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農と食の周辺情報|白井 洋一

どんなコラム?
一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介
プロフィール
1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

儲かるし需要はあるのになぜ有機穀物栽培は増えないのか?

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2015年11月11日

 米国の有機農産物の売り上げは右肩上がりの成長だ。しかし、テーブルクロップ(野菜や果物)や乳製品は好調だが、トウモロコシ、ダイズ、小麦などフィールドクロップの栽培面積はそれほど増えていない。需要はあるのになぜ? 米国農務省・経済調査局(2015年11月2日)は「儲かる可能性はあるのに、有機穀物の栽培面積は低いまま」と題するレポートを発表した。

高く売れてもそれだけでは
 米国の有機農産物では、トウモロコシやダイズの国産品が足りず、多くを海外から輸入していることは、宗谷敏さんのGMOワールドII「生産と需要増に官・民が沸く米国オーガニック市場だが供給量に懸念も」(2015年4月20日)でも紹介している。

 今回は、収量(面積あたりの収穫量)、生産に要するコスト、価格、そしてトータルで見た純利益を比較した農務省経済学者の分析だ。

 3大フィールド作物として、トウモロコシ、ダイズ、小麦をあげている。有機栽培面積を最近3年間(2011/2014年)で比較すると、トウモロコシは24%、ダイズは3%伸びているが、小麦は3%減っている。1995年からの統計でも、ダイズは2001年がピークでほぼ横ばい、小麦は2008年がピークでその後減り続けている。トウモロコシは順調に増えているのだが、このレポートでは「まだトウモロコシ全体の1%程度、米国は世界トップのトウモロコシ栽培国なのに」と、この程度の伸びでは不満なようだ。

 収量はブッシェル(約36リットル)/エーカー(約0.4ヘクタール)で示しているが、トウモロコシは118対161、ダイズは31対47、小麦は30対44で、いずれも有機栽培は慣行栽培(遺伝子組換え品種を使った栽培も含む)より、3割程度収量は落ちる。

 生産コストの総計ではどの作物でも有機栽培の方が慣行栽培よりも高い。トウモロコシの場合、有機の方が高いのは、労働(人件費)、燃料代、資本、認証費用など。慣行の方が高いのは、土地代、種子代、肥料代、農薬代だ。有機で目立つのは人件費で慣行の約3倍かかっており、燃料代もかかる。燃料代が高いのは除草を機械でやるためで、人件費も除草や収穫作業に人手がかかるからだ。

2011~2014年の販売価格のプレミア(割り増し分)は1ブッシェルあたり、トウモロコシは5~10ドル、ダイズは10~15ドルと有機の方がかなり高いが、小麦は1~4ドルとそれほど有機にプレミアはつかない。

これらの値から差し引きした純利益は、1エーカーあたり、トウモロコシは51~66ドル、ダイズは22~41ドルと有機の方が儲かることになる。一方、小麦はマイナス2~9ドルで有機の方が儲からない。小麦は有機でもそれほど高く売れないため、低い収量と高い生産コストをカバーできないのだ。 ここでは有機家畜のエサになる飼料用小麦について扱っているが、2008年をピークに有機小麦の栽培面積が減り続けている最大の原因は、割り増し価格のメリットがないことのようだ。

小麦はともかく、ダイズは有機の方が儲かるのに、なぜ栽培は増えないのか? (1)有機栽培用の種子確保が難しい、それぞれの土地にあった品種が少ない、(2)雑草や病害虫の管理が大変、 (3)販路を自分で開拓しなければならないなどを理由にあげている。

 (1)は事実だろう。米国認証有機では、使う種子も農薬、化学肥料を使わずに育てたものでなければならないし、トウモロコシやダイズでは、組換え品種が主流になったので、地域の気象、土壌にあった非組換えのローカル品種の開発が停滞しているのは事実だ。しかし、(3)は最初は大変だろうが、一度販路ができれば問題ないはずだ。今年はどこに売った方が儲かるかと毎年様子見をするのなら別だが。

  (2)の栽培管理が一番大変だと思う。レポートでは米国の北部は病害虫が少ないので化学農薬を使わない有機栽培には適しているはずと書いているが、これは生産現場をよく知らない経済学者の推論だ。確かに南部よりは病害虫は少ないが、年により大きな被害がでる。

 雑草防除に要する人件費や燃料代の高さからわかるように、雑草管理の大変さも有機栽培がそれほど増えない原因だ。遺伝子組換え品種を使って除草剤を散布しても、不耕起、保全耕起栽培による河川への土壌流出防止ということで補助金も出るので、あえて栽培管理の大変な有機農業をやらなくてもと考える農家も多いはずだ。乳製品や肉類など有機畜産物は、エサも有機栽培飼料でなければならないので、トウモロコシなど有機フィールド作物の需要は大きいのだが、プレミア価格が相当高くならない限り、米国産はそれほど増えないだろう。

参考データ

日本も有機の栽培面積は増えない
 日本の有機栽培面積(2013年)は約2万ヘクタール(ha)、全農地の0.4%だ。そのうち有機JAS(日本農林規格)の認証を受けているのは約半分の9900haで、畑(4900ha)、水田(2900ha)、果樹 (1100ha)、牧草(800ha) の順だ。

 農水省は2014年に5年で有機栽培面積を2倍に増やし約1%にする目標をかかげたが、栽培面積は伸びないのではないかと思う。有機農産物、食品の人気は高く、需要はあってもだ。雑草管理だけでなく、高温多湿な日本では病害虫も多い。有機農業は化学農薬、化学肥料を使ってはいけない栽培法なので、どんなに病害虫が多発しても農薬はいっさい使えない。1回でも使えば有機農産物として売ることはできない。

 農水省は化学農薬や化学肥料の使用を減らした栽培に補助金をだす環境保全型農業直接支払をおこなっているが、補助金をもらえるのは有機農業だけではない。農薬や化学肥料の使用量を慣行栽培に比べておおよそ半減した「特別栽培」や、それより数値制限は緩いが農薬、肥料を減らす取り組みを続けている「エコファーマー」認定でも、10アールあたり最高8千円の補助金がでる。減農薬、減肥料のほかにカバークロップ(雑草を抑える被覆作物)や冬季湛水なども組み合わせると1万6千円の補助金がでる制度もできた。こういった栽培法が環境の保全にとってほんとに効果があるのか、税金を投入するだけの価値があるのかという議論もあり、さらに検証が必要なのは確かだが、あえて制約の多い有機農業をやらなくても、それなりの環境支払いが受けられる。消費者の信頼にこたえるための厳格な有機農業は生産者にとっては多くの制約と厳しい労働条件を伴うことになるので、日本ではそれほど増えないだろうと思う。

参考 農水省の環境保全型農業直接支払交付金制度

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