科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

速報:未承認GMコムギ騒動リターンズ~アルゼンチン輸出コムギに混入、ワシントン州でも発見

宗谷 敏

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韓国がアルゼンチンから輸入した飼料用コムギに未承認GM(遺伝子組換え)コムギが混入し、米国では2013~14年のオレゴン州とモンタナ州に続き、ワシントン州の休耕地から未承認GMコムギが新たに発見された。これらの事件について速報する。

<オレゴン州とモンタナ州の過去例>


2013年5月29日、USDA/APHIS(米国農務省. 動植物検疫局)が、オレゴン州の休耕地からMonsanto社の未承認除草剤耐性GMコムギMON71800が発見されたと発表し、日本でも短期間米国産コムギの輸入を停めるなど大騒ぎになった。この件は、Foocomでも松永和紀氏が解説し、白井洋一氏がフォローアップしている。

その後、翌2014年9月26日にUSDA/APHISから、原因については不明とする最終報告書が発表され、事件は迷宮入りした。この報告書では、同時にモンタナ州でもモンタナ州立大学の試験圃場からMON71800が発見されたという報告も掲載された。この件は、白井氏が続報されている。

これらのケースでは、農家の休耕地と大学の試験圃場という流通・貿易ルートには回らない場所からの発見だったため、米国側関係者の対応にもやや軽視した雰囲気も感じられたが、輸入国側が総毛立ったのは無理からぬことだったろう。

<そして、アルゼンチンケース>

2016年7月26日、韓国MFDS(旧KFDA、Korea Food and Drug Administration:韓国食品医薬品安全庁)は、7月12日に到着したアルゼンチンからの輸入飼料用低グレードのコムギ72450トンから、未承認GMコムギMON71800を発見したと発表し、全量の輸入を拒否した。

7月26日Reuters update版によれば、このコムギを積来した本船はマーシャル諸島共和国船籍のバラ積貨物船ANTONIS号で、5月にアルゼンチンのサンロレンツォ港(サンタフェ州とパラナ州の州境にある河川港)とバイアブランカ港(ブエノスアイレス州)において、当該コムギを積み込んだ。

韓国平澤港と群山港で荷揚げした後、韓国政府の輸入拒否により全量を積み戻して7月22日に群山港出港し、オーストラリアのグラッドストン港に向けて現在航海中(8月4日到着予定)だという。シッパーはオランダの穀物商社Nidera社、輸入者は韓国Nonghyup Feed社である。

<さらに、ワシントン州ケース>

アルゼンチンコムギ問題が燻っていた韓国では、7月29日付の聯合ニュースに驚倒する。韓国政府が、米国USDA/APHISからのワシントン州非商業畑(休耕地)において未承認GMコムギが発見されたとの連絡を受け、7月29日から米国産コムギの輸入を停止し、流通・販売も一時停めるだろうという内容であり、同日付のソウル発Reutersも、これを確認した。

この事件は、7月29日USDA/APHISが公表し、Reutersはじめ米国メディアが沸騰しつつある。USDA/APHIS公表と、各紙報道を整理すると、ワシントン州西部の小麦農家が、2015年からの休耕地にGMコムギ22本が成育しているのを発見した(おそらく、新規耕作の準備に除草剤グリホサート=もっとも知られている製品名はラウンドアップ=を散布した結果、枯れていないコムギを発見したと思われる)。

調査の結果、このコムギはMonsanto社の除草剤耐性GMコムギMON71700であると確認された。過去オレゴン州とモンタナ州で発見されたMON71800とは組換えDNAの挿入部位が異なる(姉妹)品種である。これらの品種に含まれるCP4 – EPSPS タンパク質についてはFDAが評価し、いかなる健康危害を起こすことはないだろうと結論している。

USDA/APHISは、この農家が収穫したコムギをフル検査し、GMコムギが貿易ルートに混入しないために万全の措置を講じている。Monsanto社は商用コムギ出荷にMOM71700を確認する検査法を開発し、輸入国が使えるようにした。USDAは、この検査法と感知レベル(因みに、MOM71800の場合には、1/200粒だった)を実証した。

APHIS は、2016年1月1日以降(新規)GMコムギの開発者に試験栽培のための許可証を申請するよう要求している。

以上が、現在分かっている事実関係だが、謎は深まるばかりというのが、筆者の感想だ。
GMコムギについては、研究・試験栽培は行われているが、世界で商業化はされていないというのが、関係者・専門家の一致した意見である。

日本の対応はどうなるのだろうか。アルゼンチン-韓国については、我が国の輸入コムギの殆どが米国・カナダ・オーストラリアに限定されるため、静観する余裕もあったろうが、ワシントン州ケースではなんらかの影響を避けられないだろう。韓国のように輸入を停止すれば、貿易上の混乱は必至である。

2013年以来、米国産コムギに対するMOM71800の輸入モニタリング検査は継続しており(2016年度は59件を予定)、これまで発見されてはいない。今後、MOM71700の全ロット検査を追加することは考えられるが、一時的にせよ輸入や流通を停めるのは避けたいところだ。しかしながら、SNSでは「米国産コムギの全量はGMである」といった誤報が平気でまかり通っているお国柄、一般メディアも含め冷静な対応が望まれる。

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい