長官は2015年5月に、USDAによるNon-GM食品に対する任意の公的認証と表示を画策し成功している。
これは、政府が手をこまねいていたGM食品行政にUSDAによる楔を一本打ち込んだということだ。そして、今やS.764の成立により、不幸にも長官交替人事などでゴタついていたFDAが専権としてきた食品表示行政の一部を見事分捕ってしまう。省益を重視するなら、官僚としては最高の栄誉?ではないのか。

1999年から2007年までアイオワ州知事を務め、2009年にUSDA長官に就任したVilsack氏(65歳、民主党)は、次期政権ではUSDA長官に留任しないと宣言しているが、歴代農務長官の中でも「稀代の寝業師」ではなかったのかと筆者は考えている。

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